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連載:第9回 老舗を 継ぐということ

完全年功序列、日本一綺麗を謳う青果仲卸に求職者が殺到。伝えるのは「やらないこと」

BizHint 編集部 2020年6月2日(火)掲載
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京都中央卸売市場内にある青果の仲卸業、万松青果株式会社。卸売市場での取引高が年々減少し、仲卸業者数も減少している中、万松青果はこの10年間増収増益を続けています。 「完全年功序列・家族主義・日本一綺麗な仲卸」を標榜するレガシーな業態でありながら、求人募集の際には応募が殺到するといいます。その背景や人材に対する考え方について、専務取締役の中路和宏さんにお話を伺いました。

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万松青果株式会社
専務取締役 中路 和宏さん

京都市出身。23歳から5年間、築地の青果卸売会社でセリ人として勤務後、家業の万松青果株式会社に入社。「従業員を幸せにしたい」という想いを胸に、社長である弟さんと二人三脚で様々な改革に取組む。また「取引先の力になりたい」と中小企業診断士の資格を5年前に取得し、現在は経営者とコンサルタントの2足のわらじで活躍中。


「夫を面接に行かせます!」。従業員30名の会社の求人に応募が殺到

――貴社の求人募集時には多くの求職者が面接に訪れたと聞いています。

中路和宏さん(以下、中路さん): はい。前回の募集時には2ヵ月で40名の方に面接に来ていただきました。募集が終わった後も当社のホームページを見て「まだ面接できますか?」 と連絡をいただいた方もいました。

同じ時期、同業者では事務スタッフを募集しても応募が全く来なかったと嘆いておられましたので、本当に有難いことだと思っています。

――応募される方の動機はどういったものが多いのでしょうか?

中路さん: 当社のホームページに記載している経営理念や会社の考え方に共感して応募される方が多いですね。応募者本人ではなく、奥様が電話で「夫を面接に行かせますので!」と連絡をいただくこともありました。後日、面接に本人がやってきて「家内からいい職場が見つかった、と聞いて来ました!」と言うのです。あまりにも面白かったので即採用しました(笑)。

実はこれと全く同じパターンで入社した従業員がもう1人います。これらの出来事を通じて、少なくともホームページを見ていただいたその奥様方にとって、当社は 『自分の夫に働いてほしいと思える会社』 として映っているのだろうな、と感じました。

ここまで来るのにいろいろありましたが、結果としてすごくよかったなあと思っています。

組織がうまくいく秘訣は「様々なタイプの人、異質なものを認め合うこと」


青果仲卸の常識を覆す万松青果のユニフォーム。従業員は、多岐にわたるデザインから好きなものを選べる。

――人材については以前から順調だったのでしょうか

中路さん: いえいえ。従業員が次から次に辞める時代が続き、本当に苦労しました。私自身も30年前の入社以来、長年の間、社員と折り合いが悪くて毎日会社にいくのが嫌で仕方がありませんでした。周りは自分より年上の人ばかりで、自分の考えが全く通じなかったからです。

私は「挑戦したい!変革したい!」と考える人間でしたので、先鋭的な取り組みを進めるのですが、何をやってもすべて裏目。従業員は次々と辞めていきますし、衆目の中で罵倒されることもありました。夜も眠れず本当に苦しい日々で、家内には「今日で会社辞めるから……」と、度々弱音を吐いていましたね。

――最終的に辞めずにここまで頑張ってこられたのは何故でしょうか?

中路さん: 一番大きいのは、後から入社してきた弟の存在ですね。弟は私にとって初めての味方でした。弟は私がやろうとすることに賛同してくれて、「一緒に頑張ろう」という気持ちが生まれました。弟と私は性格やキャラクターが全く違うのですが、 「目指すところが同じ」というのは本当に大切なこと だと思いました。

近年、私は取引先の力になりたいと思い、社長業のかたわら中小企業診断士の資格取得を目指すことを決意したのですが、勉強との両立はさすがに難しかったので、弟に必死に頼み込んで社長を引き受けてもらいました。私にとって、弟の存在は本当に大きくて、心から感謝しています。


弟の中路昌則社長(左)と性格は正反対。互いを認め合い二人三脚で経営を進めている。

――今振り返ると、従業員が辞めていく原因は何だったと思われますか?

中路さん: 私が入社した当時は父が社長でした。私以外の従業員は皆同じタイプの人達で、その中で私はいわば「異質な人間」でした。

「会社を変えよう、新しい取り組みをやろう」という私の行動は、そういった人達にとっては心地よいものではなく、結果として居心地が悪くなり辞めていったのだと思っていました。

私もそういった状況に対して「彼らから気に入られること」を考えて行動した時期もありました。しかしそれでも従業員はなかなか定着せず、うまくいきませんでした。

振り返ってみると、 私は結局「自分が良かれと思ったことを一方的に押し付けていた」 と気付きました。日々、従業員が抱えている何かしらの問題やそれぞれの気持ちを最優先に考えていませんでした。

そのような「意識のズレ」に気が付かないまま接していたので、何をやっても従業員の理解は得られず、どんな取り組みも成果に結びつきませんでした。

――うまくいくようになったのには、何か変化があったのですか?

