運送業界の人手不足問題、原因と対策は?
運送業界は、宿泊・飲食サービス業界と並んで、特に人手不足(ドライバー不足)が深刻な業界です。本記事では、運送業界のうち、特にトラック運送業界を中心に、人手不足の現状、原因、対策について考えていきます。
運送業の人手不足の現状:人手不足で倒産が増加
運送業の人手不足の現状を有効求人倍率、年間所得額、年間労働時間などの視点から見ていきます。
増える宅配便取扱個数に対してドライバーが不足
国内輸送のほとんどを担っているのはトラック輸送ですが、ここ数年の輸送重量は30億トン前後で、重量そのものは増加していません。また、営業収入は14~16兆円で推移しています。
【出典】日本のトラック輸送産業現状と課題2018 輸送トンキロの推移/日本トラック協会
【出典】日本のトラック輸送産業現状と課題2018 トラック運送事業の営業収入の推移/日本トラック協会
しかし、近年のインターネット通信販売の増加に伴い、個人向けの低価格輸送のニーズが高まっています。つまり、収益は増加していないのに、手間のかかる「多頻度小口」の物流が増えていると言うことです。
仕事量は増えていますが、人手は充足されていません。
従業員の過不足状況を表す有効求人倍率は平成30年4月時点において、全職業平均が1.35なのに対して、トラックドライバーは2.68と、他の職業に対して2倍近く不足しています。
【出典】トラック運送業の現状等について トラックドライバー不足の現状について/国土交通省
ドライバーの待遇面・労働時間の現状
仕事量は増加しているドライバーですが、待遇面は向上していません。
国土交通省の調査によると、トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者で約2割低い傾向にあります。また、年間労働時間は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で約1.22倍、中小型トラック運転者で約1.16倍と、総じて長時間労働を強いられています。
【出典】トラック運送業の現状等について トラックドライバーの労働条件①/国土交通省
人手不足を理由に倒産する運送業の企業が増加
近年、人手不足による倒産が多くの産業で起こっています。帝国データバンクの調べによると、2017年からは前年比40%以上のハイペースで増加しています。
負債規模別件数を見ると、2018 年は「負債規模1 億円未満」の倒産が、91 件と前年比85.7%増加しています。構成比でみると、前年から13.3 ポイント上昇し、59.5%と過半数を占めています。つまり、小規模な倒産が増えているということです。
さらに、業種細分類別の2013年~2018年までの累計件数を見ると、「道路貨物運送」が43 件で最多となっています。2018 年は21 件と、前年に比べて2.3 倍に急増しています。
トラック運送業界は、配送需要は高まっているものの、小規模企業を中心に、ドライバーを調達できず、受注もできなくなり、その結果資金繰りが悪化し、倒産が急増している様子がうかがえます。
【参考】「人手不足倒産」の動向調査(2013~18 年)/帝国データバンク
運送業の人手不足が深刻化している理由
運送業は慢性的な人手不足に陥っていますが、その詳細な要因はどこにあるのでしょうか。
宅配取扱個数の増加
インターネットがほぼ完全に普及し、スマートフォンなどで手軽に買い物ができるようになった近年、通信販売業界では、受注後の物流ニーズが急激に高まっています。
さらに、通信販売では「再配達」や「時間指定」、「温度帯別」、「返品可」、「料金代引き」など、配達サービスが高度化しています。そのため、ドライバーの作業は煩雑になり、加速度的に人手不足が進行しています。
【出典】宅配便取扱個数の推移/国土交通省
燃料費高騰による採算の悪化
運送業のコストの中で最も大きな比率を占めているのが人件費ですが、その次に大きな比率を占めるのが燃料費です。
近年、シェールガス革命により、原油の供給量が多くなったこともあり、比較的燃料価格は安定しています。しかし多くの産油国は政情が不安定であり、紛争や為替の変動があると、一気に価格が上昇し、経営を圧迫します。
特にトラック業界は中小企業者が多く、取引の関係上、荷主に対して、価格に転嫁しにくいというジレンマを抱えています。
【出典】日本のトラック輸送産業現状と課題2018 一般貨物運送事業損益明細表(全体)/日本トラック協会
※赤枠は筆者による
劣悪な労働環境のため人が集まらない
運送業はほかの産業に比べて年間所得が相対的に低く、労働時間も長いため、なかなか従業員が集まらないのが現状です。
さらに、特殊な免許の取得など、職業としてのハードルもあります。2007年に道路交通法が改正され、普通免許証で車両重量5トン以上11トン未満のトラックの運転はできなくなり、中型免許が必要になりました。さらに、大型自動車免許も近年取得が難しくなっており、運送業はドライバーとしての資格保持者の維持も困難になっています。
また、職種の特性として、荷役など肉体労働が多く、長時間の車両運転の危険や、宿泊を伴う勤務など、俗に「キツイ」「危険」「帰れない」の新3Kと言われる職場環境は、特に若年層を中心に敬遠されています。
【参考】トラックドライバーが減少している現実とは?人手不足の危機について/ドライバーマガジン
ドライバーの高齢化
従事するドライバーの高齢化も人手不足の要因となります。近年の国土交通省の調査によると、29歳以下の若年労働者の従業員構成比率は年々低下傾向にあるのに対し、55歳以上の高齢者の比率は25%前後で高止まりしています。労働環境の悪さから、若年層が集まらず、中高年が労働力を支えているという構図です。
