連載:第2回 『LINE BOT AWARDS』グランプリ獲得! プロに聞く、組織開発のためのワークショップ・デザイン入門
『LINE BOT AWARDS』グランプリ獲得! プロに聞く、組織開発のためのワークショップ・デザイン入門
Google主催のコンペでのグランプリW受賞に続き、「LINE BOT AWARDS」でもグランプリを獲得したタキザワケイタさん。後編では人事担当者に向けた組織開発のためのワークショップ活用法を伺います。
価値観や働き方が多様化する現代。企業は様々なバックグラウンドをもった人々が集まる場になりつつあります。
特に、スタートアップや大企業における新規事業の現場においては社内のメンバーに加え、他企業からの協力者やフリーランスなどが集まり、限られた期間内に成果を求められるケースも増えているのではないでしょうか?
副業解禁やオープンイノベーションの流れが加速している現状を見ると、今後、この流れはさらに拡がっていくものと予測されます。
経営者や人事、ビジネスリーダーに今後ますます求められるであろう、「多様な人材の能力を存分に引き出す組織運営」はどのように実施していけばよいのでしょうか?
この問いに対して一つの解を示しているのが、一定期間に様々なバックグラウンドの人が集まり、進める、新規事業コンペでのプロジェクト運営です。
前編ではワークショップデザイナー、タキザワケイタさんがリーダーを務めるTEAMminedのプロジェクト「ハイレベルメンバーを共創させたら何が起きるか?実験」のエピソードから、人事担当者にも活用できる組織運営のエッセンスを取り上げました。
後編ではワークショップ型プロジェクトの手法をいかに組織開発に取り入れるか? に着目。タキザワさんご自身がワークショップを活用し、企業の組織開発をサポートした事例についても語っていただきます。
目的に応じてワークショップを使い分ける
経営者や人事担当者が企業内でワークショップを取り入れる際には、目的に応じて最適なワークショップを実施する必要があります。
ワークショップは目的によって大きく3つに分類されます。ユーザーのニーズやインサイトを探求する「 リサーチワークショップ 」、とことんアイデアを生み出す「 アイデア発想ワークショップ 」、企業の文化をつくり定着させる「 組織開発ワークショップ 」です。
たとえばTEAMminedでのワークショップは、GoogleやLINE主催のコンペで受賞できるアイデアを生み出すことが目的でしたのでアイデア発想ワークショップです。企業における新規事業の案出しや、オープンイノベーションの取り組みとして盛んに実施されているアイデアソン・ハッカソンも、この一種といえるでしょう。
アイデア発想ワークショップでは前編でご紹介したように、「いかに良いアイデアをたくさん生み出せたか?」によって評価されます。
ワークショップで部署や役職を越えた関係性を築く
一方、組織開発を目的としたワークショップでは、普段のチームメンバーだけではなく、部署や役職を越えたメンバーとの信頼関係を築いてくことが大切です。
立場が違う人々がフラットに意見を交わせる場をつくることは、アイデア発想ワークショップと同じですが、 アウトプットよりもプロセスを通じた信頼関係の構築を重視するのが組織開発ワークショップの特徴といえるでしょう。
前編で、メンバー同士が仲良しすぎると、アイデアの幅が狭まってしまうという指摘をしましたが、組織開発ワークショップでは信頼関係が築けていないと、会社について本音で対話することができず、ワークショップの目的が果たせなくなってしまいます。
短期決戦のコンペ参加で感じた、チームの「力」
僕は、ハンディキャップを持たれた方をチャットボットでサポートする「&HAND(アンドハンド)」で「LINE BOT AWARDS」のグランプリを頂きました。
&HAND アンドハンド:LINE #BOTawards グランプリ FINAL STAGE from Keita Takizawa
コンペへの参加を応募〆切り2週間前に決断し、プレゼン本番の2時間前にプレゼン資料が完成するというバタバタな状況でしたが、メンバーひとりひとりが自発的に行動し、クオリティの高い発表ができたと思っています。
改めて振り返ると、 それ以前のワークショップを通じてすでにチームビルディングができており、メンバー間の信頼関係があったのが大きなアドバンテージ でした。チームの力で目的を達成した実績として誇れるものです。
ワークショップによって組織開発を行う方法
組織開発の手段として、企業はどのようにワークショップ取り入れるとよいのでしょうか? 僕がこれまでに行った事例を紹介しながら、具体的な方法をご紹介します。
組織の状況に応じて「テーマとゴール」を決める
組織開発ワークショップを実施するとき、まず考えなくてはいけないのは「なにをテーマとし、なにをゴールするか?」です。
テーマは現在の組織の状況や、ワークショップを実施可能な日程・予算の中で、もっとも高い効果が狙えるものに設定するのがよいでしょう。
テーマには大きく分けて ビジョン、ミッション、ストーリー、アクションのフェーズ があります。
最初のフェーズは、「 会社のビジョンを作る 」や「 ビジョンを理解する 」です。
そもそも根本となりえる会社のビジョンが定義されていない場合、ビジョンをつくることから始めます。また、すでにビジョンはあるが社員に十分に理解されていない場合は、理解を深めてもらいます。 ビジョンを作るには「社員が会社のどんな部分に価値や不満を感じていて、どの方向に向かいたいか?」をヒアリングすることから始めます。
次に「 ミッションを考える 」。ビジョンを実現させるために必要なルールや行動指針を明文化します。この際ビジョンとミッションが連動している事が大切です。2つが連動していないと、社員が意思決定する際の判断基準にバラツキが出てしまいます。
