はじめての方はご登録ください(無料)会員登録
search

2018年9月28日(金)更新

パワハラ(パワーハラスメント)・モラハラ(モラルハラスメント)

パワハラやモラハラの問題は企業の規模にかかわらず起こる可能性があり、被害を受けた社員が精神障害を発症して労災と認定されることも少なくありません。ここでは、パワハラとモラハラの違いをそれぞれの対処法・防止法なども含めて解説します。

パワハラ(パワーハラスメント)・モラハラ(モラルハラスメント) に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

「パワハラ」と「モラハラ」

パワハラやモラハラに限らず、セクハラやマタハラなどハラスメントには数多くの種類があり、その数は実に20~30種類ともいわれています。

パワハラもモラハラも、職場の上司や先輩などからの「いじめ」や「嫌がらせ」といった形で現れることが多いハラスメントです。その中で、パワハラは権力や地位、能力などの力関係を伴う威圧的なハラスメントを指し、モラハラは力関係を伴わず、精神的な暴力が続くものといった違いがあります。

【関連】【社労士監修】ハラスメントの意味とは?定義や防止策も交えご紹介 / BizHint HR

パワハラ(パワーハラスメント)とは

厚生労働省の「パワーハラスメント対策導入マニュアル 予防から事後対応までサポートガイド(第2版)」などに基づき、定義を確認していきます。

【参考】 厚生労働省:パワーハラスメント対策導入マニュアル 予防から事後対応までサポートガイド(第2版)

パワハラの定義

職場におけるパワーハラスメントとは、職務上の地位や人間関係などの「職場内での優位性」を背景に行われる行為です。また、その行為は「業務の適正な範囲」を超えたもので、精神的、あるいは身体的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりするものを指します。

「業務の適正な範囲」であるかどうかが重要になるため、たとえば上司が部下に対して厳しく叱責した場合でも「適正な範囲」と判断されればパワハラに該当しません。

さらに、「職場内での優位性」とは業務に関係した専門知識がある、または豊富な経験を有しているなどさまざまな優位性を含むものです。そのため、長年、同じ業務に従事している経験豊富な部下が、新任の上司に対して行った継続的な嫌がらせなどがパワハラに該当することもあります。

パワハラの6つの行為類型

厚生労働省は、パワハラの主な行為として以下のような6つの行為を挙げています。ただし、6つの行為以外は「パワハラに当たらない」というものではありません。

また、パワハラは行為そのものだけでなく、業種、行為と業務との関係、また、行為が行われた状況や行為の継続性などさまざまな要因から判断される点に注意してください。

1.身体的な攻撃

具体的な行為としては、暴行や傷害です。身体的な攻撃には、たとえば髪を引っ張られた、胸座をつかまれた、あるいは長時間、正座をさせられて物差しで頭を叩かれた、蹴飛ばされたなどの行為が含まれます。

2.精神的な攻撃

精神的な攻撃とは脅迫したり、侮辱したり、また、ひどい暴言を繰り返して精神的にダメージを与えるものです。客の前で「バカ」「ボケ」などといったり、他の社員の前で「役立たず」など無能な社員と何度もいったりするのはパワハラに該当するでしょう。

3.人間関係の切り離し

人間関係の切り離しとは挨拶しても無視される、報告をしても反応してくれない、あるいは他の社員に関わらないようにいい仲間はずれにする、別の部屋に隔離するなどの行為です。また、社員旅行や忘年会などに参加しようとしても拒絶される、回覧物が自分には回ってこないなど場合も人間関係の切り離しに含まれます。

4.過大な要求

過大な要求は業務として必要ではないことをさせる、または一人では到底やり切れない仕事をやるように強制するなど無理難題を押しつける行為をいいます。また、業務とまったく関係のない私的なことを強制する行為も含まれ、たとえば先輩社員が後輩に私用の買い物をさせる、車での送迎を無理矢理させるといったケースです。

5.過小な要求

過大な要求とは逆に、仕事を与えないというのもパワハラに該当します。また、その社員の能力や経験からすると明らかに程度の低い仕事をさせることも、過小な要求に含まれる行為です。たとえば、バスの運転手に対して1か月にわたって除草作業をさせたケースでは企業側に損害賠償を命ずる判決が出ました。

