就業規則の届出に必要な意見書の書き方や記入例、注意点を徹底解説
就業規則を届け出る際に労働者側の意見を聴収したことの証明となるのが意見書です。今回は、意見書の内容や作成方法を述べ、意見書の対象となる労働組合や労働者代表とはどのようなものかについて、具体的に説明をしていきます。さらに、意見を聴収する場合や就業規則に同意を得られない場合の対処法についても、余すことなく紹介していきます。
就業規則の意見書とは
就業規則を新たに作成した場合や内容を変更した場合など、その就業規則に対する労働者側の意見を聞いたという行為の証明になる書類が意見書です。
労働基準法によれば、使用者が就業規則を作成・または変更した場合は、労働者側の意見を聞くことと、意見を書面化して提出することが義務づけられています。詳細は次の通りです。
《労働基準法90条》
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年四月七日法律第四十九号)
なぜ必要なのか
前述のように意見書は、作成・変更された就業規則を労働基準監督署へ届け出る際に添付することが義務づけられています。
法律で作成や提出が義務づけられている理由としては、就業規則の内容を労働者側に知ってもらう、というねらいがあります。意見書の制度に沿って従業員に内容を確認させることで、社内ルールをより深く理解してもらうことへつながり、不要な労使トラブルを防ぐ対策となるためです。
意見書が義務づけられた背景
労働基準法が制定される以前、つまり戦後の時代は、就業規則に関する意見書の作成・届け出の義務はありませんでした。したがって、会社側は労働者側の同意や確認を得ないまま就業規則を作成する事態が多発し、一方的に賃金や労働条件、懲戒処分の提示を受けることで、不満を抱える労働者が多く存在しました。
そこで、労働基準法により労働者に就業規則の内容を確認してもらう機会を設けることとなりました。意見書は、使用者と労働者の間で適切に社内ルールが運営されるための架け橋のような存在となっているのです。
●就業規則の作成から周知までの流れ、就業規則で定めるべき内容などは、下記記事をご覧ください。
【関連】就業規則とは?作成~届出までの手順・ポイントをご紹介 / BizHint HR
●就業規則の変更が必要なケース、手続きなどを知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【関連】就業規則の変更が必要となるケースとは?ケース別対応法や必要な書類、手続きのポイントをご紹介/BizHint HR
意見書を作成する
意見書が就業規則の届け出において必要となることが理解できたところで、ここからは、意見書の書き方や意見書を作成するために覚えておくポイントについて、順を追ってみていきましょう。
意見書が必要な会社とは
意見書は、就業規則を作成した上で労働基準監督署へ届け出る際に必ず必要となる書類です。したがって、就業規則の作成や届け出ることが義務づけられている「常時10人以上の労働者を使用する会社」は、就業規則を届け出る際に必ず意見書を作成しなければなりません。なお、常時10人に満たない会社の場合でも、就業規則を届け出る際には意見書を添付しなければならない点に注意しましょう。
【参考】BizHintホームページ:就業規則(作成義務がある会社とは)
意見書が必要となる単位とは
意見書が必要となる単位とは、就業規則の届け出が必要となる単位と同じです。つまり「事業所(事業場)単位」となります。
事業場とは、本社や本店から枝分かれした、支店や営業所、出張所、工場などのうち、それぞれの所在地内で一つの事業として成り立っているものをいいます。つまり、業務の指示を出す上司や事務作業に携わる労働者が現場におり、その場所内で一つの事業が成り立っている場合は「事業所」扱いとなり、事業所内で新たに就業規則の作成や届け出を行う必要があります。
【参考】BizHintホームページ:就業規則(届け出の単位とは)
一部の労働者を対象とした就業規則の場合
就業規則には、さまざまな種類のものが存在することに特徴があります。たとえば、正社員を対象とした本則である「就業規則」や、別規定となる「賃金規程」「退職金規程」に加え、パートタイム労働者を対象とした「パートタイマー規程」、嘱託社員を対象とした「嘱託社員規程」など、その内容は多岐にわたります。
このように、事業所で働く労働者の一部のみを対象とした就業規則または別規程を届け出る場合も、通常の場合と同様に意見書が必要となります。そして、意見を聞く労働者の代表を選出する場合などは、事業所内のすべての労働者の中から選ばなければなりません。パートタイマー規程ならば、パートタイマーの間から選出すれば良い、という考えは誤りとなりますので、注意しましょう。
