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企業経営における人材育成の課題と解決策

BizHint 編集部 2017年3月21日(火)掲載
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人材育成とは、企業が長期的な目線で、企業運営に有用な人材を育てる事を言います。今回は、その人材育成において企業が抱える課題と解決策についてご紹介します。

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1.人材育成上の課題とは

まず、人材育成を行う上で企業が感じている課題について見てみましょう。

人材育成上の課題

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「人材マネジメントのあり方に関する調査」によると、「多様な雇用区分間で異なる人材育成上の課題」に関する問いに関して、雇用形態を問わず「業務が多忙で、育成の時間的余裕がない」との回答が最多となりました。

また、正社員において次に多かったのは「上長等の育成能力や指導意識が不足している」となりました。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人材マネジメントのあり方に関する調査」(P18)

多忙による育成指導不足

日本は今、深刻な人手不足に陥っています。団塊の世代がどんどん退職していく中、少子化により入社する社員は減少し、社員一人ひとりの負担は増大しています。

そんな中、直接自身の業績に繋がらない人材育成を任されれば、つい片手間になってしまったり、業務とのバランスが取れない状況に陥ってしまいます。まずは働き方の改革、そして、人材育成も業務の一環としてしっかり取り組めるような人事施策の整備が急務となっています。

上長の育成能力や指導意識の欠如

上長に求められる人材育成能力とは、まず部下の育成計画の立案能力です。いつまでに、どのようなスキルを、どのレベルまで習得するかというプランを立て、それを部下の意向に耳を傾けながら進めます。また、適材適所な仕事の割り振りも重要な能力の一つ。どのメンバーにどの仕事を割り振れば業績がアップするのか、という視点だけではなく、メンバー自身がその仕事から何を学びどう成長できるのか、という視点も併せ持つ必要があります。

2.雇用形態別の課題

それでは、雇用形態別の課題を見てみましょう。

正規雇用労働者

正規雇用労働者には「若手層」「中堅層」「管理者層」「経営層」それぞれのフェーズ毎に課題があります。詳細は「3.人材のフェーズ別に生じる育成課題」で詳しくご紹介します。

多様な正社員

「多様な正社員」とは、職務・勤務地・労働時間などを限定した正社員の事を指します。 みずほ情報総研株式会社の「教育訓練の主な方針」に関する調査では、「いわゆる正社員」に対しては「長期的な視点から、計画的に幅広い能力を習得させる」と回答している企業が最多の54.6%と半分以上を占めている一方、「多様な正社員」に対しては「業務の必要に応じてその都度、能力を習得させる」という限定的な人材育成にとどまっている企業が最多の38.6%となっています。

多様な正社員の中には、ある程度以上のステップアップを望まない人材が一定数存在する事や、昇進・昇格の見通しが立てにくい事からくるモチベーションの低下などの課題も挙げられています。 それぞれのライフスタイルを尊重した働き方で、優秀な人材の流出を防ぐ施策でもある「多様な正社員」。個々の意向を反映しながら、モチベーション維持を諮る社員教育・人材育成計画が必要です。

【参考】みずほ情報総研株式会社「多様な形態による正社員に関する企業アンケート調査」(P18)

非正規雇用労働者

非正規雇用労働者の人材育成に関しては、その能力開発の機会が、正規雇用労働者と比較して非常に乏しい事が課題として挙げられます。

厚生労働省が行った「計画的なOJTの実施状況」を問う調査によると、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は58.9%であったのに対し、正社員以外では30.2%にとどまりました。今や非正規雇用労働者は、雇用者全体の37.5%を占め、その人口は2016万人にも上ります(総務省 平成28年労働力調査より)。非正規雇用労働者に対する能力開発の機会の増加や、その能力を活かした正規雇用労働者への転換などの施策が企業に広がる事が期待されています。

【参考】厚生労働省「平成27年度 能力開発基本調査」(P14)

【参考】総務省「平成28年 労働力調査」(P3)

3.人材のフェーズ別に生じる育成課題

それでは、正規雇用労働者のフェーズ別に生じる人材育成課題を見てみましょう。

若年層(新卒〜若手)

それでは、若年層の課題について見てみましょう。

  • ビジネスマナーや仕事における知識の習得
  • 職場への定着とモチベーションの向上・維持
  • 人材育成環境の整備

新入社員〜若手社員の人材育成においては、まず社会人としてのルールや業務の知識を与える事、そして実際に現場で実践する事により、経験として定着させ、気づきを与える事が重要となります。 しかし、若手の指導的立場である中堅層は、採用抑制時代にあり絶対数が少なく、多忙を極めています。そのため、OJTが正しく行われていなかったり、コミュニケーション不足により関係性が築けないなどの課題も挙げられます。

中堅層

次に、中堅層の課題です。

  • 仕事に対するモチベーションの向上
  • 後輩の人材育成力の強化、リーダーシップの発揮
  • 業務における課題解決のスキルアップ

中堅社員の定義は企業により異なりますが、一般的には、業務を3年以上こなし、役職に就くまでとされています。企業風土や業務に慣れてきた頃で、一部では「向上心が見えない」「積極性に欠ける」「余力があってもある程度で甘んじる」などの課題も見受けられます。 また、先ほども触れたように、中堅層は絶対数が少ない事から、通常業務においても人材育成においても求められる役割が多いのが現状です。まずは、中堅層の業務の把握・役割の分担から見直す必要があります。