6.個の侵害

家庭のことや信仰する宗教など業務とは無関係なこと、プライベートなことを根ほり葉ほり聞き出すといった行為は私的なことへの過度な立ち入りとみなされます。

被害を受けたと感じている社員にとっては、たとえ苦痛に感じた指導であっても「業務の適正な範囲」と判断されればパワハラには当りません。それぞれの企業や職場の中で、パワハラに対する認識の統一を図ることが重要になります。

パワハラのタイプ別にみた実態

職場で実際に起こっている行為としては、どのようなものが多いのでしょうか。まず、過去3年間にパワハラを受けたことがあるという従業員(2,279人)の調査を基に紹介します。

パワハラのタイプ別にみると、以下のような結果でした。

  • 精神的な攻撃 55.8%
  • 過大な要求 28.7%
  • 人間関係からの切り離し 24.7%
  • 個の侵害 19.7%
  • 過小な要求 18.3%
  • 身体的な攻撃 4.3%

被害者の性別で分けてみると、「人間関係からの切り離し」は男性(21.5%)に比べ、女性の方が高く(29.0%)、「個の侵害」も男性の17.1%に対して女性は23.2%を占めています。逆に「過大な要求」は男性が31.2%と高く、女性は25.2%でした。

【出典】厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p54

タイプによる判断の難しさ

厚生労働省が行った企業調査を基に、相談件数と実際にパワハラと認められた件数のギャップを比較すると「精神的な攻撃」と「身体的な攻撃」では違いが認められました。

過去3年間に受けたパワハラの相談件数(2,083件)のうち、「精神的な攻撃」は69.6%を占め、パワハラに該当した件数としても「精神的な攻撃」がもっとも多く、44.2%でした。相談件数とパワハラの該当数には、25ポイント以上の差があります。

一方、「身体的な攻撃」の相談は14.7%、パワハラに該当したのは11.2%で、6つのパワハラのタイプの中でもっともギャップが小さいという特徴がみられました。

一概にはいえませんが、精神的な攻撃の場合は被害者がパワハラと感じても客観的にはパワハラに該当しないケースも多く、身体的な攻撃に比べると判断が難しいといえるでしょう。

【出典】 厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p33

モラハラ(モラルハラスメント)との違いとは?

モラルハラスメントは「精神的な嫌がらせ」と訳されることも多く、「いじめ」に近い概念といわれています。

モラハラとは、言葉や態度、身振りなどによって人を不安に陥らせたり、巧妙に支配したり、人格や尊厳を傷つけるなどの精神的な暴力や虐待のことです。パワハラのように大声で叱責したり、殴ったりという威圧的な行為ではなく、加害者には積極的な悪意はないといわれています。被害者はストレスに感じているのに、加害者の方は「指導したつもりだった」ということも多いです。

そのため、モラハラは目に見えた被害がないなどの特徴から「見えない暴力」と呼ばれることもあります。ただし、見えない暴力といっても「陰湿さ」や「継続性」によって、被害者が受ける精神的なダメージは決して小さくありません。

【参考】
独立行政法人労働政策研究・研修機構:メンタルヘルス フランス 「モラル・ハラスメント」規制を法制化
日本法規情報 モラルハラスメント対策 相談サポート:職場環境を悪化させる、モラルハラスメントとは

企業への悪影響

ハラスメント対策は、企業にとって放置することのできない重要課題の一つです。厚生労働省の調査をみると、パワハラによる企業の損失として9割以上の企業が「社員の心の健康を害する」「職場の雰囲気が悪くなる」などの点を挙げています。

ところで、セクハラやマタハラは男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正により、ハラスメントの防止措置を講ずることがすでに使用者の義務となりました。パワハラやモラハラの場合、使用者は民法の使用者責任や債務不履行責任などを負うことがあり、高額な損害賠償を命じられたケースもあります。

【参考】図表2-3-15 パワーハラスメントが企業にもたらす損失 / 厚生労働省

使用者責任(不法行為責任)

パワハラやモラハラによって被害を受けた人がケガをした、あるいは精神障害を発症して自殺した場合などに責任が問われるのは加害者(行為者)の社員だけではありません。民法715条の定めにより、その社員が所属している企業にも使用者責任(不法行為責任)が生じることがあります。

職場でのパワハラに関する裁判をみると、加害者の不法行為と企業の使用者責任を認め、加害者と企業の双方に損害賠償を命じた判決が出ています。

債務不履行責任(職場環境配慮義務)

