ピーターの法則
ピーターの法則とは、企業などの組織に属する構成員は、その全員が自己の能力を進展させ続けなければ組織がいずれ無能化し、機能しなくなるという階層社会学の法則です。詳細についてご説明します。
ピーターの法則とは
ピーターの法則とは、ローレンス・J・ピーターの著書「The Peter Principle」で提唱されたもので、企業などの組織に属する構成員は、その全員が自己の能力を進展させ続けなければ組織がいずれ無能化し、機能しなくなるという階層社会学の法則です。
ピーターの法則の特徴
この法則は以下3つの要素にまとめられます。
- 能力主義の階層社会において、人間は能力の限界まで出世すると無能な管理職になる。
- 無能な人材はそのままの地位に落ち着き、有能な人材は出世して無能な管理職の地位に落ち着く。その結果、どの階層においても無能な人材で埋め尽くされる。
- 組織の仕事は、出世する余地のある無能に達していない人材によって行われる。
無能な管理職が生まれるプロセス
階層社会において、現在の地位で有能な人材は昇進・昇格されます。昇格後、その地位で職務遂行能力がなければ、それ以上昇格せず現状の地位で止まります。
これが各階層に生じることで、すべての人材は「無能レベル」で地位が止まり、組織は無能な管理職、無能な部下で埋め尽くされてしまうということになります。
ピーターの法則の成立条件
ピーターの法則が成り立つ組織の条件として、どのようなケースがあるか記載しておきます。
組織内の人事が下方硬直的である場合
会社や企業などでは昇進すれば地位を与えられ、給料も上がるので出世を望む人が多いのは当然です。社員は自分の能力を認められるため、業績を上げるために努力します。その結果、仕事ができる人間と評価されれば出世して管理職の立場になります。
昇格して中間管理職になり、さらに出世する人もいれば、そこで落ち着く人もいます。 そのポジションで「落ち着く」というのは、たとえその地位で業績を上げなくても降格はしないという状態です。
昇進することを目標に努力してきた有能な人材が、ある地位を得ることがゴールになってしまい、さらに技術を磨いたり、業績を上げようとしない無能状態に陥ってしまうのです。
組織の昇進の仕組みによる場合
とても有能で仕事も早く、なんでも器用にこなす社員であっても、自己主張が強く上司の意に反する意見をしたり、従来のやり方よりも自己流の方法で効率よく成果を上げるような人だった場合、組織の人事評価の仕組みによってはなかなか昇進しないこともあります。
それよりも無難に仕事をこなし、組織の規律を守り上司を立てる社員の方が、人事評価を得られるために昇進して、無能状態で落ち着くという場合もあります。
また勤続年数や滞留年数による昇進では、個人の能力とは関係なく昇進することになり、無能のまま昇格してしまう場合もあります。
日本型雇用とピーターの法則
日本型の出世ともいえる「現場叩き上げで管理職やそれ以上に出世する人」は、特にこの法則が当てはまりやすいようです。それは、現場の末端のきつい仕事を経験しているため、努力を重ねて出世することでゴールに向かうという感覚を持っているからでしょうか。
本来なら末端の仕事を知っているからこそ、管理者の立場になったときに下の階層の社員にまで気遣い、別の意味での成果を上げてほしいところですが・・・。
一方で欧米諸国の様なMBA取得者を経営陣に据え、現場と切り分けているケースではピーターの法則は生じにくいとされます。 アメリカの雇用システムでは、賃金は労働の対価であるということを第1に考えられています。
人は労働市場を通じて企業を選び、現場ではその労働の質と量に応じた対価である賃金を受け取ります。 管理者はトップ・ダウン方式であるため、企業における仕事はリーダーから上層管理職などの順に降りてくる形で担当者に告げられます。
そのため、管理職が無能では業績をあげることができません。 MBA取得の経営陣においては、その学びによって自分に自信を持ち、積極的に行動することや学びの習慣が常にあるため、考え抜く力を持ち合わせていると思われます。
ピーターの法則への対応策
著書によれば、無能にならないための対策が4つあります。
ピーターの予防薬
無能レベルへの昇進を未然に防ぐ方法(引用:ピーターの法則)
- マイナス思考を持つ。 「もし自分が出世したら?」と自問自答し、デメリットを考えることで現在の立場で満足だと思うようにする。たとえば、「今の上司だから生産性を上げることができる」「昇進してある地位に就けば無理が生じる」など。
- 創造的無能の活用。 出世の打診が来ないように仕事上ではない、ある欠点を表立って見せたり、出世は無理だというふうに周りに思い込ませる。昇進の打診が来なくなれば、現在の有能性を発揮でき、充実した社会生活が送れる。
ピーターの痛み止め
無能レベルに達しても健康と幸福を維持する方法(引用:ピーターの法則)
ピーターは著書で教育現場を例に挙げています。以前なら落第していたレベルの子どもが無理に進級することで階層ができるのを防ぐために、特待生コースなどの水平移動によって、再度同じ学年の勉強をすることで理解困難だった部分のやり直しができ、うまくいけば進級レベルに到達することが出来るかもしれないし、周りの上昇し続ける者の邪魔もしないという方法です。
これをビジネス社会に置き換えれば、年功序列による昇進を止め、無理に出世させない。その代わりに配置転換を行い、慣れあいの仕事をする状態を作らないようにする。環境が変わることで習熟度が上がり、自分の可能性を発見するきっかけになったり、運がよければ無能レベルから抜け出せる。
ピーターの気休め薬