管理者層

次に、管理者層(管理職層)の課題です。

  • マネジメントについての基礎知識の習得
  • 部下の育成スキルの向上、リーダーシップの発揮
  • 組織運営能力のアップ

管理者層は、経営層と若手や中堅などのパイプ役としての役割も持っており、企業にとっても影響力の大きな存在だと言えます。 独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、「近年の管理職に不足している能力・資質」の問いに対し、「部下や後継者の指導・育成力(傾聴・対話力)」が最多の61.7%、続いて「リーダーシップ、統率・実行力」が43.3%となっています。管理者層には、組織運営に関する全般的な能力が求められている事が分かります。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人材マネジメントのあり方に関する調査」(P24)

経営層

最後に、経営層の課題です。

  • 企業経営へ参画する事の役割の認識
  • 部下の求心力などリーダーシップの発揮
  • 企業変革についての理解やスキルの習得

経営層については、ミドルマネージャーから経営層への意識改革がなされていない事から、当事者意識の不足や、部下の求心力や育成力不足などの課題が挙げられています。 近年では、次世代リーダー育成のため、早期に候補者を選抜して教育訓練を行う企業も増えてきています。しかし、教育訓練を実施した後、実際に経営層の職務に就くまでの間のプロセスを計画しないまま実施される場合も多く、訓練自体がイベント化しているケースも見受けられます。

4.人材育成の課題解決方法(若年層)

それでは、若年層の課題解決方法を見てみましょう。

充実した社内外の研修

新入社員からおよそ三年間程度、定期的に集合研修を行う事も有効な手段です。新人時代には、新入社員研修としてビジネスマナーや社会人としての基本姿勢を学びます。そして、一年目が終わる頃に新入社員フォロー研修として、その一年の振り返りを行います。二年目以降は、その段階で必要な業務に対する姿勢やナレッジを習得します。集合研修は、同期社員と悩みを共有したり、ともに成長を実感する事で、モチベーションを向上・維持したり、相互フォロー体制を作るなどの役割も持っています。

OJTの体制強化

OJTでは、職務における知識や技術を実際の職務遂行の過程で習得する事ができます。また、研修と組み合わせ、座学で学んだ事をOJTで実践し、しっかり身につけさせる工夫も必要です。 OJTでは、教える側の体制の整備も重要です。まず、中堅社員から教育担当者を選抜し、新人育成をミッションとします。その際、新人育成が片手間とならないよう、通常業務の見直しや、教育担当者の人材育成のスキルを向上させるための研修なども併せて実施する必要があります。

5.人材育成の課題解決方法(中堅層)

次に、中堅層の課題解決方法を見てみましょう。

キャリア形成を目的とした人材配置

転勤・異なる職種への配置転換・人事交流(出向)など、中堅社員のキャリアアップを目的とした人材配置も一般的となっています。様々な現場、職種での経験から多面的な能力を身につける事ができ、結果的に課題解決・問題解決能力のアップに繋がります。また、近年では「キャリアパス」という、ある職位に就くために必要な業務経験や異動ルートを明確にした人材育成制度を取り入れる企業も増えています。自身の目指すキャリアへのルートが明確化される事で、モチベーションを維持する事ができ、優秀な人材の流出の防止にも役立ちます。

社内外における研修

中堅社員においても、社内外における集合研修は有用です。例えば、後輩の育成能力やリーダーシップの向上を目的とした研修では、指導方法をケーススタディなどを通して学び、自ら考える事で確実に身につけるなどの方法もあります。また、同期社員の様々な考え方や課題解決方法を目の当たりにする事で、多面的な考え方を身につけるだけでなく、モチベーションの向上にも繋がります。

6. 人材育成の課題解決方法(管理者層)

続いて、管理者層の課題解決方法を見てみましょう。

学習機会の提供

管理職には、組織マネジメントについての知識が必須となります。まずは研修やeラーニング等で、自社の法令や人事制度、人材評価・コンプライアンス・メンタルヘルス等の基礎知識を習得します。そして、組織の目標を策定し、その目標に向かって組織や部下がどのように関わり成し遂げていくのかを、ワークショップ型の研修などで体感します。そうする事で、自身のマネージャーとしての役割を認識し、組織運営をスムーズに遂行する事ができます。

管理者層の実務の把握・負担軽減

管理者層の中でもミドルマネジメント層と呼ばれる層は、プレーヤーとしての業務も兼ねているケースが多く、その業務量は増大する一方です。企業側はまず、ミドルマネジメント層の実際の業務量を把握し、組織マネジメントや部下の育成に取り組む環境を整備する必要があります。そうする事で、組織運営にしっかり取り組む事ができ、結果的に組織運営能力のアップにも繋がります。

7.人材育成の課題解決方法(経営層)