労使間の労働契約に伴い、使用者には労働者が快適に働けるように職場環境を整える義務があり、「職場環境配慮義務」と呼ばれています。そのため、使用者は、職場におけるパワハラやモラハラによって職場環境が悪化するのを防止しなければなりません。

もし、職場内でパワハラなどの問題が起こり、快適な就労を妨げられた場合には使用者が義務を果たしていないことになるので債務不履行責任(民法415条)を問われることが十分あり得ます。使用者はパワハラやモラハラの予防を図るとともに、問題が発生したときに放置しない、黙認しないことも重要です。

職場環境の悪化

職場内で起こるパワハラやモラハラの問題は、職場環境を悪化させる要因です。ハラスメントの問題は被害を受けた社員だけでなく、ひどい暴言やいじめなどを近くで見ている他の社員にも影響が及び、職場内の雰囲気が悪くなり、人間関係もぎくしゃくします。

たとえば、上司から毎日のように罵声を浴びている同僚の姿を見て強いストレスを感じ、自分もいつか同じようなことをされるのではと不安になるという人は少なくありません。中には、自分がいじめられるのを防ぐために、意に反していじめに加担する人もいます。

社員の心の健康への影響

パワハラやモラハラは長期にわたって続く傾向があるので、被害を受けた社員は精神障害を発症して休職や退職に追い込まれることも多く、中には自殺で命を失うこともあります。

職場いじめと社員のメンタルヘルス不調には関連が認められ、いじめを受けている人は心理的ストレス反応のリスクやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクが高くなります。

また、パワハラやモラハラなどのハラスメントは継続性だけでなく、次第にエスカレートする可能性もあるので注意が必要です。ひどい行為を続けていると加害者自身も自分の行為をコントロールできなくなってエスカレートしやすいので、被害者のダメージは一層、大きくなる危険性があります

そのような危険性を示唆するものとして有名なのが、1970年代、アメリカのスタンフォード大学で行われた「スタンフォード監獄実験」です。この実験は、心理学実験として一般の学生を刑務所の看守役と囚人役に分けて2週間行う予定でしたが、看守役のあまりの残酷さと囚人役の精神的ダメージの重さにより6日で中止になりました。

ごく普通の学生でも看守という役割を与えられ、権力を持つ人と持たない人が刑務所のような狭い空間にいると理性の歯止めが利かず、行動が激化する可能性を示しています。

職場いじめは、ターゲットが他の社員にも広がったり、被害を受けていた人が加害者に変わってしまったり、負の連鎖によっていじめが蔓延する可能性も否定できません。企業としてはハラスメント防止と適切な解決に向けて、早期の取り組みが必要です。

【参考】クオレ・シーキューブ:職場のハラスメント対策情報コーナー ハラスメントQ&A

生産性の低下や人材の流出

職場の雰囲気が悪く、メンタルヘルス不調者が多い職場では生産性が低下し、転職を希望する人も増えるでしょう。

また、被害者へのフォローや加害者への処分など、会社側がハラスメントの問題にどのように対処するのかという点には多くの社員が注目しています。会社が問題を隠蔽したなど対応方法を誤ると被害者のみならず、他の社員も納得がいきません。その結果、働く意欲が下がることで生産性が低下し、優秀な人材が転職するなど、企業にとっては大きな損失につながります。

自社が信頼を失う

都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられた相談のうち、「いじめや嫌がらせ」に関するものはここ数年、もっとも多くを占め、法廷で争うといったケースも目立ちます。被害者が労災を請求したり、提訴したりすれば、会社側はその対応に手間も時間もかかり、さらに、多額の損害賠償を支払うことになれば金銭的にも大きなダメージです。

近年、パワハラなどのハラスメントの問題を扱ったニュースや記事が増えています。ハラスメントの実態やその後の企業の対応については、社会的にも注目度が高まっています。そのため、一度、企業名とともにハラスメントの問題が報道されれば企業としての信頼を失い、企業イメージに深刻な影響を与えかねません。

パワハラ対策に取り組んでいる企業は取り組みをしてない企業に比べ、企業の損失として「訴訟などによる金銭的負担が大きい」「企業イメージが悪化する」という点を挙げています。社員の心身の健康を保持増進して業績アップを目指すという視点と、自社の信頼を失うなど企業の損失リスクを低下させるためにもハラスメント防止策に取り組みましょう。