決められた書式はあるのか
意見書には、決められた書式はありません。これは、同時に提出する就業規則届や就業規則変更届などと同様です。
各都道府県の労働局や社労士事務所などのホームページで、就業規則届などとともに無料フォーマットを提供している場合があるため、フォーマットを利用して作成する方法も有効です。
記載が必要な項目とは
意見書には公式のフォーマットは存在しないものの、記載しなければならない項目があります。この項目を記載しないことには、就業規則が受理されない場合があるため、注意する必要があるでしょう。
必要となる項目は、主に次の通りです。
労働組合の有無
意見書の提出目的は、労働者側が提出する就業規則の内容を確認したことを証明するためです。そして、意見を述べる労働者側とは、労働基準法90条によれば、以下のように定められています。
《労働基準法90条》
当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法(昭和二十二年四月七日法律第四十九号)
したがって、意見書には、まず「事業所内に労働者の過半数で組織する労働組合が存在するかどうか」を記載する必要があります。
労働組合名・労働者代表名
事業所内に労働者の過半数で組織する労働組合が存在する場合は、その証明として組合名を記載します。
一方、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の代表者名を記載します。なお、労働者の代表者名を記載する場合は、選出方法もあわせて明記する必要があります。
意見の詳細
労働者側、つまり労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の代表者に就業規則の内容を見せ、確認した上での意見を記載してもらう部分となります。就業規則の内容に同意する場合は「異議なし」を、何らかの意見が生じる場合はその旨を明記します。
意見書の作成日
就業規則を確認し、意見書に意見を記載した日付を記載します。これは、確実に労働者側の意見を聞いたという証明となる日付になるため、必ず書かなければならない部分になります。
就業規則変更の場合
すでに作成・届け出済みの就業規則を変更した場合も、意見書が必要です。書き方は基本的に新規作成のケースと同様で、決められた書式は存在しません。
また、記載が必要となる項目も新規作成の場合と同じく、「労働組合の有無」、「労働組合名・労働者代表名」、「意見の詳細」、「意見書の作成日」が必要となります。
記入例
実際に活用することができる意見書の記入例を紹介します。意見書を作成する場合は参考にしてみてください。
意見書の対象となる労働組合や労働者代表とは
意見書の作成にあたり重要となるのが、「誰に」意見を聞けば良いのか、という部分になります。
ここからは、意見を聞く対象となる「事業場内に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」について、わかりやすく解説していきます。
労働組合とは
労働組合とは、会社に勤める労働者が寄り集まり、賃上げや雇用者数の増加などの労働条件の改善や、経済的な地位の向上を図るために組織された団体のことです。
労働組合の種類
労働組合は、組織の形態により次のような種類に分類されます。
- 企業別組合:同じ企業(会社)で働く労働者が集まって組織する組合
- 職業別組合:同じ業種や職種に就く別会社の労働者が集まって組織する組合
- 産業別組合:同じ産業の会社で働く別会社の労働者が集まって組織する組合
- 一般労働組合:企業・職種・業種・職業にかかわらず、さまざまな労働者が集まって組織する組合で、そのうち中小企業に属する労働者が各地域で組織する組合を「合同労組(ユニオン)」という
労働組合の役割
労働組合は、労働者が集団となり、会社に対してさまざまな意見や要件、要求をするために存在します。一人の労働者では会社に向けて意見をすることが難しい場合でも、組合の仲間とともに声をあげることで、さまざまな労使トラブルを解決するための交渉が可能となります。
就業規則には、会社内で労働者が守るべきさまざまなルールが記載されています。この規則の内容が理に適っているか、不当でないかを確認し、労働者が安心して会社で働くことができるようにするのも、労働組合の役割の一つです。
加入は義務なのか