そして、「 ストーリーを語る 」フェーズにて、社員にビジョンとミッションを自分事化してもらいます。それには、各自がビジョンとミッションを自分の言葉で語ることができ、ほかの社員のストーリーについても共感している状態になることが理想です。
最後は「 アクション 」のフェーズです。自分事化されたビジョン・ミッションを実現する為の具体的な施策と評価基準を設定し、実際に実践してもらいます。その際、企業側もそれを積極的にサポートしてあげることで、社員は自発的に行動するようになり、組織の文化が築かれていきます。
自分を活かしたファシリテーションをおこなう
ワークショップを進める際に重要になるのは、ファシリテーターの存在です。
参加者全員の本音を引き出し、全体で合意形成しつつ各参加者に自分事化してもらい、具体的な行動につなげていく事を心がけています。
全員に納得感を持ってもらいながら進めないと、組織の文化として根付いていきません。
その際、ファシリテーターの存在は非常に重要です。ファシリテーションを行う上でのテクニックは色々とありますが、これといった正解はありません。
なぜならファシリテーションにはその人の個性が自然と出るので、誰かのやり方をそのまま真似るのは難しいのです。
ファシリテーターを務める人は、まずは社外のさまざまなワークショップに参加して、そこで学んだことを実践し、失敗や成功を繰り返しながら 自分に合ったやり方を見つけていく ことをオススメします。
より良いファシリテーションを目指してスキルを磨き続ける
軽快なトークで場を盛り上げ、参加者を巻き込んでいくファシリテーションをおこなう方もいますが、僕は大勢の前で話すのが苦手だったので、プログラムデザインやスライドの分かりやすさ、事前のシュミレーションを入念におこなう事でそれを補っています。
ワークショップはライブでの1発勝負なので「こうやれば必ず成功する」といった方程式はなく、僕自身も常に新しいチャレンジを行いながら改善を繰り返しています。
最近、自分が取り組んでいるのは“ グラフィックファシリテーション ”です。
社会の変化が速い状況において、企業もスピード感を持った意思決定が求めれています。 ワークショップや会議のプロセスをリアルタイムで可視化し、議論を活性化させ、意思決定を促進させるグラフィックファシリテーションは、これから非常に求められてくるスキルだと思います。
参考書籍
『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(清水淳子)
企業内ワークショップで気を付けるべきポイント
企業内でのワークショップで成果を上げるためには、いくつかポイントがあります。
部署や役職に捉われないチーム編成
ワークショップの参加者は多様である程、高い成果が期待できます。組織開発ワークショップでも、「 部署や役職、社歴に捉われないチーム編成 」やワークショップ内でチームのメンバーをシャッフルすることで議論を活性化させ、予定調和になってしまわない様に気をつけます。また、元社員や会社について精通している外部の方に参加いただき、外の視点を取り入れることも非常に効果的です。
安心して本音で語りあえる場づくり
その際、「普段は言いづらい事でも安心して話せる場」を丁寧につくっていきます。
例えば、会社のビジョンをテーマにワークショップを行う際は 「会社の悪い所・弱み」 を出し尽くしてもらいます。 特に、若い社員にとっては普段は言いづらい内容だと思いますが、逆に最初にネガティブな話題から入った方が会話がはずみ、共感を呼びやすく、場が盛り上がります。
良いところだけでなく、悪いところも認めることで、「じゃあ、これからどこを目指そうか?」という議論を始めることができるのです。
過去の組織開発ワークショップでは、全社員に「会社の悪いところ」について匿名アンケートを実施した上でビジョンをつくっていったところ、社員が大量に退職したけれど、結果的に組織が強くなった事例もあります。
会社のビジョンを「自分事化」した結果、「良い会社だが今の自分とはマッチしていない」と判断した社員が抜け、逆にビジョンに共感した人材を採用することができました。
退職者が出るのは一見ショッキングではありますが、「何のためのワークショップか?」「組織としてどこを目指すのか?」を共有する事によって、組織はより強くなれるはずです。
この組織の場合も、結果的に退職した元社員とは良好な関係が続いています。
ワークショップでの発言が共感されたり、アイデアが採用されることで自然と当事者意識が生まれます。逆に、その場で合意された事柄がワークショップ後に実行されない場合、一気にモチベーションは低下します。組織開発ワークショップを行う際は、企業として社員の本音をすべて受け入れる態度が求められます。
社内でワークショップを行う場合、外部からファシリテーターを呼ぶのではなく、社長や他の経営陣が仕切るケースも多いと思います。しかし、 社長がファシリテーションをした結果、社員が本音で話すことができない ということが起きてしまうため、経営者や役職者がファシリテーションすることはお勧めしません。
ただし、社長や役職者にもワークショップを体験してもらう事は重要なので、オブザーバーとして参加してもらったり、最後にコメントをもらうのも一つの方法です。
また、ワークショップ後には必ず参加者にアンケートを取り、ワークショップを評価してもらいます。結果は次回のワークショップで共有し、悪い点はすぐに改善します。そうすることで、ファシリテーターは中立でありながら、参加者と同じ目線に立てる様に意識しています。
ワークショップでの「共創活動」がこれからの働き方になる
今後、ダイバーシティが進む中、多様なメンバーと信頼関係を構築し、最適な手法をもちいた“共創活動”ができれば、それ自体が「これからの働き方」につながっていくと考えています。ワークショップを通じて新しい働き方を実際に体験することで、その後の業務にも生かしやすいのではないでしょうか?