【出典】
厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p20
独立行政法人労働政策研究・研修機構:日本における職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの現状と取り組み p16

判例・事例

ここでは、実際に裁判で争われたケースを取り上げます。パワハラと認定されたケースと認められなかったケースを通してパワハラと判断されるポイントを見ていきましょう。

パワハラと認められた判例①:身体的、精神的な攻撃の例

<メイコウアドヴァンス事件(名古屋地裁:平成26年1月15日判決)>

本件は、自殺した従業員の遺族が自殺の原因は2名の会社役員による暴行や退職勧奨などであるとして損害賠償請求訴訟を提起したものです。裁判では、暴言や暴行、退職強要などの不法行為と自殺の間には相当因果関係があり、会社の使用者責任を認めて会社と会社役員(1名)に損害賠償として5,400万円余りの支払いを命じました。

死亡した従業員は仕事でミスをしたときに会社役員から「ばかやろう」「てめえ、何やってんだ!」などと大声で怒鳴られ、頭を叩かれたり、殴られたりということが複数回ありました。また、役員は被害者のミスによって生じた損害について被害者に高額の弁償を求め、被害者の太ももを蹴って全治12日間ほどのケガもさせていたのです。

さらに、自殺の数日前に、被害者はミスに関連した損害賠償を退職時に支払う旨を記載した退職願を書くように役員に強要され、実際に退職願の下書きをしていました。

裁判では、被害者が受けた暴言や暴行はミスに対する叱責の範囲を超えたもので被害者を威迫(いはく)して強い不安に陥れた不法行為とし、退職強要も不法行為と判断しました。

刑法上の「暴行」の場合は、一般には不法行為と判断されます。また、違法性の判断にはミスに伴い求める弁償額が社会一般において適当か、ミスに対する指導が過度に厳しく、人格を否定するような暴言を含んでいないかなど適切な範囲か否かが重要です。

退職勧奨や従業員のミスによる損害賠償を退職時に誓約させること自体は違法ではありません。しかし、従業員の意に反するような強要の仕方をすると不法行為と判断される可能性があるので注意してください。

【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団「裁判例を見てみよう」 メイコウアドヴァンス事件(名古屋地裁:平成26年1月15日判決)

パワハラと認められた判例②:精神的な攻撃の例

<カネボウ化粧品販売事件(大分地裁:平成25年2月20日判決)>

本件は、定例的に開催される研修会で余興として行われた罰ゲーム(コスチュームを着て発表)が美容部員の心理的負担を大きくしたとして上司や会社等の不法行為を認めたものです。

判例ではコスチュームの着用が強制ではなかったとしても、また、被害者が拒否の態度を明らかに示さなかったとしても一般社員が拒否することは極めて困難であったとしています。なお、上司らは罰ゲームがコスチュームの着用であることを事前に知らせていなかったため、被害者は覚悟を決める間もないうちに着用を求められた点も指摘しました。

さらに、本人の了解もないままコスチュームの姿を撮影し、上司らは後日、他の社員にも見せたなどの行為が被害者に過度の心理的負荷を与えたとしています。本件は、レクリエーションの目的を認めつつ手段としては不適切で、研修会での被害者の様子だけを見て精神的苦痛を受けていないとするのは適切ではないとして違法性を認めた事案です。

【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団「裁判例を見てみよう」 カネボウ化粧品販売事件(大分地裁)平成25年2月20日判決) 

上司の叱責が違法とは認められなかった例

<前田道路事件(松山地判:平成20年7月1日、高松高判:平成21年4月23日)>

上司の叱責によって自殺したとして遺族が提訴したものです。地裁では上司の叱責と自殺の間には相当因果関係があり、過剰なノルマの強要や執拗な叱責は違法と判断しました。しかし、高裁では一転、「業務上の指導の範囲を超える」と評価できないとして請求が棄却されたという事案です。

建設業の営業部長に昇進したAは、昇進後に不正経理を行っていました。監査に訪れた上司がAの不正経理に気づき、早期に是正するように指導を受けましたが、Aは指導を受けた後も1年ほど是正を行わずにいました。そのため、上司は電話で繰り返し叱責し、業績検討会でも「会社を辞めればそれで済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならない」など厳しく指導しました。Aは業務検討会の3日後に自殺しています。

