連載:第1回 組織づくりの誤解を解く
新入社員をカルチャーに染め上げる研修って本当に必要?
毎年、春に新入社員が入社すると行われる研修。2020年は新型コロナウィルスの影響で集合研修ができず、オンラインでの研修に切り替えた企業も多いでしょう。なかには厳しい課題を与えて、ハードな経験を積むことで自社のカルチャーに染め上げる企業も見受けられます。 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役で採用学研究所の所長でもある伊達洋駆さんは、「研修はその中身以上に、組織に馴染んでもらうためのプロセスが重要」と言います。研修の中身ではなく、馴染むプロセスとは? 伊達さんが経営学や心理学といった学術研究の観点から解説していきます。
一般的な会社では新入社員を数か月かけて研修
多くの企業において、新卒社員向けに新人研修が実施されています。「そういえば、自分も新人のころ、いろいろと研修を受けたなぁ」と懐かしく(冷や汗とともに!?)思い出す人もいるのではないでしょうか。
ひと口で「新人研修」といっても、集中的にカリキュラムをこなして1か月程度で終了するケースもあれば、OJTと並行しながら2~3か月程度かけて実施するケースもあるなど、組織により実施方法はさまざま。なかには、半年以上かけてみっちりと研修をおこなう企業もあります。
カリキュラムの内容も組織によってバリエーションがありますが、一般的なのは以下のようなものになるでしょう。
- 会社の歴史や事業内容、部門・部署ごとの業務に関する説明
- お辞儀の仕方、挨拶、言葉づかい、身だしなみ、名刺交換の作法、電話応対、来客応対、席次や会食時の作法といった、社会人に欠かすことのできないビジネスマナー全般のレクチャー
- 経費精算や仮払いの請求、備品の入手方法、必要書類の書き方といった社内の諸手続に関するレクチャー。社員向けポータルサイトの使い方、ワードやエクセル、パワーポイントの操作方法など、業務に関わるツールのレクチャー
こうした基本的なレクチャーに加えて、新人を数名単位のグループに分け、多少難易度の高い課題に取り組ませてチームプレイを学ばせたり、研修期間を通じて個々人にテーマを決めさせ、最後にプレゼン大会を開催したりと、より実践的なカリキュラムを展開する組織もあります。
「全力で挨拶」「大声で社歌を歌う」ブラック研修はなぜ横行するのか?
なかには1週間程度、合宿施設に缶詰状態にして外界から完全に隔離し、携帯端末を取り上げたうえで課題に取り組ませるような組織も存在します。山奥の研修施設に連れて行かれ、早朝からマラソンを走らせたり(下位者にはペナルティ付き)、大声で社歌を歌わせたり、社是やクレドを何度も唱和させたり、先輩からやることなすことすべてにダメ出しされて泣かされたり、その日の課題について成績がよくなかったものは夕食抜きや入浴禁止の罰則があったり……といったブラック感が濃厚なカリキュラムを展開するケースもあるとか。
そうしたブラック研修のなかには、期間中に毎日「穴を掘らせる」という、謎の課題に取り組ませる事例もあると聞きます。どんなに穴を掘っても夜のうちに先輩社員が埋めてしまうので、理不尽さと疲労感だけが日に日に募っていき、新人は精神的に追い詰められていくそうです。
このようなブラック新人研修は極端な例かもしれません。とはいえ、ターミナル駅周辺やビジネス街で見ず知らずのビジネスパーソンに声をかけさせ、「新人研修でこのあたりを挨拶して回っています。名刺交換をお願いします」と名刺を集める競争をさせたり、駅前に立たせて大声で自己紹介をさせたり、といった研修に取り組まされる新入社員の姿を見たことがある人は(とりわけ都市部では)、決して少なくないと思われます。
ブラック労働に対する問題意識の高まりや、コンプライアンスを重視する企業姿勢が求められるようになった昨今においても、新人に肉体的にも精神的にも過大なストレスをかけ、自尊感情をへし折るような“しごき”まがいの研修は、意外にまかり通っているようです。
ここで改めて、原点に立ち返ってみましょう。
そもそも新人研修は、何のために必要なのでしょうか? 新人研修の目的とは、いったい何でしょうか?
次のパートでは最新の学術研究に基づきながら、上記の問いについて検討していきたいと思います。
新人研修とは一種の通過儀礼だった
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バックナンバー (3)
組織づくりの誤解を解く
- 第3回 ジョブ型雇用による組織パフォーマンスの影響とは?
- 第2回 心理的安全性でチームのパフォーマンスを上げる条件とは?
- 第1回 新入社員をカルチャーに染め上げる研修って本当に必要?