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連載:第9回 経営・SaaSイベントレポート2021

「働けない状態」に陥ったミドルシニア層の再活性化。ネガティブなフィードバック、できていますか?

BizHint 編集部 2022年1月25日(火)掲載
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近年、ミドルシニア層の不活性、パフォーマンスやモチベーションの低下が深刻な社会課題になっています。年上の部下を抱えているマネジメント層も増えており、ミドルシニア層に対するマネジメントやコミュニケーションについて悩んでいる方も多いのではないでしょうか。今回は、『「働かないおじさん問題」のトリセツ』の著者であり、数々のセミナーでミドルシニア層のキャリアデザインやマネジメントについて指導する難波 猛さんに、人事・上司・本人それぞれがなすべき役割と、上司が行うべき「ネガティブフィードバック」に役立つ5つのスキルについて解説いただきました。

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マンパワーグループ株式会社
ライトマネジメント事業部 シニアコンサルタント 難波 猛さん

株式会社PHP研究所、株式会社太陽企画を経て、2007年に株式会社ライトマネジメントジャパン(現マンパワーグループ)入社。営業、研修講師、人事コンサルタントとして、日系・外資系企業を問わず2,000名以上のキャリア開発施策、人員施策プロジェクト、官公庁プロジェクトに携わる。コンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修講師・プロジェクトマネージャー等を100社以上担当。


ローパフォーマーのミドルシニア層は、“働く意欲がない”ではなく“働けない状態”に陥っている

「年上部下」などをはじめとしたミドルシニア層のマネジメントに困っている企業はとても多く、ここ数年は「働かないおじさん」というキーワードがGoogle検索で約600万件ヒットするなど、大きな社会課題となっています。私自身もミドルシニア層の活性化について数えきれないほど語ってきましたが、絶対に「管理職が気合と根性で指導しろ」とは言いません。ミドルシニア層の感情を踏まえ、 心理学などのロジックを考慮したコミュニケーションを取らないと、相手の行動変容には至らないから です。

そもそも、なぜパフォーマンスを発揮できないミドルシニア層が生まれているのでしょうか。

大きな原因は、「新卒一括採用」「年功序列型賃金」「終身雇用」という三種の神器から成り立っている「日本型雇用システム」にあります。収入やポジションが右肩で上がっていく仕組みで、大体の社員は辞めずに働き続けるため離職率を下げられるというメリットがありました。しかし、今回のコロナ禍をはじめ、世の中に大きな変化があった際に適応が難しく、パフォーマンスが落ちてしまうというデメリットも。

しかし、これは社員が悪いわけではありません。日本型雇用システムの仕組み自体が制度疲労を起こしつつあるのです。そのため、パフォーマンスに応じて役割の変更や昇格・降格、昇給・降給も辞さない人事制度に変革するのと同時に「なぜパフォーマンスが低下したのか」という原因を追求し、対応していくことが企業に求められます。

ローパフォーマーになったミドルシニア層は、 “働く意欲がない”というより“働けない状態”に陥っています。 その状態を変えなければなりません。

ミドルシニア層のパフォーマンスが落ちた場合、本人は何らかのギャップを抱えています。そのギャップは主に5つです。

  1. 役職定年などで肩書を失って意欲が落ちる 「意欲のギャップ」
  2. 期待される業務と理想とする業務に差がある 「期待のギャップ」
  3. 出している成果と求められる成果に差がある 「成果のギャップ」
  4. 今の時代に適応できずにいる 「時代のギャップ」
  5. 自己評価と会社からの評価に差がある 「評価のギャップ」

特に評価のギャップには上司も本人も相手を理解できず苦しみやすく、関係がギスギスしてしまいがちです。

ミドルシニア層を活性化させるためには、こうしたギャップを埋めるためのコミュニケーションを取る必要があります。「働け」と言って鞭を打つのではなく、 「何のギャップが生まれていて、それをどう埋めるか」 を真剣に考えていくことが重要なのです。

人事は人事制度による選択肢を与える。上司はフィードバックを与える

では、そのギャップを埋めるためには具体的にどうしたらいいのでしょうか。

これは、人事・上司・本人の誰かだけが努力してもうまくいきません。それぞれがギャップに向き合い、問題意識や当事者意識を持つのがポイントで、三者三様の役割があり、それぞれがその役割を全うしなければ解決に至らないのです。