上司の叱責などを違法ではないとした高裁の判決を見てみると、上司が繰り返し指導しても改善がない場合には、ある程度、厳しく指導するのは正当な業務の範囲内としたのです。このように上司がある程度、厳しく指導した場合でも指導経緯によって適法とされることもあります。しかし、部下の人格を否定したり、罵倒したりする行為をすべて適法としている訳ではありません。

【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団「裁判例を見てみよう」 前田道路事件(松山地判:平成20年7月1日、高松高判:平成21年4月23日)

厚生労働省のパワハラ対策のサイト「あかるい職場応援団」では、「裁判例を見てみよう」というコーナーで数多くの裁判例を紹介しています。パワハラのタイプやパワハラと認められた例、認められなかった例などによって検索もできるので参考にしてください。

【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団「裁判例を見てみよう」

パワハラ・モラハラを防止するには

職場におけるパワハラやモラハラを防止するには、以下のような取り組みが必要です。

企業のトップからの方針表明

パワハラやモラハラが起きない企業風土をつくるには、企業のトップから従業員に向けて「ハラスメント防止は企業としての重要な課題である」という方針の表明が必要です。企業のトップが方針を明確にし、全従業員に発信することによって従業員の中に相手の人格を尊重する意識が生まれ、問題点の指摘しやすさなどにもつながるとされています。

トップから方針を表明するときは、「なぜハラスメント防止が重要なのか」といった取り組みの重要性や理由を具体的に伝えると従業員にわかりやすいメッセージになるでしょう。

就業規則などでルールを決める

パワハラなどの防止策をより効果的に進めていくには、企業からの一方的な押しつけではなく、労使協定などでルールを決めて「労使一体」で取り組むことが求められます。

また、パワハラやモラハラに該当する行為をした従業員(加害者)に対する処分についても、就業規則などに予め定めておくことが必要です。就業規則に直接、規定する方法のほかに、委任規定を設けて「ハラスメント防止規定」のように別規定で詳細に定める方法もあります。

厚生労働省の以下のサイトには、就業規則や労使協定の具体的な例が掲載されているので参考にしてみてください。

【参考】 厚生労働省:パワーハラスメント対策導入マニュアル 予防から事後対応までサポートガイド(第2版)

社内の実態を調査する

アンケート調査などを通して、パワハラやモラハラに関する社内の実態調査をすることも必要です。実態調査をすることで従業員がパワハラについて自身を振り返ったり、職場で話題にしたり、ハラスメントの問題を身近な問題として認識する機会になります。また、パワハラに関する従業員の意識や社内の現状を把握することにより、自社に必要な防止策を具体的に検討することにもつながります。

効果的な実態調査にするためのポイント

実態を正確に把握するには、アンケート調査が従業員にとって「回答がしやすい」、実態を「ありのままに記載しできる」といった点が重要です。

そのため、無記名で調査する方がよいでしょう。また、人数の少ない職場では年齢や性別などによって個人が特定されてしまうこともあるので、そのような状況を避ける工夫も大切です。実施方法は、調査票を紙で配布・回収する方法だけでなく、インターネットを利用した回答方法なども幅広く検討し、回答率の高い調査を目指してください。

早期の調査で防止策にいち早く取り組む

パワハラに関する取り組みは1、2年でも効果を実感できることもありますが、長く取り組んでいる企業の方が効果をより実感しています。その点から、できるだけ早い時期に実態調査を行い、早期に取り組みを開始することをお勧めします。

また、実態調査の際に利用できる相談窓口を周知するなど、パワハラやモラハラの問題で困ったときに役立つ情報を社員に積極的に紹介することも効果的です。

ハラスメント研修を実施して社員への啓発、教育の場を設ける

パワハラやモラハラは、以前に比べれば一般の人の認知度も高くなりました。しかし、どのような行為が該当するのかといった認識については、地位や年齢、価値観などによって違いが生じやすいといわれています。

そのため、ハラスメント防止の取り組みとしては、社員に対する啓発や教育が重要です。パワハラやモラハラに関する啓発や教育の場としては、多くの企業が講演会や研修会を開催し、効果を実感しています。

研修は全従業員を対象に行う必要がありますが、できれば「管理者向け」と「一般社員向け」に分けた内容で実施するとより効果的です。

管理職への支援の必要性

パワハラやモラハラは上司から部下だけでなく、同僚間や部下から上司へといったものもあります。しかし、パワハラは「上司から部下へ」の間で起こるものが、他の関係性で起こる割合よりも著しく多いのです。

