連載:第6回 中小企業の「見える化」経営者のリアルな声
業務改善は総力戦 全員で業務を見える化したガソリンスタンド経営者の想い
福島県中通りに位置する中島村。人口5,000人の村で、60年以上ガソリンスタンドを運営しながらガス・灯油などの燃料を地域に供給してきた有限会社矢内石油。2010年から新たに住宅リフォーム事業を立ち上げ、今では売上の4割を占める主力事業に成長しています。地元密着型の小さな‟ガス屋さん”が、新規事業を成功させた理由とは? 4代目の専務取締役 矢内哲さんに聞きました。[sponsored byサイボウズ株式会社]
有限会社矢内石油
専務取締役 矢内 哲さん
大手ショッピングセンター開発ディベロッパー、ダイレクトマーケティング会社を経て2009年有限会社矢内石油に入社。 2011年リフォーム事業を立ち上げ、2018年より業務改善支援コンサルティング事業を開始。
地元に根ざして60年、ガス事業がジリ貧に……
矢内哲さん(以下、矢内): 矢内石油は私の地元・福島県中島村で初のガソリンスタンドとして1956年に創業し、時代の変遷とともに家庭用燃料が普及すると、プロパンガスやLPガス・灯油の配送事業を展開し、地元のエネルギーインフラを支えてきました。
2009年に3代目の父が体調を崩し、一般企業に勤めていた私が家業に入ることになりました。当時の矢内石油は父と社員1名のみという家族経営の会社で、スタンドの運営に加えガスの配達、検針など、日々のルーティンで精一杯の状態だったのを覚えています。
入社したばかりの私は「いずれ事業を転換していかなければならない」という危機感がありました。当時の売上の大半はLPガス事業によるものでしたが、これは地域のお宅を訪問してガスメーターを検針しガスを交換する、いわば永続的に収益が生まれるビジネスです。ところが、大手ガス会社が徐々に進出するようになり、かつて1,000件ほどあった取引先が年々目減りしている状態でした。
加えて「オール電化」や「ハイブリッドカー」などに代表される次世代エネルギーが注目を集めていました。その後、2017年にガスの小売自由化があり、当時は「燃料供給事業は、遠い未来無くなってしまうかもしれない。今何もしなければジワジワと茹でガエル状態になってしまう」と、焦りのようなものを感じていました。
福島県中通り南部に位置する中島村、村内唯一のガソリンスタンドを経営
1,000件を超える顧客データは、母の頭の中“だけ”に入っていた
矢内: そもそも、当時の矢内石油には「顧客のデータ管理」という概念もありませんでした。1,000件を超える顧客は相手によって、締日も料金の支払い日もまちまちです。それらのデータを紙で管理しているならまだしも、情報は全部、番頭である母の頭の中にありました。
「誰々さんの締日と支払い日っていつだっけ?」と母に聞くと、「あぁ、あのお客さんは15日締めの、月末払いだよ」と返ってくる状態です。慣れないながらも少しずつ仕事を覚えていくなかで、「父の代わりはできても、とても母の代わりはできない……」と思っていましたし、重要なデータを母しか把握していないことにも危機感が募っていきました。
家業に入ってから、毎日の仕事は正直「つまらんな」という印象でした。朝7時にガソリンスタンドをオープンして最初のお客さんが来るのが11時で、それまでずっとボーッとルーティンの作業をしていたことはよく覚えています。家業に入る以前はディベロッパーやマーケティング会社で同僚に恵まれ、忙しくも充実した日々を送っていた私にとって、働きがいが失われていくようでした。このままではいけないと2011年から新たに始めたのが住宅リフォーム事業です。
働きがいを求めて、リフォーム事業をスタート
矢内: 地域のお宅にガスの配達をしていると、世間話から悩み相談を受けることも多くあります。田舎ですから、ガス屋は困った時の“便利屋さん”としてお手伝いすることもしばしばです。ある時、村営住宅にガスの設置をした際、「足を伸ばして湯舟に入りたいんだけど、浴槽を新しいものに交換してもらえない?」と相談がありました。
もちろん私もリフォーム業の経験はゼロです。しかし、退屈なルーティン業務に疲れ、何か新しいことに挑戦したい欲求があったのでしょう。知り合いを頼って資材を手配し、なんとかお風呂を交換することができました。するとお客様にとても喜んでいただけたんです。この体験が大きな転機となりました。