人事がやるべきこと:ミドルシニア層に選択肢を与える

人事は人事制度を作り、ミドルシニア層に選択肢を与えます。自己決定理論という心理学のフレームでは、自分でコントロールできる自律性が高い状態だと自己効力感が高まり、モチベーションも上がることがわかっています。

ジョブ型なのかメンバーシップ型なのか、ジョブ型だとしてマネジメントコースなのかスペシャリストコースなのか、定年後は退社するのか会社に残るのかなど、会社側でいろいろな働き方の選択肢を用意しましょう。

さらにキャリアカウンセリングや1on1を行い、気付きの機会まで与えるのが人事の役割です。

上司がやるべきこと:フィードバックを伝える

上司はローパフォーマーとなったミドルシニア層にちゃんとフィードバックします。ポイントは、本人にとって耳が痛いネガティブフィードバックを怠らないことです。

特に日本の人事や上司は営業成績など数字の指摘はできても、本人にとって耳が痛いネガティブな指摘を行うのが苦手です。ネガティブフィードバックのやり方については追って説明します。

本人がやるべきこと:キャリア自律・キャリアを選択する

そして本人は、人事から与えられた人事制度などの選択肢と、上司からの率直なフィードバックを踏まえたうえで、いろいろな可能性を検討して決断する「キャリア自律」が求められます。耳が痛いネガティブフィードバックも本人なりに咀嚼し、どうすればいいかを考えて選択します。

このように、それぞれがこれらの役割を全うすることでミドルシニア層のモチベーションが向上し、行動が変わっていきます。

ネガティブフィードバックができていない企業の2大リスク

ここからは上司が行うべき「ネガティブフィードバック」について、なぜやるべきなのか、その必要性について解説していきます。

ローパフォーマーのミドルシニア層を再活性化させるためには、本人に「このままではいけない」という気付きを与え、成長の機会を設けなければなりません。そのきっかけとなるのが、現状にダメ出しをする「ネガティブフィードバック」です。

それだけではありません。ローパフォーマーのミドルシニア層を何も言わず放置していることで、若手社員が「やってもやらなくても上司の評価やメッセージは変わらない」と感じてしまい、成果を出している社員ほど離職する確率が高くなります。

つまり、 ネガティブフィードバックをしないと本人の気付きと成長の機会を奪ううえに、周囲のモラルとやる気まで奪い、優秀な若手社員の離職まで招いてしまう のです。

ただ、上司が嫌々ネガティブフィードバックをしても決してうまくいきません。上司の表情からやらされ感が伝わり、部下も感情的に反発しやすくなるからです。経営者や人事は、上司がネガティブフィードバックできない理由を把握して、その理由を否定せずに掘り下げて、上司のマインドセットを行っていくようにしましょう。

ネガティブフィードバックのためのマインドセットの作り方

上司がネガティブフィードバックをできない理由は、パワハラへの不安、反発への恐怖、年上部下、面倒くささ、あきらめなどたくさんあります。

一方で、これらの「できない理由」は「やらない目的」でもあります。

アドラー心理学で登場する目的論では 「原因があって行動する」のではなく「行動しないことに目的がある」 と考えます。たとえば「時間がないからフィードバックできない」というのは誤りで、実際は「時間は存在するけど、ほかの業務のほうが大事だからフィードバックをしないという選択をしている」わけです。重要なのは、経営者や上司自身がこれらの理由を「悪いこと」として責めず、いったん理解して受け入れてから対策を考えること。

ネガティブフィードバックに及び腰になったら「やらずに問題が解決するのか」を考えてみてください。「やらない選択」によって目的にたどりつけるのか、「やる選択」によってどうなるのかを突き詰めて考えます。実際はやったほうがうまくいくことが多くて、大体のケースは「期待したほど成功しない」「期待通りに成功する」「期待以上に成功する」のいずれかに落ち着きます。

ポイントは 「解決できるか」ではなく「問題に向き合いたいか」を軸に考えること です。向き合いたいか考える時に「ミドルシニア層の部下にハッピーになってほしいから」「改善できるはずだから」「周りの人に悪影響だから」などと目的を決めてから取り組めば、大体は期待に沿った成果が得られます。

フィードバックのコツは「5つのスキルセット」

ネガティブフィードバックでは不都合な事実を突きつけることになりますので、よほどアンガーマネジメントができていない限りは、怒りの感情がレスポンスです。そもそも、 自分自身を一瞬でコントロールしてすぐに内省できる人はローパフォーマーにならない んです。

