連載:第46回 IT・SaaSとの付き合い方
【続編】経理・会計ツールを子会社と統一する。kintoneとfreee連携。現場レベルでの確認プロセス


北海道帯広市で電気設備工事業を手掛ける相互電業株式会社では、子会社との経理・会計ツールを統一するための、ゼロベースでの新ツール選定が行われていました。社内業務で使用しているkintoneとの連携を重視しながら3つのツールを比較した結果、選定者としてはfreeeが最有力という判断に。そこから社内提案を行うのですが…その後の展開や、現場の担当者への説明などについて、あらためて伺いました。

相互電業株式会社
管理部 部長 宮武 智志 さん
管理部 今野 愛菜 さん
※本記事は、2024年8月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものである旨、あらかじめご了承ください。
※本記事は、同社の課題背景やツール選定の途中経過を描いたこちらの記事の続きです。
社長決裁を得て実務レベルでの使用感の確認へ
――前回お話を伺った際は、これから社長へ提案を行うという段階でした。その後どのようになりましたか?
宮武 智志さん: 社長に話したところ、特に懸念や反対もなく、freeeの導入について決裁を得ました。あわせて「自分でも数字を見たいから、アカウントを作ってほしい」と。
一方で、当社は他にもいろいろなITツールを使っているので「全体的な費用がどれくらいになるか知りたい」という要望をいただきました。あらためてその資料を出すと「費用が増えるのはある程度は仕方がない」「IT補助金を利用してほしい」といったフィードバックをいただきました。
――では、いよいよ移行に向けて動き始めたのですね。社長決裁後、どのように進められているのでしょうか?
今野 愛菜さん(以下、今野): 実際にfreeeを使うことになる担当者に実務での使用感を確認してもらいました。伝票入力の業務をしている方のうちfreeeの使用経験があるのは、当社のスタッフ4人中3人。そのうち使ったことがない1人は、経理業務の入力まわりをとりまとめている、いわばキーマンです。freeeに変わると使い方が全く変わるので、実際に仕訳の入力をしながら操作を試してもらいました。
実務レベルでの担当者の確認内容は、主に以下のようなものです。
- 銀行口座の売掛金の仕訳と消込
- 銀行口座の買掛金の仕訳と消込
- 現金や保険など、売掛金や買掛金にならない帳簿上の数字の動き
- クレジットカードの明細をもとにした仕訳
- freee会計とfreee人事労務の接続の確認
freee会計とfreee人事労務の接続については、現在子会社で使っているfreee人事労務の給与計算からfreee会計に連携した際の内容の整合性と、freee人事労務では対応しきれない仕訳の調整方法を確認しています。これらは1週間ほどかかりました。
経理・会計ツールで異なる概念の違い
――確認の結果はいかがでしたか?
今野: 私自身もそうだったのですが、TKCからfreeeに移行すると、世界が大きく変わるんですよね。WindowsからMacに変わるようなイメージとでも言いましょうか。同じことをしているはずなのに、表現やポリシー、操作が少しずつ違っていて。
例えば、TKCは「貸借」なのに対して、freeeは「入金・出金」という概念なんです。定義は同じでも聞かれ方が違うので、貸借に慣れている人は意識を変えなければなりません。特に入力画面では、今まではほぼ無意識に作業できていたものが、どうしても考えながら行う必要が出てきます。そういった部分に慣れられるか?大きな拒否反応はないか?ということを確認していきました。
ただ、今回のツール移行に際しては、関係者全員がその目的や、それぞれの変化への必要性を認識していたので、結果的にはスムーズに進んだと思います。
とはいえ私としては、不安や懸念はできるだけ事前に解消する手立てを用意したいと思っていたので、どんなことでも良いので懸念点があれば出してほしいと伝えました。
手間が増える部分も。自社なりの優先度と俯瞰での効率判断
――懸念点は出てきたのでしょうか?
今野: まず、売掛金の処理に手間が増えるのではないか?という懸念が上がってきました。TKCは、少額の工事では明細を別途作り、会計システム上ではまとめて「売掛金」へ計上しています。
銀行口座の入金情報から入金消込の仕訳をする際は、すべて「売掛金」と勘定科目を入力すれば、月次で監査を行う際に残高だけ別紙の管理表と一致しているか確認すればOKでした。
それに対してfreeeは、売上計上して売掛金を立てる操作・工程が同じでも、銀行口座の入金情報から入金消込の仕訳をする際は、入力済の売掛金の一覧から選んで、入金の処理を行います。
そのため、請求件数が多い取引先だと、売掛金一覧の中から入金している請求分の仕訳を選んで消込することになります。明細の中から「どれが対象になっているかを選ぶ作業」が増えるイメージです。
ただ、当社の業務の流れを考えると、手間は増えてしまうものの、各請求情報に入金状況が紐づいていることのほうが優先度は高いと判断しました。
ただTKCの場合、仕分けはまとめてできる一方で、月締めや決算の際にはExcelを使って内訳との照合を行っていました。freeeではその作業はほぼゼロにできるので、一連の業務全体を俯瞰で見れば効率は良くなります。さらには、freeeでの仕分け作業に慣れてくると、さらに楽になるはずなので、そのような話をしてフロー変更の説明を行いました。
また、紙の書類のデータ化・ファイル保存についての懸念もありました。
freeeを使っている子会社では、紙の書類をスキャンしてデータ化し、それをファイルボックスに格納してもらっていました。それをもとに当社(親会社)側で入力内容の確認や仕訳を行うという流れです。
当社(親会社)でも、紙の書類の取り扱いを同様の流れで行いたいと考えました。理由は、仕訳にファイルが紐づいていて、なぜその仕訳になったのかがわかりやすいからです。役割分担をして仕訳を行った際など、他の担当が見ても理解が早いですし、監査の時にもとても好評だったためです。
しかし、当社で同じことをした場合、紙で受け取っている書類の量が子会社の何倍にもなってしまいます。すべてスキャンしてデータ化するとなると、作業量が現実的ではありませんでした。
ただこれは、電子帳簿保存法の内容を鑑みると紙の運用でも問題ない部分でしたので、子会社でスキャンしてもらえる分はこれまで通りのやり方で、それ以外にもし本社で子会社の書類を扱う場合は紙の管理でも大丈夫、という運用にいったんしました。
利用開始は補助金申請、採択後。
――今回の移行プロジェクト、次のステップはどのようなものなのでしょうか?
今野: デモ画面でのテスト、社内提案と決済が終了し、freeeとの契約は済ませています。すぐにでも利用は始められるのですが、利用開始は少し後を想定しています。社長からの依頼のあったIT導入補助金の申請をしようと考えています。
freeeはIT導入補助金のインボイス枠で2年分の補助金が出ます。これは2024年8月末までの申請が必要です。うまくいけば10月3日に採択決定なので、10月10日の利用開始が濃厚ですね。
社内での本格的な移行作業はそこからです。そこに向けて、ヘルプでは読み取りきれない部分などをfreeeのチャットやメールで問い合わせながら、事前準備を進めています。
(文:安藤 ショウカ 撮影:クナウパブリッシング)
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バックナンバー (47)
IT・SaaSとの付き合い方
- 第46回 【続編】経理・会計ツールを子会社と統一する。kintoneとfreee連携。現場レベルでの確認プロセス
- 第47回 経理・会計ツールを子会社と統一する。kintone連携を軸にした検討・選定の途中経過
- 第45回 紙→kintone→Salesforce。「人依存」からデータドリブン経営へのツール変遷。担当者が考えていたこと
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