終点到達症候群を抑える方法(引用:ピーターの法則)
著書いわく、無能レベルに達したために好ましくない状態に陥ったとき、その症状を抑え悪化を防ぐための方法が気休め薬です。
無能レベルで実績の上がらない人は、昇進のためにガツガツすることをやめ、労働者はその立場で労働の素晴らしさについて語り、教育者は教育の価値をたたえ、宇宙飛行士はSF小説を書けばよい…つまり、自分の実績が上がらないことを考えないために自分のいる位置における労働についての尊さを語ればよいとしています。
そしてその人たちは、有能な人間の邪魔をしない人畜無害な存在であると記しています。
ピーターの処方薬
世界に蔓延する病を治療する方法(引用:ピーターの法則)
絶大なる効果を表すとされるピーターの処方薬は、これら3つの予防薬・痛み止め・気休め薬という方法を行うことにより無能に到達するのを防ぐことができるので、有能な人も無能とされてきた人もそれぞれの生活の質を上げることができると述べられています。
つまり、昇進して地位を得ることがしあわせであるとは限らないということです。
最終的に「生活の質を向上させる」ことがしあわせにつながるのであれば、その人本来の能力を十分に発揮でき、やりがいを感じる仕事ができてこそ生活が充実し、生き生きとした毎日が送れるということではないでしょうか。
それ以外の対応策
- 昇進した後「無能」となった場合には、一度降格させる。降格させることで、本人の気持ちや部下など周囲の反応などが気になると思われますが、「無能である位置」は自分の能力を発揮できないポジションであり、その苦痛が続くことと周囲の人はその影響を受け続けるというリスクを考えれば、降格することの方がリスクを抑えられるといえます。
- ひとつの成果を上げた時点で昇進とせず、次の段階の仕事に必要な能力が身につくまで、またはその方法を見つけて成果につながると確信できるまで昇進させない。
- 有能な人を能力を発揮している地位に固定させる。それは出世を目指す人から見ると「無能」と思われるポジションである。その際、固定させた人の不満防止策・解消策として昇給させるなどの対応を行い、やる気をそぐわないよう取り計らう。
ピーターの法則を踏まえた「抜擢時の要件」
組織の経営にあたっては、ピーターの法則のような組織無能化にならないために管理職社員を選択する場合、その人物の見極めがとても重要です。
ピーターの法則への対応策は前項に述べた通りですが、この法則を踏まえ「抜擢」する人材を決定する際は、さらに「その人物の成長性(=学習能力)」を勘案することが不可欠であるといえます。
仮に「無能」さを感じた場合、学ぶ能力が高い人材であるなら、自ら足りないものを学ぶようになります。管理職というキャリアだけでなく、自分自身のキャリアを磨く学習能力を持ち合わせている人材なら、抜擢するにふさわしいといえるでしょう。
一方でよくあるケースとして、学ぶ能力の低い管理職が抜擢された場合、手に入れた権限を武器に部下を動かそうとし始めます。こうなれば成長が止まり、たちの悪い無能さを発揮することになりますので、これは絶対に避けなければなりません。
たとえ現在の位置で優秀で高い能力を発揮していたとしても、昇進するポジションをゴールと考えている人はそこで学びをやめてしまいます。そのため「学習意欲」「学習スキル」を加味し、抜擢する人材を正しい判断で選ぶことが重要です。
よくある例
ピーターの法則に陥りやすい人物とその行動には、次のようなケースが挙げられます。
営業職のプレイヤー
「名選手が名監督になるとは限らない」とはスポーツの世界ではよくいわれることですが、会社員であっても同じです。 売り上げナンバーワンの営業プレイヤーで、独自のノウハウを持っている憧れの存在であった人が、そのスキルを活かして後輩を指導してほしいと抜擢されて昇進したとします。
自らの経験をチームの一人一人に伝えられれば、チーム全体の売り上げが上がると期待したのにうまく行かない。
それは、自分と同じやり方なら間違いないと思い込んでいて、理解のよくない部下に対してきつくあたってしまい、「なぜできないのか?」「なぜ理解しないのか?」とコミュニケーションのずれが生じてしまうからです。
彼は自分の能力に自信があるために、部下にそのノウハウをどうすれば伝えられるかを学ぼうとしていません。
自分と同じにやればできるはずだと決めつけてしまい、マネジメントに大切なティーチングとコーチングのバランスがうまくできていないのです。これでは、部下は「もうついていけない」と拒否感さえ生まれてしまいます。
優秀な部下を抜擢したが管理できない
スキルが高く優秀な部下をチームリーダーに抜擢したら、しばらくしてチーム内に不穏な空気が漂い始めました。メンバーとの連携がうまく行っていないのです。
そのリーダーは分担するはずの仕事を自分でやってしまい、メンバーに割り振りをしなかったのです。立場が代わり、うまく仕事の割り振りができなかったために、それまでうまく行っていたメンバーとの信頼関係が崩れてしまいました。
技術者や研究者として優秀であっても、業務管理をする立場になるとうまく行かないというのはよくあることでしょう。立場が代わっても、自分のやるべきことを理解し、学びを続ける人材を見極めることが重要な課題ともいえます。
まとめ
- ピーターの法則は、どの階級や立場にいる人でも当てはまる。自分はそうならないとは言い切れない。
- 「無能」にならないために必要なことは、学びをやめないこと。
- 経営者や管理者は、抜擢する人物を見極める力が必要。
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