「パフォーマンスの低下」を察知することが健康経営の質を高める!?
ここ数年、健康経営に対する注目度が高まりつつあります。経済産業省は東京証券取引所とともに、健康経営に優れた企業を「健康経営銘柄」として認定。業種ごとに毎年数十社程度が選定されており、開始当初から毎年選定されている企業もあります*1。また、企業の健康経営に対する取り組み状況を調査する経済産業省の健康経営度調査においても、初回の回答数は493社でしたが、平成29年度(4回目)の調査では1,239社が回答*2しており、企業の注目度が近年急速に高まりつつあります。積極的な取り組みが進みつつある健康経営をテーマに、現状の整理と今後の方向性について解説します。
健康経営による「生産性向上」とは
そもそも健康経営とは、⽇本政策投資銀⾏によれば「従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の⽣産性向上を⽬指す経営⼿法」のことです*3。
健康経営とは単なる従業員の健康の維持・増進に留まらず、企業としての生産性の改善まで踏み込んだ考え方 です。経済産業省の調査でも健康経営に取り組む企業の8割近くが「従業員の生産性の向上」を目的に掲げていることから*4、健康経営を生産性の向上という視点でとらえるコンセプトが一般に浸透しつつある現状がうかがえます。しかし、実際には社員の健康管理さえしていれば直ちに企業の生産性が向上するものではありません。健康管理が企業の生産性向上にどう寄与していくのかをブレークダウンして考察をしていきます。
健康経営による生産性向上とは、具体的にはどのようなアプローチでしょうか。一般に、生産性向上の文脈で話題に挙がるのは、非効率な仕事の仕方を見直す業務プロセス改善があります。また、社員の時間意識を高め、短時間で成果を出すことを促すのもこの領域です。さらに、間接的ですが従業員のエンゲージメント向上を図り、社員の仕事へのコミットメントを高めることで企業の利益を高めていく活動も含まれます。
生産性向上というテーマには多様なアプローチがありますが、健康経営は社員の健康状態の維持・増進がはじまりと踏まえると、 社員の「心身の不調に起因したパフォーマンス低下を改善」することで、「企業本来の生産性を取り戻す」ことを考えるのがよい でしょう。
つまり、身体の痛みや倦怠感、軽度の鬱症状などによる集中力低下に起因し、業務の質や量が低下していた社員が、健康状態を改善して本来のパフォーマンスを発揮できることで、企業全体としてのパフォーマンスを回復しようとする試みです。健康経営による生産性向上を検討する、ただ単純に社員の健康状態を把握するだけではなく、その結果として生まれるパフォーマンスの状態もモニタリングし、成果や対応しなければならない課題を把握することが重要です。
社員の健康状態を由来とするパフォーマンス低下が「企業に与えるマイナス影響は必ずしも大きなものではない」と考える方もいるかもしれませんが、安易に看過していい問題ではありません。 勤務者が健康不調により発生させている潜在的なコストは、企業が負担する健康関連コストの約8割を占める と国内の調査でわかっています*5(このコストは、心身の不調により本来のパフォーマンスを発揮できず、出勤している社員が企業に与えている潜在的な損失[プレゼンティーイズム]で、質問票による自己評価に基づいて算出されています)。
また、社員のパフォーマンス低下は、健康状態が特に優れない場合には重大なミスや大事故を引き起こしたりするリスクもあります。企業のブランドを大きく傷つける可能性もあるので、慎重に対応をしなければなりません。今後は、法改正などに伴う定年延長によりシニア層の増加により、企業全体としての健康上のリスクが高まることも想定されるため、これまで以上に健康不調によるパフォーマンス低下に企業が対応する必要性は高まっていきます。
図1 企業における健康関連コストの内訳 出典 東京大学政策ビジョン研究センター*5
健康経営の取り組み状況の概観と課題
健康経営の課題をどう打破すべきでしょうか?
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