最後に、経営層の課題解決方法を見てみましょう。

研修プログラム

経営層には、企業経営についての知識の習得が必要です。まず、「経営戦略論」「マーケティング」「会計知識」など、経営者に求められる「経営リテラシー」を習得するための研修が必須となります。そしてそれを実際の組織経営に活かすためのアクションラーニング型の研修を、一定の時間をかけて実施します。

経営層などの次世代リーダー向け研修については、早期に候補者を選抜して行われるケースもありますが、その「イベント化」が問題となっています。早期に研修を行う際には、候補者が「なぜ選ばれたのか」「なぜこの研修を行い、今後どう活かすのか」までを明確にした上で実施する必要があります。

経験を積むための人材配置

次世代リーダーとして選抜した人材に対しては、経営層に就任する以前に、新規事業部門や企画部門などを担当させ、企業運営にまつわる能力を身につけさせる事も有効な手段です。実際に組織運営を行う事で、部下の育成やリーダーシップ等のスキルも同時に養う事ができます。

8.企業事例

それでは、実際の企業で行われている人材育成の事例をご紹介します。

ソニー株式会社

連結従業員数12万人以上を誇り、売上高は8兆円にも上るグローバル企業「ソニー」。そんなソニーの人材育成について、ソニーを退職後経営コンサルタントとして活躍し「出る杭研修」で知られる横田宏信氏のエピソードを交えてご紹介します。

まず、横田氏の在籍していた頃のソニーでは、研修などの場のみならず職場や飲み会においても、仕事の意義や本質についての「教育」が行われていました。その「教育」を行っていた上司は、部品メーカーにコストダウンを依頼する際、そのメーカーが成長の機会を得られるような方法をとっていました。そのため、メーカーも力を尽くして製品を作り、それがソニーの製品力の源となっていました。ソニーでは、このような「ありふれていないが、普遍的に正しいこと」が日常的となっていたため、成長を遂げたと言われています。

しかし、現代の日本は「正しいあり方」を持つ人材を育てられていない、これが人材育成の大きな課題である。「イノベーティブな人材」を育てるには、知識系の研修だけではなく、論理的に正しく、「ありふれていない教育」が必要だと横田氏は言います。

【参考】マイナビニュース「日本企業が抱える人材育成の課題とは?”出る杭”の育て方」

株式会社カネボウ化粧品

カネボウ化粧品は、「コフレドール」などの人気化粧品ブランドを有し、創業80周年を誇る老舗化粧品メーカーです。カネボウ化粧品では、「個人のキャリア開発」に力を入れており、キャリア形成を新入社員から定年まで5つのステージに分けたユニークな人材育成を行っています。

「第1ステージ」の新入社員では、まず自身のキャリア形成の重要性に「気づかせる」というステップを踏みます。「第2ステージ」では、入社3年目での最初の転勤から30代半ばまでの多様な職場経験を積む事による、キャリア形成を諮ります。「第3ステージ」では35歳をターニングポイントとした自身の市場価値の確立を目指し、「第4ステージ」である45〜55歳では「常に成長する」をキーワードとして、自身の更なる成長を促します。そして「第5ステージ」では、定年後のセカンドキャリアを考える機会を与えます。このように、常に社員一人ひとりの「成長」をサポートする事で、カネボウ化粧品は「成長を続ける企業」を目指しているのです。

【参考】学校法人産業能率大学 総合研究所「事例紹介 株式会社カネボウ化粧品のビジョンに根ざした人材育成〜”自由と自己責任の原則”に基づく自立人材〜」

アメリカンファミリー生命保険会社

アメリカンファミリー生命保険会社(アフラック)は、がん保険・医療保険で保有契約件数NO.1を誇る生命保険会社です。アフラックでは、特に中堅社員育成に力を入れており、その階層を4段階に分けて研修を実施しています。

まずグレード毎に「会社側が期待している点」を明確にし、社員にそのグレードで求められる役割の認識を促しています。そして、グレード毎の必修の研修を行うと同時に、任意のロジカルシンキング・コーチング・プレゼンテーションなど多種多様なプログラムも用意されています。

他にも、管理職候補者を対象とした「ヒューマンアセスメント」研修や後輩育成トレーニングなど、各グレードのみならず、対象に沿った細かな研修も整備されています。また、研修終了後には「360度評価」を実施し、本人にもフィードバック。各自のスキルが、職場でどのように活かされているかを確認しています。これらのきめ細かな研修を実施する事で、中堅社員へ「役割意識を認識させる事」「自身のキャリアについて考える機会を与える事」を目指しています。

【参考】学校法人産業能率大学 総合研究所「事例紹介 アフラックの階層別研修を軸にした中堅社員育成の取り組み」

9.まとめ

  • 企業は人材育成において、多忙による育成時間不足と、上長の育成能力や指導意識の不足という課題に直面している。
  • 人材育成上の課題は各フェーズにおいて様々だが、OJT、社内外の研修、キャリア形成を目的とした人材配置など、様々な解決方法がある。
  • 社員を複数のステージやグレードに分け細やかな人材育成を行うなど、社員のキャリアアップを自社の成長と捉え、積極的にサポートする企業が増えている。

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