ガスや石油の燃料は今や当たり前に存在するもので、それまでガスの検針・交換でご家庭を回っても、「ありがとう」と言われたことがほとんどありません。この小さな成功体験に自分の存在意義が見つかったような気がして、本格的にリフォーム事業を始めることにしました。
矢内石油が手掛けたリフォーム、以前はタイル張りで段差があったお風呂が快適に
リフォーム事業は年間400件を手掛ける主力事業に
矢内: とはいえ、リフォーム業の知識もノウハウもありません。そこで、いつもガスを仕入れている問屋さんに相談し、給湯器やキッチン設備を扱う卸業者を紹介してもらいました。そこから数珠繋ぎに住宅設備機器のメーカーにつないでもらい、少しずつ事業の体制を整えていきました。
新聞の折り込みチラシを使って集客を図ったところ、初年度の2011年から年100~150件くらいのご注文をいただきました。当時はほぼ一人で回していましたが、徐々に人を採用して、2014年には年間300~400件を手掛けるまでに事業は成長できました。しかし、案件管理が複雑化するにつれ、内勤と営業の連絡漏れや連携ミスが起きてしまい、早朝からクレーム対応に追われる日々が続くようになったのです。
施工件数と社員数が増えた結果、案件管理が煩雑に……
矢内: リフォーム事業を始めた当初、社内では主にExcelとGmailを使い、Dropboxで施工やお客様の情報を共有していました。社員数が10名規模になってからも同じように行っていたのですが、案件件数が増えたので担当がGmailの問い合わせを見落としてしまうケアレスミスも増え、重要な情報が散逸してしまっていました。
情報共有がおろそかになると顧客対応にも不備が生まれ、クレームが生じる悪循環に陥ります。矢内石油は地域に根ざした企業なのでクレームからの悪評につながってはいけないと危機感を感じていました。そんな折、2015年何か良いツールはないかとネット検索して出会ったのがサイボウズのグループウェアです。
試しに顧客情報を入れてみたら、情報共有のトラブルは減りました。ただし、案件や顧客管理の一元管理が難しく、数値管理のエクセルと顧客データの紐付けができなくなったり、エクセルの二重登録が発生し、最新版のエクセルが行方不明になるなど、新しい課題が浮き彫りになりました。
改めて、矢内石油で何が問題かを整理してみたところ、やはり課題になっていたのは「顧客情報と案件の見える化」でした。そこで導入を検討したのが「kintone」です。早速、サイボウズ社のサポートデスクに問い合わせ、利用状況と課題を伝えたところ、顧客マスタと案件管理アプリの作成方法、それから両データの紐付け方法を丁寧に教えていただきました。視認性にも優れて、コメント機能など搭載している点に魅力を感じ、サポートデスクに連日4時間も対応いただきながら自分でアプリを作成していきました。
データの見える化で見えたリフォーム事業の先
矢内: kintoneへの切り替えは私の一存だけでは決められません。まずは社員の意見を聞いて検討しようと、30日間の無料トライアル時に社内メンバーにも共有しました。すると、スタッフからも評判が良く「こっちの方が使いやすいですね」となり、早々に全社導入を決めました。
お客様のご来店履歴、リフォーム履歴などをkintone上に一元管理すると、出先からでも必要な情報にアクセスできるようになり、よりスムーズなサービスが提供できるようになったのです。
今ではkintoneで過去の受発注履歴や商談の内容がすべて管理され、社内の誰でも閲覧することができます。リフォーム工事の職人さんや卸先には今もFAXで発注することが多いのですが、kintoneとFAXを連携して紙データの情報を集約し、ワンストップで情報にアクセスすることができます。
kintoneへの切り替えは社員にもプラスの効果をもたらしました。過去の履歴が一目で追えるので、担当者が変わっても状況を把握でき、業務に対する不安感の軽減につながりました。リフォームでは「数年前に取り付けたガス機器の調子が悪くて……」とご連絡いただいた時、自社が施工した工事内容であれば「その工事、弊社が担当したものですよね。大変申し訳ございません」と謝りつつ、次の内容に入れます。自社が施工したか、違う会社が行ったかのデータが手元に見える化されているのは重要です。