今後は、中長期的に高年齢就業者の割合が急速に高まっているのに、若手・中堅層が極端に少ないといった年齢構成の歪みが、さらに顕著になることが予想されます。企業の存続自体にも深刻な状況と言えます。
【参考】トラックドライバーの人材確保・育成に向けて・平成27年5月28日 トラックドライバーの年齢構成の推移と女性の進出状況/国土交通省
運送業の人手不足解消のために必要な対策
人手不足が深刻な状況の運送業ですが、どんな対策が実施されているのでしょうか?国の施策を中心に解説していきます。
1. ドライバーの待遇改善・雇用促進
ドライバーの労働時間等労働条件の改善、女性や若者に対する雇用促進に関する施策を紹介します。
荷待ちや荷物の積込み、荷下ろし時間の短縮
ドライバーの拘束時間が長時間化している要因には、荷主の荷物の準備を待つ「荷待ち時間」や、人手による「荷物の積み込み・荷下ろし時間の長時間化」などの要因があります。
まず、荷待ち時間対策に関しては、荷主都合による30分以上の荷待ち時間の場合、乗務記録を義務化して実態の把握に努めるとともに、標準貨物自動車運送約款を改正し、荷待ち時間を「待機時間料」として、また、積込みや荷下ろしに関しては「積込料」及び「取卸料」として、それぞれ規定別途料金として収受しやすくすることを通じて、ドライバーの拘束時間の削減を図っていきます。
また、荷待ち時間短縮のための「予約システム」の導入や、荷物の積込み、荷下ろし時間短縮のための、パレットとフォークリフトを活用した「機械荷役」を推進されています。
【参考】自動車運送事業の働き方改革について 直ちに取り組む主な施策/国土交通省
政府が提示した労働時間ルールの遵守・労働条件見直し
トラックなどの自動車運転者は、業務の特性上、全ての産業に適用される労働基準法では規制が難しい面があります。そこで厚生労働省は、拘束時間や休息時間、運転時間等の基準を、「改善基準告示」として制定し、労働条件の規制の基準としています。
この告示は、業界や世の中の状況を加味して、必要に応じて改正されています。告示の改正に応じて労働条件を常に見直していくことが、労働環境の改善、ひいては人材の確保に繋がるでしょう。 運送業の労働時間ルールに関しては、長時間労働を抑制するため、国土交通省が労働基準法とは別に「乗務時間等告示」を行い、遵守できない事業者に対しては、営業車両の使用停止といった行政処分を設けています。さらに近年の労働力不足の深刻化に伴い、規定を厳罰化しています。
加えて安全規則によってドライバーの健康状態を把握しておくことや、社会保険の加入を義務化していましたが、今後は健康診断未受診者または社会保険未加入者が1名以上いた場合は警告、2名で20日間、4名で40日間営業車1台分が使えなくなるように厳罰化しています。
【出典】トラック運送業の現状等について 行政処分の強化等①/国土交通省
女性などの就労促進
運送業界は荷役などの力仕事もあることから、長年、男性の職種というイメージが定着していたため、女性の業界進出はなかなか進んでいませんでした。しかし、細やかな心配りやコミュニケーション能力、丁寧な運転など、女性の活躍が期待されています。
そこで国土交通省は、国土交通省自動車局ホームページ内に「トラガール促進プロジェクトサイト」を設置しました。業界イメージの改善に向けて積極的に情報を発信し、女性の業界進出を応援しています。
また、運送道中におけるトイレ使用や荷役作業時の省力化など、女性ドライバーの労働環境の一層の改善に理解や配慮をしている事業者等について、サイト内でトラガール協力企業として紹介しています。
さらに国は、事業者に対して、女性や若者を積極的に採用するための、保育施設設置・教育訓練・トライアル雇用に対する助成金や税額控除等の施策で応援しています。
【参考】トラガール推進プロジェクト/国土交通省
【参考】トラックドライバーの人材確保・育成に向けてトラックドライバーの人材確保・育成に向けて(両省の取り組み)/国土交通省・厚生労働省
2. テクノロジーを使った業務効率化
運送業は労働集約的な産業ですが、IoTなどのテクノロジーの進化により、人手不足を大きく解消する手法も開発・検討されています。
具体的には、物流センター内の荷物のピッキングや仕分けをロボットで自動化し、荷待ち時間を減少させたりする手法です。これはAmazonなどの通販事業者やヤマト運輸などの物流企業では導入が進んでいます。
また、自動運転技術を使って宅配荷物を配達する実証実験や、トラックの自動運転と高速道路の専用レーンを使って、劇的に物流を効率化しようとすることも将来的に検討されています。
さらに、通信販売では物流の多頻度小口化が課題になっていますが、Amazonはラストワンマイルを、ドローンを活用して配達を省力化しようとしています。
まとめ
- 運送業界では収益が拡大していないものの、宅配業務の増加で多頻度小口物流が拡大し、 労働時間が長時間化。年間所得は他産業に比べて低く、業界内の倒産が急増しています。
- 運送業の人手不足が深刻化している理由は、宅配取扱個数の増加、燃料費高騰による採算の悪化懸念、劣悪な労働環境、ドライバーの高齢化などがあげられます。
- 人手不足解消のために必要な対策として、ドライバーの待遇改善・雇用促進策としての荷待ちや荷物の積込み時間の短縮、労働条件見直し、女性や若年労働者に対する就労促進、テクノロジーを用いた業務効率化などがあります。
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