中路さん: 一つは採用の変化です。多くの失敗を経て、私なりに導き出した答えは 「当社の組織がうまくいくには、様々なタイプの人がいることが大事」 だということです。例えば、市場で働く人というのは「健康で、力持ちで、はきはき返事ができる」というイメージが一般的かもしれません。しかし今、私はそういう方は採用しません。

「こんな人は私の周りにはいないなあ」と思えば、即採用 します。振り返ってみると、いつも似たような人を採用していたんです。「こんな人」という基準がどこかにあって、それに沿った人を(良いなあ)と思って採用してしまう。 似たものどうしというのは、うまくいかなかった んですよ。

この採用基準は従業員にも公言し、またそういった理由を説明した上で採用していますので、自然と 異質な人を認める社風 が育ちました。

今当社にはいろいろなタイプの従業員がいますが、この方針がお互いを認め、フォローし合い、前に進んでいく組織に変化できた礎になったと考えています。

会社の考え方は、従業員とその家族に伝える


万松青果のホームページ。年功序列や家族主義などについて真摯な説明がなされている。従業員の家族の写真も数多く掲載

――志望動機で多いホームページの経営理念。ホームページ作成のきっかけは何でしょうか?

中路さん: 2015年くらいにIT関係の人と知り合って勧められました。当社は卸売業で取引先もほぼ固定だったので、「ホームページは必要ない」とずっと思っていました。新しいことに率先して取り組む性格ではあるのですが、いまいち目的が見い出せなかったんですよね。

でもふと「あ、やろう」と思ったのです。理由は 「当社の従業員とその家族に、会社の考えを伝える」 ため。

実は私は、子どもの頃から家業である青果卸という仕事にあまり誇りを持てなかったのです。私は周囲の子どもと同じように、サラリーマンの家庭のような、いわゆる「普通の生活」がしたいと思っていました。朝ごはんに家族が揃っていない、生活のサイクルが他所とは違う……。当時は家業のことを漠然としか知らず、ただただ違和感を抱えていました。

それを思い出したときに、従業員やその家族が、 当社の仕事や考え方を理解して、自分や家族の仕事に誇りをもってもらいたい 、と思ったのです。

そういった背景があるので、前述の「応募者の奥様がホームページを見て電話いただいた」という出来事は本当にうれしかったですね。

――ホームページでは「日本一綺麗な仲卸」と謳われています。

中路さん: 一般的に、卸売市場の店舗は雑然としたイメージではないでしょうか?私はその常識を変えたかったのです。当社も元々は雑然としていました。清掃をしないことが常識だった業界で、また日々忙しい中で「清掃をやってみる」というのは、思いのほかハードルが高いんですよ。しかし、思い切って一度、従業員と掃除してみました。

当初は「そこまではできない!」という意見もありましたが、いざやってみると……できるんですよこれが。すると意識が「できるんだ!」に変わり、今では毎日掃除するようになりました。掃除をすることが前提の店舗運営に変化しました。結果、日本全国から同業の方が視察に来られるようになりましたね。 


お昼前の清掃は万松青果の日課。卸売市場でここまで綺麗な店舗は非常に珍しい。

――経営理念では「理想と綺麗ごとだけで仕事をします」「不当なリベートは支払いません」と明確な方針を表明されていますね。

中路さん: 私は 経営理念で重要なのは「~します」ではなく、「~しません」という言葉 だと思っています。当社は「絶対に不当なリベートは支払いません。不正な取引はしません」と、グレーなことを認めない会社にしました。従業員には「当社は間違ったことはしない。誰にも後ろ指をさされることはない会社だ」と、誇りを持って欲しかったのです。

実際、採用面接の際にも「不当なリベートは支払わないんですよね?」と質問されることがあります。こういった質問は多くの採用面接ではタブー視されるのではないでしょうか?悲しい話ではあるのですが、会社や上司の指示で、本人の正義と反する行動をさせられてしまい心を痛める方がいます。そういった方にとって、これは大きな安心感であり、誇りです。 「何をしないか」を盛り込むことは、正しい考えを持つ仲間を採用するために非常に重要なこと だと思っています。

――今の時代に「年功序列・家族主義」を掲げていることも特徴的です。

中路さん: 年功序列というのは、正確に言うと勤続年数のことですね。実は以前、能力主義・成果主義を導入したことがあるんですよ。売上が上がれば給料も上がる、という具合に。しかし結果として、売上の増加には結びつきませんでした。

その時に思ったのは、成果が上がらない従業員が存在するのは本人だけの責任ではなく、上司、ひいては会社の責任だということ。そのためには、まず 会社全体で従業員の能力を押し上げていく文化や仕組みが必要 だと思いました。それができないのに、能力・成果主義だけ掲げても結果は伴わない。

能力・成果主義は、そうした文化・仕組みを作った上で、従業員の期待以上の報酬を支払えるよう経営することで互いの信頼関係が強固になり、組織・会社の力が高まる構造だと理解しました。

能力・成果主義での給与体系について従業員に聞いたことがあります。すると「売上の増減で給料が上下したら、モチベーションは下がることが多い」と言われました。その時、「売上を指標にして、それに給料で応えるのは 必ずしも従業員のモチベーションにはつながらないのではないか? 」と考え、能力・成果主義をやめ、売上ではないものを指標に据えました。 ※この指標については後編にて。

ただ、その過程で気づいた 「会社全体で従業員の能力を押し上げていく文化や仕組み」 が、「年功・勤続年数序列、家族主義」に繋がっていきました。

――どうつながっていったのでしょうか?

中路さん: 弊社のような中小企業で働いている人は、「この仕事がやりたかった」とか「この業界に憧れていた」ということが、真の入社動機であることは少ないのです。これはとても、とても重要なポイントです。

「この仕事をしたかったからこの会社に来た」わけではなく、仕事以外の目標のため、例えば「結婚や子供のためにこの会社に来た」という方が大半なのです。

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