また、現在のところは特に問題となっていない管理職でも、「加害者予備軍」ともいえそうな行為をしている可能性があります。管理職を対象にした調査では、以下のような行為については1割以上の人が「実際にしたことがある」と答えているのです。

  • 部下のミスについて「何をやっている!」と強い調子で叱責する    17.8%
  • 何度も遅刻を繰り返す部下に対し、同僚の前で叱責する        15.4%
  • 業務の相談をしている時、パソコンに向かったままで視線を合わさない 13.0%

研修にはコミュニケーションの訓練なども盛り込むとよいでしょう。たとえば、相手の気持ちを尊重しながら上手に自分の気持ちを伝える「アサーション」、また、怒りやイライラなどの対処法を身につける「アンガーマネジメント」などの訓練があります。

さらに、管理職は自分がパワハラの加害者にならないように留意するとともに、職場でパワハラが起きたときには被害者の相談相手となり、解決に向けて役割を果たさなければなりません。そのため、管理者の教育では支援方法も含めた内容が必要になります。

【出典】厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p45

「何もしなかった」という被害者も多い

過去3年間にパワハラを受けた感じたことがあるという従業員(2,279人)に、パワハラを受けた後、どのような行動をしたかを複数回答で尋ねた調査をみてみましょう。

もっとも多かったのは「何もしなかった」で、全体では46.7%でした。しかし、男女差が大きく、女性が37.3%なのに対し、男性は53.5%と半数以上が何もしなかったと答えています。また、一般社員と管理職に分けてみると管理職は何もしていない人が多く、6割を占めていました。

一方、会社側がパワハラを把握した後も「特に何もしてくれない」「パワハラかそうでないかわからないままにされた」といった声も少なくありません。被害を受けたと感じている社員の中には、「問題をうやむやにされた」と被害的に捉える人も多いです。

そのような状況になると加害者に対する憤りだけでなく、会社の不誠実な対応にも憤慨し、加害者と会社を相手として損害賠償請求や労災請求に踏み切ることもあります。公的な機関によってパワハラを認められることにより、「加害者や会社に謝らせたい」、退職する場合も「会社都合で辞める」といった強い思いを抱いて行動する人もいます。

被害者がパワハラと感じた行為でも、すべてがパワハラと認められる訳ではありません。しかし、実際にパワハラを受けていても被害者が「何もしていない」可能性もあるので、会社が把握できるのはパワハラの一部と考えるべきでしょう。

そのため、把握できたパワハラは放置することなく適切に対応し、予防するには人事・労務担当者が日頃から従業員との接点をもち、社内の様子を把握することが大切です。

【出典】厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p57

【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団 社内でパワハラ発生!人事担当の方Q&A

パワハラ・モラハラの対処法

ここからは、社内で実際にパワハラやモラハラの問題が起きたときの対処方法について説明します。

相談窓口の設置

相談窓口を設置することはハラスメントの問題を早期に発見することにつながり、問題の長期化や深刻化を防ぐ上でも重要です。しかし、問題が起きたときの一次対応の場所として十分に機能していない、窓口担当者の教育などの面で課題も多いといわれています。ちなみに、文科省の調査だと社内の相談窓口を利用した人は1.8%という低い割合となっています。

窓口担当者の人選

パワハラやモラハラの相談者の中には、セクハラやマタハラなど複数のハラスメントの被害を受けている人もいます。そのため、窓口の担当者は男性と女性を複数配置し、相談者が相談しやすい環境を整えることが大切です。

窓口の担当者としてはハラスメントについて理解し、中立な立場で相談を受けることができる、解決に向けて誠実に取り組める、また、秘密を守れるなどの点から選任するとよいでしょう。

外部の専門家との連携

社内での窓口設置に限定せず、EAPなどの外部機関のサービスを利用する方法もあります。社員の中には、相談したことが外部に漏れるのではないかと心配して利用を控える人も多いです。実態調査の際に社員の要望なども聞き、必要に応じて検討の幅を拡げるとよいでしょう。

また、近年、パワハラやモラハラの問題は深刻化したケースもあり、裁判に発展する可能性もあることを考えると企業としての初期対応は極めて重要です。

外部の専門家の支援を受けることは社員の支援として役立つだけでなく、企業の担当者が解決に向けて連携を図ることができ、より適切な対応につながります。弁護士や社会保険労務士、また、臨床心理士や産業カウンセラーなど法律やメンタルヘルス不調などに関する専門家と連携してパワハラの問題に取り組むとよいでしょう。