たとえば、会社に入社した労働者すべてが会社内の労働組合に加入しなければならないかというと、そうではありません。労働組合への加入は義務ではなく、労働者に対して労働組合への加入を強制することは禁止されています。また、組合未加入の労働者を差別することや、不当な扱いをすることも許されてはいません。
意見書の対象となる労働組合
労働組合についての概要が理解できたところで、次からは意見書の対象となる労働組合とはどのようなものかを見ていきましょう。
過半数が加入していない労働組合の場合
すでに述べたように、意見書の対象となる労働組合は「事業場内に労働者の過半数で組織する労働組合」になります。つまり、社内に労働組合が存在していたとしても、その労働組合に労働者の過半数が加入していない場合は、「事業場内に労働者の過半数で組織する労働組合」とはいえないため、労働者の過半数を代表する者に意見を聞かなければなりません。
また、社内に複数の労働組合が存在している場合は、そのうち最も多くの労働者が所属しており、労働者数が過半数を満たしている労働組合に対して意見を聞くことになります。
労働組合がない場合
社内に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、「労働者の過半数を代表する者」に意見を聞く必要があります。この「労働者の過半数を代表する者」とは具体的にどのような者をいうのか、次の項目で説明をしていきましょう。
労働者の代表とは
意見を聞く対象となる労働者の代表については、労働基準法施行規則により、「選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者」と定められています。つまり、一定の手順に沿って公平な手段で選出された者が、労働者の代表となることができます。
《労働基準法施行規則6条の2》
法第十八条第二項 (中略)に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第四十一条第二号 に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。【引用】電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕:労働基準法施行規則(昭和二十二年八月三十日厚生省令第二十三号)
選出のタイミング
法律に沿って過半数代表者を選出する場合、一つの事由ごとに選出をしなければならない点に注意が必要です。
過半数労働者を選出するタイミングには、就業規則の届け出時に加え、36協定の届け出時など、さまざまな事由があります。しかし、過半数労働者は事由に応じて選ぶ必要があることから、「36協定を提出する時に選出した人にやってもらおう」と考えるのは誤りです。必ず、就業規則の内容を確認してもらうための「過半数労働者」として、新たに選出を実施する必要があります。
選出の方法
実際に過半数労働者を選出する際には、次のような流れで行うことになります。順を追って確認していきましょう。
1. 就業規則届け出の旨を周知
就業規則の作成や変更作業が完了したところで、まずは就業規則を行政に届け出る旨を周知し、内容を確認してもらう代表を選出する旨をあわせて伝えます。
注意すべき点としては、必ず全ての労働者に向けて周知をすることです。社員が集まる朝礼時や、一斉メール送信など、全労働者に情報が伝わるような方法を取らなければなりません。
2. 代表者の選出方法を明示
代表者の選出方法は、労働基準法施行規則によれば「投票、挙手等の方法」とされています。会社側が取る方法としては、あらかじめ代表者をどのように選出するかを決めておき、実際に社員が行う内容や選出までの流れを明示する必要があります。
なお、この選出方法の明示も、就業規則届け出の旨を周知した場合と同じく、全労働者に対して行わなければなりません。
3. 代表者の選出
選出方法を社員に明示したところで、次は選出作業にかかります。
全社員を集めての挙手や、投票箱を設置した上での投票、候補者名を掲示した上で信任を得る方法、部署ごとの代表者より指示を得た者を選出する方法などが挙げられます。選出する際には、メールや対話などの方法は問わず、公平な視点で選出が行われる必要があります。
無効となる選出とは
ここからは、過半数労働者の選出において、ルール違反とされている選出について説明をしていきます。
次に述べる者を選出した場合、前述の手順を踏んで選出作業が行われたとしても、その結果は無効になるため、注意しましょう。あくまでも「選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者」であることを忘れてはなりません。