以前は、ご連絡をもらったら「一度確認して折り返しますね」とお電話では話して、社内で「データある?ない?」と全員で確認してから、次のアクションに移っていました。kintoneで案件管理を行うようになった結果、その慌ただしさも減り、今では残業もほとんどありません。ご連絡を頂いたその場で工事の提案やお見積りを出せるようになり、業務効率化ができたためです。仕事の質も上がったので村内での口コミでご紹介を頂き、リピート顧客も増えていきました。それまでは新規顧客獲得のため、折り込みチラシに1,000万円ほど費やしていた広告費も、リピート率が増えたので500~600万円くらいに削減することができました。
お客様のデータをすべてkintoneに入れ、社員全員でデータを活用できるので、母も無事に引退でき、悠々自適に暮らせています。
業務改善は全員で一つひとつクリアにする総力戦
矢内: 業務改善がうまくいった要因があるとすれば、改善を「ITツールありき」で進めなかったことだと思っています。まずは自社の業務フローをきちんと整理し、その中にある課題を明確にすることが大切です。私たちの場合、その課題を解決できる手段がITツールだったということです。kintoneを導入したことによって、目の前の課題を一つひとつクリアしてよりよい組織に進化できる。ツールはよい気づきになっていると思います。
実は私が入社後の2009年にも業務改善の成功体験がありました。ガス研修のシステムをベンダーと一緒に作ったのですが、その時意識したのは「業務フロー」の設計です。いくら便利なシステムを開発しても、現場の業務フローに即していなければ意味がありません。まずは目的と業務フローを明確にし、現場での使いやすさを意識した磨き上げが大切だと改めて感じました。もちろん、定期的にkintoneの使い方も含めて業務フローの見直しは行っています。
業務改善は総力戦、社員全員でフローを書き出す
矢内石油ではkintoneが浸透してから業務ルールや働きかたへの意識もどんどんブラッシュアップしています。ITツールの導入はゴールではなくスタート。業務改善は組織みんなが関わる総力戦なんです。
リフォーム事業を始めた当初は、自信を持てず誇りを持てない部分もありましたが、ささやかな機器の入れ替えも一つ一つにお客様の想いが込められています。それを叶え、暮らしの快適さを提供することに大きな価値があると気づいてからは、やりがいのある仕事に生まれ変わりました。
ご自宅の間取りやご要望を踏まえた提案型のリフォーム事業を展開してからは業績もさらに伸び、2009年に1億6,000万円ほどだった売上は約3倍に拡大しました。ガス関連事業が2億円強に対しリフォーム事業も2億円近くまで大きく成長を遂げています。事業は伸びましたが、昨今では「店舗数や売上を増やす拡大路線が経営のすべてではない」と感じています。私にとっての仕事のモチベーションは、社員が喜んでいること。自分たちにあった規模で、社員の働きやすさ、幸せを第一に考えています。
kintoneは矢内石油にとって“希望を与えてくれる存在”です。まだまだ地方の中小企業には「私が社長に意見を出すなんてとんでもない……」と自身の役割に無意識に縛られている人が多いように感じます。その点、矢内石油ではkintoneを使うことで業務改善について今まで意見が言えなかった方からも意見がもらえるようになり、「これは当たり前を崩すツールだな」と思っています。規模もツールも、組織にとって丁度いい塩梅を目指す。kintoneで組織の全体最適を実現していきたいですね。
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バックナンバー (6)
中小企業の「見える化」経営者のリアルな声
- 第6回 業務改善は総力戦 全員で業務を見える化したガソリンスタンド経営者の想い
- 第5回 「なんで給与上がんないの?」と問い詰められ、「すべて見える化」を決意した経営者の覚悟
- 第4回 「社長には思いやりがありません」疲弊した美容室の経営を見える化したら
- 第3回 工場長頼みだった鉄工所の工程を見える化したら、会社がノリノリになった話
- 第2回 震災から復興も職場はブラック……経営者のある決断で週休2日・残業ゼロに