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ファミリーマート・澤田社長 先輩たちから学んだ「冷静な合理性」と「熱い情熱」

BizHint 編集部 2018年6月20日(水)掲載
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ファミリーマート社長の澤田貴司氏はいくつもの会社でマネジメントを行ってきました。その中で数々の著名経営者と一緒に働いてきた経験も。それらの経験を通じて澤田氏が求める「変革できるリーダー」像には、いくつかの共通する資質があります。具体的にはどのようなものか――。ファミマの変革の話を通じて、澤田社長が考える「リーダー」像をお伺いしました。

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前編ではリーダーの2つの仕事について伺いました。後編に入る前に前編の内容を振り返ってみましょう。

  • リーダーの仕事には2つある。1つは日々の課題を解決する仕事。課題解決のためのテクニックはいくつもあるが、大事なのは誰よりも現場を理解していること。机上の論理だけでは間違った判断をするようになる。
  • もう1つは未来をつくる仕事。これはリーダーにしかできない仕事。情報を集め続けることで、自分の業界、会社で起こりうることが見えてくる。そのヒントやアイデアを社内外の人たちに投げかけることで、ビジネスの形ができる。
  • 時には意図的に極端な指示を出すこともある。あえて一石を投じることで、組織の既成概念を揺さぶる。その結果、物事が一気に進むことがある。
  • リーダーは自分の思惑で指示してはいけない。澤田社長の場合は、すべての決断がお客さまのため、加盟店のため。さらに言えば、社員でありお取引先のため。三方良しだからこそ、平気で指示できる。

さて、後編では、澤田さんが「リーダーの成長方法」「澤田さん自身が影響を受けたリーダー」などについて語ります。

強いチームのコーチは「勝て!」と言わない

中竹竜二さん(以下中竹): 前編で、コーチの使う言葉とチームの成果の相関性についてお話しました。勝つチームのコーチは「I(自分)」を使わない。「We」という言葉を使う。「一体感が結果につながる」という実験結果をお話しましたが、実はほかにも、コーチの使う言葉とチームの成績に関する結果があります。

強いチームのコーチは「勝て」という言葉をほとんど使わない んです。もちろん、最初は勝つことが目的であることをちゃんと言うのですが、練習や試合がはじまったりすると、勝てとは言わない。それよりも、 選手のAttitude、つまり姿勢、プロセスの善し悪しを重視して指導する んです。こうしたアプローチに対して澤田さんはどう思いますか。納得できる部分はありますか。

澤田貴司さん(以下澤田): 分かります。私の場合は、相手によって使い分けています。 役員クラスに対しては、結果しか求めていません。 私自身、社長としてファミリーマートを任されている立場ですし、役員もそう。お互いプロなので、プロセスよりも結果で評価しています。

一方、 社員は違います。みんなチームで動いているし、やっている仕事も違います。定量的な評価だけではなく、定性的な視点を加味しないといけません。 業務管理に関しても社員一律の管理はやめて、できるかぎり現場の仕事内容に沿ったアナログのものに変えています。その意味で現場では「勝つ」ことよりもプロセスを大事にしています。

活性化した組織は、オンとオフを区別しない

中竹: 強いチームをつくりあげる過程では、試合や練習以外の場所での過ごし方も大事だといわれています。能力の高い選手を集めれば勝てるかといえばそうでもない。限られた練習時間だけ集まってトレーニングするだけでは、強いチームができない。やはり、歯を磨いたり、顔を洗ったり、休憩する時間をみんなとどう過ごすか。一緒にいるのが当たり前になる一体感を創り出すことが大事になってくるんです。

澤田: 数字では測りきれない部分のマネジメントは大事ですね。

中竹: 「業務」「業務外」の区別なく、 リーダーとチームメンバーのコミュニケーションを密にしていこうとすればするほど、ビジネスライクにはいきません。 リーダーとメンバー同士の「感情」の問題も避けて通れなくなります。

澤田: ビジネスライクの会話だけでは無理。 だから、リーダーって誰よりも仕事をするし、圧倒的に努力しないといけない と思っているんです。気合と根性の話じゃありません。 継続的にメンバーと直接コミュニケーションをし続ける「仕組み」が必要 で、それを続けることが大切なんです。

私の場合は、出来る限り加盟店に訪問して直接お話を伺っていますし、社員に対しては、年に一度は「気合注入講演会」というダイレクトコミュニケーションをしています。1時間半話し続けた後、参加した社員全員と握手するようにしているので、終わるとフラフラになりますよ。また「澤田めし」と称してお昼時、お弁当を一緒に食べながら社員たちと話をしています。この「澤田めし」で一緒にランチをした社員は1,000人を超えました。あと、広報室と連携して、会社の『今』をチェック出来る『Family Mart WEEKLY NEWS 』という動画も毎週配信しています。 とにかく伝え続ける努力が大事 なんです。

一方的に発信しているだけではなく、加盟店や社員へのアンケートを実施して、みんなの意見を集約し公開しています。良い意見も悪い意見もぜんぶ公開。隠し事なしです。オープンな場で酷評されるぐらいの覚悟がないとリーダーは駄目です。

自ら学び、自ら成長していくのがリーダー

中竹: 澤田さんに聞きたいのですが、「リーダーはどうやって成長していく」と思いますか。

澤田: 教育で伸びる部分はあると思います。実は今年を「教育元年」とし、社員向けの教育システムを強化しようと考えています。ただ、 リーダークラスに対しては「自分で学び、自分で成長していく」ことを期待しています。 そして同時に、リーダーたちにはなんらかの目標をコミットメントしてもらう。そして、もしできなければ「ほかのメンバーにチェンジする」といった、人事異動とセットで教育を考えています。厳しくもありますが、こうした状況も楽しんでくれるのがリーダーに期待していることです。