会社による指名
会社の社長や幹部により指名を受けた者が代表者となることは禁止されています。
幹事などの自動選任
会社の社員旅行や親睦会など、イベントの幹事を務めるいわゆる「頼りがいのある社員」を自動的に代表者とすることは禁止されています。
管理監督者の選任
労働基準法施行規則6条の2に基づき、管理監督者を代表者とすることは禁止されています。管理監督者とは、労働時間や休憩、休日、割増賃金の規定が適用されない、部長や課長などの管理職に相当する者をいいます。
意見の聴収から提出までのポイント
ここからは、意見を聞く対象者となる労働組合や労働者代表に対して実際に意見を聴収し、意見書を提出するまでの流れについて説明していきます。
意見の聴収
労働組合または労働者代表を選出し、意見を聞く相手が定まったところで、実際に就業規則の内容確認作業に入ります。その上で、就業規則の内容に同意するか否かの結論を受け、意見がある場合はその具体的な内容を洗い出してもらいましょう。
意見書の提出
意見の聴収が終了したところで、意見書の作成に取りかかります。意見書の日付や労働組合名もしくは労働者代表名、意見の詳細を記載してもらい、就業規則・就業規則届とともに労働基準監督署へ届け出を行います。
なお、就業規則を変更した場合は、就業規則届の代わりに就業規則変更届が必要となります。
同意を得られない場合の対応
意見の聴収を行う際、労働者側より何らかの意見が出る場合があります。このようなケースに陥った場合の対処法について説明をしていきます。
就業規則の変更
まず挙げられるのが、労働者側の意見に沿って就業規則や別規程を変更する方法です。内容を変更したところで改めて意見書を作成し、変更内容に問題がなければ「異議なし」として改めて就業規則の届け出を行うことになります。
意見書に「異議あり」と記載されたら
労働者側が、意見書に「異議あり」として何らかの意見を記載され、その意見に沿って就業規則を変更しなかった場合でも、就業規則の届け出は問題なく行うことができます。
労働基準法により義務づけられているのは、「労働者側の意見を聴く」ことと「意見を記した書面を添付する」ことです。したがって、労働者側の同意を得られないまま届け出た場合でも、就業規則の効力には影響なく、受理されることになります。
意見書の提出を拒否されたら
労働者側が就業規則の内容に不服を感じており、意見書を提出することすら拒否をするケースが中にはみられます。労働者側が記載をしない限り意見書を提出することはできませんが、このような場合は報告書を提出することで代わりとすることができます。報告書には、「労働者側に意見を求めたものの、意見書が提出されなかった」という事実を記載します。
なお、報告書が提出された場合は、後日、労働基準監督署より労働者側に対し、本当に意見徴収が行われたかの事実確認が行われる場合が多くあります。意見徴収を行わずに報告書を提出することはできませんので、注意しましょう。
強行提出の場合の対処法
前述のように、労働者が意見を提示した場合でも、就業規則を届け出ることは可能になります。しかし、会社のルールを定めた就業規則に労働者側が同意を示していないという事実は何かとトラブルのもとになります。
使用者と労働者の足並みが揃わないことには、良い会社を作り上げることはできません。強行提出でも受理はされるものの、本来は労使間で話し合いを重ねた上、双方が同意をした内容で就業規則を作り上げることが重要であるといえるでしょう。
まとめ
- 意見書は、就業規則を作成または内容を変更した場合などに労働者側の意見を聞いたことを証明するための書類で、就業規則を届け出る際に添付する必要がある。
- 意見書は、就業規則を届ける義務のある会社に作成義務があり、労働組合の有無、労働組合名・労働者代表名、意見の詳細、意見書の作成日を記載する。
- 意見書の作成には労働組合または労働者代表の意見が必要となり、同意を得られない場合や意見書への記載を拒否された場合でも就業規則は受理される。
<執筆者> 加藤知美 社会保険労務士(エスプリーメ社労士事務所)
愛知県社会保険労務士会所属。愛知教育大学教育学部卒業。総合商社で11年、会計事務所1年、社労士事務所3年弱の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。
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