ちなみに僕がいま実施してみたいのは「 会社を辞めた人を集めたワークショップ 」です。
離職する背景はさまざまでしょうが、会社に何かしらの不満があるから辞めるはずです。しかし、退職して外から客観的に会社を眺めることで、はじめて気づくことも少なくないと思います。中と外の視点の両方を持った離職者でのワークショップで、これまでにない視座が得られると考えています。いくつかの会社に提案しており、人事の方は非常に興味を持ってくれるのですが、経営陣に相談しにくいというの課題です(笑)。
ワークショップ後に自走できるのが理想の姿
さらに言えば、ワークショップに参加したみなさんが手法を学び、業務でも実践している状態が理想です。 とあるメーカーでは、「企業ビジョンを浸透させる」というテーマでワークショップを実施したところ、参加した社員の方々がプロジェクトを立ち上げ、全国の営業所で自発的にビジョン浸透ワークショップを実施しだしたという事がありました。
ほかにも、化学メーカーで「新しいオフィス・働き方をデザインする」という月1回のワークショップを7連続で実施したのですが、その際は、各ワークショップの間に、前回の振返りと次回に向けたワークショップを、自発的に企画して実施してくれていました。
このように参加者がワークショップ後も、自分たちで企画してワークショップを実施できるようになると、組織の文化も成熟し、社会の変化にも柔軟に対応できます。。
「熱量」を映像で記録する
ワークショップの様子を映像で撮影するのも効果的です。ワークショップ後には報告書を作成しますが、書面では場の「熱量」が失われてしまいます。しかし、映像だとその場の空気感や社員の表情まで伝えることができます。
参加者や自分が映っているで自分事化されますし、経営者も「社員がこんなに熱量を持って会社の未来を考えてくれているんだ」と感じ取ってもらうことができます。さらに映像をイントラに掲載すれば、会社全体を巻き込んでいくことも可能です。
人事担当者にこそ、ファシリテーションに挑戦してほしい
組織開発は人事の重要な役割
人材の多様化が進んでいるなか、企業にとって組織開発は難しい問題となっており、その方法論が改めて注目されています。
まとまりがあって風通しもよく、社員同士が信頼関係を持つ組織を作っていくことは、人事の重要な役割の一つであると思います。
ですから僕は、人事担当者にこそ積極的にワークショップでのファシリテーションに挑戦してほしいと思います。
最近は以前にも増してファシリテーションが重要視されています。ビジネスや社会課題が複雑化していく中で、ゴールの見えないプロジェクトをリードしていくには、ファシリテーションのスキルが必須です。今後は会社の枠を超えて、スキルとパッションを持った人たち同士が共創し合うことで、課題解決の道筋が見えてくると考えています。
ワークショップの本質はコミュニケーションの質と量を上げること
テーマに応じて最適な手法を選び、プログラムをデザインし、場をリードする事で期待以上の成果をあげられる事はワークショップの醍醐味です、しかしそれよりもっと大切な事があります。 それは、メンバーのコミュニケーションの量と質を上げることです。それができれば、ワークショップ後も自然と良い方向に向かっていきます。
その観点で、僕はよくワークショップ後に「懇親会」をセッティングしてもらう様にしています。「ワークショップはアイスブレイクで、飲み会からが本番です」とお伝えしているくらいです。 ワークショップでの出来事を話題に、リラックスした状況での振返りは、信頼関係の構築に非常に有効です。
業務でもそれぞれの部署と関わりがある人事担当者だからこそ、さまざまな部署の人々を繋ぐことができます。人事担当者はどんどんファシリテーションに挑戦して欲しいですね。
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}
バックナンバー (2)
『LINE BOT AWARDS』グランプリ獲得! プロに聞く、組織開発のためのワークショップ・デザイン入門
- 第2回 『LINE BOT AWARDS』グランプリ獲得! プロに聞く、組織開発のためのワークショップ・デザイン入門
- 第1回 GoogleコンペW入賞。「最強打線」のワークショップから学ぶ「勝てる」チームづくり 4つの方法論