面白いと言ってくれるならば、「ファミチキ先輩」にもなる

中竹: 前編で、社員から「勝手に自主規制のルールをつくり萎縮していたのかも」といった意見がありました。 仕事ってプロセスそのものを楽しめるかどうかは大事 ですね。

澤田: 私も商品開発は楽しんで参加しています。商品開発は企業戦略と連携しているので、経営者の視点で意見を出しています。昨年は、「ファミチキ先輩」というキャラクターに扮してテレビCMにも出ましたし、いろいろな企画に積極的に参加しています。

中竹: ヒットもありましたか。

澤田: 「ファミチキ」の生みの親であり、長年ファミリーマートの社長を務めた上田準二さんをキャラクターにしたお弁当はヒットしましたよ。上田さんが、相談役として経営の最前線から引退する際に、商品本部のメンバーが、ファミチキを使った弁当を企画してくれたんです。その弁当の名前が「黒幕引き丼」。これは本当に売れました。

(黒幕引き丼のキャンペーンの様子)

社内の事情を扱った商品は賛否両論ありますが、加盟店やお客さまの話題になり、結果皆さんが喜んでくれればいい んです。楽しんでやってますよ。

自分が向いていない仕事はしなくていい

中竹: 先ほど、リーダーは「自分で学び、自分で成長しないといけない時代」とおっしゃいましたが、残念ながら、期待されている役割や過程を楽しめない人もいると思うんです。そうした人たちをどうやって引き上げるといいのでしょうか。

澤田: 特定の仕事が得意な人でも、マネジメントに向いてない人はいます。 得意じゃないのに年齢や肩書だけでそのポジションに置いておくのは、誰のためにもなりません。

ですから、 仮に「辞めたい」というリーダーがいれば、私は止めません。代わりに次の人にすぐにチャンスを与えるようにしたい んです。一見ドライなようですが、その人のためでもあるし、リーダーが「つらい」と思いながら日々の仕事をしているとすれば、そのチームの部下たちが可哀想なんです。だからそこはリーダーをはじめ、部下のためにすぐ替えますね。

中竹: 実は、私も早稲田大学のラグビー監督時代の1年目、プレイヤーとして天才的にうまい選手をキャプテンに据えたんです。「ポジションが人をつくる」との言葉を信じていたんですね。でも結果的に、本人も満足できるキャプテンとしての役割を果たせず、プレイヤーとしても調子を崩してしまったんです。それ以来、 プレイヤーとしての才能と、マネジメントの能力を厳格に分けて運用するようになりましたね。

イトーヨーカ堂、ユニクロ、スターバックス経営者から学んだこと

中竹: 最後に質問を1つ。澤田さんは、伊藤忠商事時代から著名経営者と一緒に仕事をする機会が多かったですよね。誰からどんなことを学びましたか。さらに、それらのエッセンスをどう澤田流に昇華されていったのでしょうか。

澤田: 伊藤忠時代、米国セブンイレブンの買収プロジェクトに参加したときお手伝いした イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊さんからは、近江商人「三方良し」の意味を学びました。 ファミリーマートの加盟店のため、お客さまのため、社員のため、お取引先さまのため、という前提に立って考え、行動することが経営者の仕事だと思っています。

ユニクロの柳井正さんは、常に冷静沈着、合理的に行動することを学びましたね。 私が副社長だったとき、フリースを仕掛けた原宿の店舗のオープンニングで、予想以上に人を集め大盛況だったことがあったんです。柳井さんにはいつも怒られていましたが、「流石に、今回は褒められるだろう」と期待していたんです。ところが、柳井さんはその時も「人が集まり過ぎて混乱すると、逆に評判を落とす。人の案内、商品補充は大丈夫なのか」と的確に状況を判断され、冷静に指示していました。 とても人情深い方なんですが、ビジネスに関しては恐ろしく合理的 なんです。

多くの人たちは経営を複雑に考えますが、 スターバックスのハワード・シュルツさんのシンプルな思考にはとても刺激を受けましたね。 「僕が成功したのは、自分より優秀な連中を採用して、みんなが生き生き働ける環境をつくっただけ」なんて簡単に言ってました。いつか言ってみたいですね(笑)。

このほかたくさんの方々と一緒に働いてきましたが、皆さんドライな合理性と同時に、ビジネスライクを超えた熱い人情、「元気さ」をもっている方が多かったですね。極端な2つの要素を武器にしているのだと思います。

中竹: そういえば、リヴァンプの共同創業者の玉塚元一さんは昨年までローソンの会長でした(2017年ローソン会長を退任。顧問に就任)。以前、「澤田さんがライバルだ」と言ってましたが。

澤田: 玉塚さんはライバルというより、長年の仕事仲間であり親友です。たまたま同じ業界にいただけですが、いつか一緒にコンビニ文化を盛り上げる企画とかできると楽しいでしょうね。


澤田貴司さん
株式会社ファミリーマート代表取締役社長
1957年生まれ。上智大学理工学部卒業後、81年伊藤忠商事入社。97年ファーストリテイリング入社、98年副社長。2003年投資ファンド「キアコン」設立。05年企業支援会社「リヴァンプ」設立。16年9月より現職。


(取材・文:瀬川明秀 撮影:キッチンミノル 編集:小竹貴子 上野智 櫛田優子) 

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