正確で迅速な事実確認

事実確認の場を設けると被害者としては「ひどいことをされた!」という場合でも、加害者とされる社員は「パワハラをした覚えがない」ということがあります。話が大きく食い違う場合は、第三者の聴取も必要です。

聴取の際には被害者のダメージに配慮するとともに、加害者と名指しされた社員も事実かどうかが不明の場合は加害者と決めつけず、プライバシーの保護にも十分に留意してください。

事実確認をするときの態度としては、いずれかに偏った見方や対応をしてしまうと正確な情報を得ることはできません。思い込みや決めつけをできるだけ排除し、「中立性」と「公平性」を心がけて臨みましょう。

迅速な対応で深刻化を防ぐ

問題が発生した時に、慎重に対処することは大切です。しかし、相談を無視したり、後回しにしたり、相談を放置していると深刻な問題に発展することもあります。前述のように「会社に相談をしても何もしてもらえない」という状況に怒りを抱き、提訴して会社と戦おうとする人もいれば、絶望して会社から離れていく人もいます。

また、相談があったにもかかわらず、会社側が放置している間にハラスメントがエスカレートして被害者が自殺するという残念な結果になることも否定できません。労働者が安全に安心して働けるように、社員からの相談に対しては速やかに対応してください。

ただ、問題の解決に向けて取り組んでいても、実際には時間が必要なこともあります。もし、何らかの理由で想定よりも時間を要する場合は、時間がかかることや進捗状況を伝えるなど誠実な対応を心がけましょう。

見た目で判断すると危険なことも

また、被害者の心理的な負担感がわかりにくい、周囲が気づきにくいということもあります。「見た目」の印象で軽く見ていると、危険なこともあるので注意してください。たとえば、上司に相談しても解決せず、本社のコンプライアンスに入電するほど困っている社員でも、周囲の人は「そんなに大変だとは思わなかった」ということがあります。

人によって精神的な負担感や疲労感を周囲に見せず、あるいは表現しているサインがわかりにくく、自殺をした後に周囲が事の重大さに気づくというケースもあるので注意が必要です。

再発防止の取り組み

ハラスメントの問題が起きたときは再発の防止が重要ですが、加害者に対して懲戒処分などを行うだけでは有効な対策にはならないでしょう。加害者のハラスメントに関する認識の誤り、また、その人のコミュニケーションの取り方や行動面の問題点などに気づけるように促すなど加害者に対する継続的な支援も必要です。

また、ハラスメントに該当する行為をした場合の懲戒処分についても予め明確にし、就業規則などに明文化するとともに社員に周知することも必要になります。

人事・労務の視点から見直す

パワハラの相談が多い職場の特徴としては、上司と部下のコミュニケーション不足や残業が多い、休みが取りにくいなどの要因が認められています。社員個々の問題として扱うのではなく、人員配置や業務量の見直しなど人事・労務の視点からも検討し、社員が働きやすい環境を整えてください。

【出典】厚生労働省:平成 24 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p32

まとめ

  • パワハラやモラハラは力関係を伴う威圧的な行為が中心か、力関係を伴わない精神的な暴力が中心かといった違いがあります。
  • しかし、いずれも職場内で日常的に起こるため、被害者にとっては極めて苦痛なものであり、企業に与える損失も決して小さくありません。
  • パワハラやモラハラに対しては職場全体で予防に取り組み、問題が発生したときには迅速に適切な対応をしましょう。

注目のビジネス事例トピックを、逃さずチェック。

大手やベンチャー含め計60,000人以上の会員が利用しています。

BizHint の会員になるとできること

  • 厳選されたビジネス事例が毎日届く
  • BizHint 限定公開の記事を読める
  • 実務に役立つイベントに申し込める
  • アプリで効率的に情報収集できる
いますぐ無料会員登録

この記事の関連キーワード

フォローボタンをクリックすると、キーワードをフォローすることができます。

キーワードについて

労務の記事を読む

ビジネス事例や製品の情報を受取る

フォローしたキーワードの最新トピックをトップページに表示します。 フォローはでいつでも変更することができます。
フォローを管理する

目次