自己認知のずれがありメタ認知能力が低い、ダニングクルーガー効果と呼ばれるギャップが大きくなっている相手に話すのは、伝える側も恐怖です。恐怖や面倒くささを乗り越えるためには、心理学的なステップを把握したり、ロジックで冷静に発言できないと、お互いに感情的になり過ぎてしまい、関係が悪化してしまう可能性もあります。

そのために必要なのが、ここで紹介する5つのスキルです。

①合意を得る

いきなりダメ出しして「ちゃんとやってください」と言っても、部下はコミットしません。改善すべきポイントを指摘し、 改善計画を本人に考えさせ、 その後に上司がアドバイスをします。そして、 本人が決めて宣言する のが重要です。一貫性の法則というものがあり、心理的に自分が言ったことは守りたくなるからです。

②不協和を創る

耳に痛いフィードバックは、「これでいい」と思っている本人にとっては聞きたくない違和感のある話です。しかし、本人の認識と矛盾した情報を与えることで「なんでこんなことを言ってくるんだ」と 認知的不協和を感じ、行動するきっかけになります。

これまでコンフォートゾーン(居心地が良い状態)だったぬるま湯が、近いうちに熱湯や冷や水になると予知させることで「もうここにはいられない」と脱するきっかけになるのです。

③話すより聴く「傾聴」

ネガティブフィードバックで認知的不協和を与えた時に「きちんと指摘してくれる優しい上司だ」と感じる部下はいません。部下は苦虫を嚙み潰したような顔になり、重く嫌な空気になるでしょう。それでも 「君にはこんないいところがあるから」とフォローしたりせず、部下が何か言うまで黙って待ってください。

大抵の上司はこれが苦手で、部下が不機嫌な顔をすると沈黙や間を恐れて被せたがりますが、その行動は本人が解決策を考える機会を奪うだけです。部下が口を開くまで何分でも待ち、もし「納得いきません、不満があります」と言ったらその理由を傾聴します。言いたいことを吐き出させると、本人の怒りが静まって冷静になります。

④行動と事実について話す(ファクトフルネス)

例えば「消極的だからもっと主体的に仕事してほしい」といった指摘は、抽象的で改善しにくいうえに、パワハラに該当するリスクがあります。主体性を持たせたいなら、上司から見て主体性が欠如していると感じた具体的な行動を指摘します。「営業会議のあの行動は主体性がなかった」というように、 事実ベースの行動を指摘し、改善を促しましょう。

⑤諦める(明らかに見極める)

今紹介した4つのスキルを駆使したとしても、全員が改善するわけではありません。すでに業務知識や経験が今の仕事や会社に合わなくなっている場合などは、パフォーマンスが改善しない人もいます。それなのに延々と耳に痛いことを言い続けると、ストレスフルになりメンタル不調に陥るリスクがあります。

際限なく改善を求めても、双方ともゴールのないマラソンを走るようなもの。3か月ほど1on1で向き合ってダメなら、求めるレベルを下げたり、配置転換をしたり、最終的には退職条件を考えたりと、 別の選択肢を設けるのも経営者や人事の役割 です。

経営トップが決意をもって動く会社はうまくいく

これらの5つのスキルセットを踏まえてフィードバックすれば、ローパフォーマーになったミドルシニア層が活性化しやすくなります。

とはいえ、ネガティブフィードバックはそんな簡単なものではありません。場合によっては、とにかく傾聴に徹したほうがいいときや、アドバイスや指摘を増やしたほうがいいときなどもあります。上司が適切なフィードバックを行えるよう、企業側でロールプレイの機会やスキル研修などを提供する必要があるでしょう。

そして、経営者や執行役員、人事部長などの上層部が決意を持って動く会社はうまくいきます。トップが「改善しなければ会社の成長や存続が難しくなる。その結果、今の処遇が保証できなくなる可能性もある、ラストチャンスだと思って真剣に対応してほしい」と全体にメッセージを伝え、 現場の上司に任せず一丸となって取り組んでください。

※本記事は、2021年12月8日に開催されたBrew株式会社主催のセミナー「『「働かないおじさん問題」のトリセツ』著者が語る~ミドルシニア層に対する上司が行うマネジメント・コミュニケーションの鍵」の内容をもとに再構成しました。

(文:秋カヲリ 編集:櫛田優子)

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