連載:第1回 100人組織の作り方
経営者の仕事は働く人の「ぼんやりとした不安」を解消すること、メゾンカイザーの組織作り
フランスの伝統製法にこだわったパン屋「メゾンカイザー」を全国約30店舗展開する株式会社ブーランジェリーエリックカイザージャポン。代表取締役の木村周一郎さんは元祖あんぱんで知られる「銀座木村屋總本店」の御曹司です。かつて「日本では定着しない」と言われた本場フランスパンの味をどのように広めていったのでしょうか。常識を打ち破る経営術と組織づくりについてお聞きしました。
株式会社ブーランジェリーエリックカイザージャポン
代表取締役 木村周一郎さん
1969年生まれ。慶應義塾大学法律学部卒業後、千代田生命保険相互会社に入社。その後、唯一のFDA(米国食品医薬品局)研究機関である米国立製パン研究所へ留学。ベイキングサイエンスを研究する。ニューヨーク、フランスにて修行を積んだ後、その腕前と経営センスを見込まれ、エリック・カイザー氏の在日パートナーとして2000年に株式会社ブーランジェリーエリックカイザージャポンを設立。翌2001年、メゾンカイザー第一号店を東京都港区高輪にオープン。
クロワッサンは売れるのに、メインのバゲットが売れない……軌道に乗るまで
──まずは木村さんのご経歴から改めて教えていただけますか?
木村周一郎さん(以下、木村): 私はあんぱんで知られる木村屋總本店の家系に生まれましたが、大学卒業後は生保業界に進み法人営業に携わっていました。6年ほど経ったある時、父とパン業界の重鎮の方々がお酒の席で「パン作りを知らない人間に最高の英才教育を施したら最強のパン屋ができるんじゃないか」と冗談混じりで話していたそうなんです。適任者を探していたタイミングで私がちょうど会社を辞めたため、白羽の矢が立ち、パン作りに携わることになります。
とはいえ、当時の私はパン生地にも触れたことがない全くの素人でした。そこでまずは横浜にあるパン屋で2か月間修行させてもらい、アメリカの食品医薬品局(FDA)の研究機関である米国立製パン研究所(AIB)に留学しました。そこでパンに関する理論や衛生管理を学び、当時ニューヨークで評価の高かった「エイミーズブレッド」に勤務します。そしてフランスの著名なパン職人エリック・カイザーに師事したのち「パートナーにならないか?」と打診を受け「メゾンカイザー」出店のパートナーシップを結ぶことになりました。
──パン屋の家計に生まれて家業を継がなかったことの葛藤は?
木村: 会社員時代は複雑な思いもありました。ただ、修行中に生保時代のお客様から「頑張れ! もし駄目だったらうちにこい」と励ましをいただき、パン作りを徹底的に学ぼうと決意が固まりました。例えるなら「これ以上続けたら死ぬぞ」とボクシングのリングにタオルが投げ込まれるまで、自分を極限まで追い込んでみようと思ったんです。
──その後帰国され2001年4月に1号店をオープンされました。立ち上がりはいかがでしたか?
木村: クロワッサンは売れるのですが、フランスパンが全然売れませんでした。1日100本ほど焼いても、売れるのは10数本のみ。周りに相談してみると「日本人は咀嚼する力が弱いから口に合わない」というのです。でも日本の食文化を自分なりに検証してみると、堅焼きのおせんべいやするめを当たり前に食べていますよね。つまりフランスパンの人気が出ないのは咀嚼の問題ではなく、「フランスパンの本当の食べ方を知らないからでは?」という仮説に至りました。
フランスと日本ではパンを食べるシーンが全く異なります。日本では食パンやロールパン、菓子パンや惣菜パンのように、柔らかくて単体で十分食事になるパンが好まれます。フランスでは、フランスパンは食事と一緒に楽しむもので食卓を囲む団らんには欠かせないものです。
当時国内にもフランスのパンを焼くブーランジェリーはありましたが、顧客の好みに応えるうちにあんぱんやカレーパンを置くようになり、フランス人が経営する日本のパン屋に変質してしまっていました。私の使命はパンを通して本場フランスの味と文化を伝えることです。ですからラインナップはフランスのものを中心に置き続けようと決めました。
──転機はどのように?
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バックナンバー (3)
100人組織の作り方
- 第3回 「人が増える」だけでは会社は成長しない。部下を成長させるリーダーが行う3つのマネジメント
- 第2回 「信頼」だけでは不正は防げない。会社を大きくしたい経営者が今すぐ見直すべきこと
- 第1回 経営者の仕事は働く人の「ぼんやりとした不安」を解消すること、メゾンカイザーの組織作り