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2019年3月29日(金)更新

懲戒処分

懲戒処分は、労働者に対する制裁処分ですが、処分を行うためには、処分の種類や内容が就業規則に規定されていることが必要です。また、その処分は違反行為の程度に対して相当なものである必要があり、その他、数多くの要件が判例でも示されています。経営者、人事担当者は、訴訟などのトラブルを避けるためにも、懲戒処分について十分な理解が必要です。

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懲戒処分とは

懲戒処分について、まずはその意味と、公務員に対する懲戒処分と、民間企業における懲戒処分のそれぞれの法的根拠などについて説明します。

懲戒処分の意味

懲戒処分には、組織における服務規律や職務上の義務に違反した者に対する制裁、懲罰的な意味があり、本人に反省を促すものです。厳重注意で済まされるものから、減給や一定期間の出勤停止を命じるもの、最も重いものでは解雇処分まであります。

このような処分を下すことは労働者に大きな影響を及ぼすことから、使用者側にはその根拠となる法律や社内規程が求められます。

公務員に対する懲戒処分

公務員に対する懲戒処分は、国家公務員であれば、国家公務員法第82条において、免職、停職、減給、戒告の処分が定められており、地方公務員であれば、地方公務員法第29条において、同様の処分が定められています。自衛隊などのように別に定められているものもあります。

各省の大臣や地方公共団体の長などの責任者(※)は、上記の法律に基づいて、非違行為のあった該当職員に対して処分を下すことになります。その処分の適用については、当然ながら民間企業よりも細かく規定化されており、人事院により処分の決定に関する指針や処分を行った場合の公表方針なども明確に整理されています。

※これらの責任者を「任命権者」と言いますが、例えば、公立学校の教員、学校職員などの任命権者は教育委員会であるなど、一定の組織単位で数多く配置されています。

【参考】国家公務員法第82条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕
【参考】地方公務員法第29条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕

民間企業における懲戒処分

民間企業における懲戒処分は、就業規則(詳細については別規程にすることもできますが、以下「就業規則」で統一します。)に基づくものであり、公務員に対する懲戒処分のような明確な法的根拠がありません。このため、ある意味、各企業の裁量権に基づいた整理になっており、その整理は統一されていないと言えます。

そもそも、企業と労働者は、労働契約において対応な立場であるはずで、企業が労働者に対して、懲戒処分を行い得る法的根拠がどこにあるのかが、古くから議論されてきたところです。これについて判例は、企業には、企業秩序定立権があり、労働者には、企業秩序遵守義務があるとし、そこに根拠があるとしています。

なお、懲戒処分の法的根拠に関する判例や学説は数多くあり、就業規則に規定された懲戒処分の範囲内でのみ処分が可能とするものや、就業規則に規定がなくても処分は可能とするものなどもありますが、当然ながら、現在では前者が有力なものになっています。

企業秩序定立権

判例によると、企業は、「企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則に定め、具体的に労働者に指示、命令することができ、企業秩序に違反する行為があった場合には、違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる。」としています。

つまり、企業は、企業秩序定立権を有し、これを維持するため、就業規則などに基づいて、労働者に指示、命令を行い、懲戒処分も行い得るということです。

【参考】最高裁判例 富士重工事件/裁判所

企業秩序遵守義務

上記の判例のほか、別の判例では、「労働者は、使用者と労働契約を締結して雇用されることにより、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者はその雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の制裁罰である懲戒を課することができる。」としているものもあります。

つまり、企業が企業秩序定立権を有する一方、労働者も企業秩序を遵守する義務があり、企業はそれに違反した労働者に対して懲戒処分を行い得るということです。

【参考】最高裁判例 関西電力事件/裁判所

懲戒処分の種類

民間企業における懲戒処分で、一般的なものは以下のとおりですが、「戒告」、「譴責(けんせき)」、「減給」、「出勤停止」、「降格」、「諭旨退職」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」などが挙げられます。

戒告・譴責

戒告と譴責は、どちらも労働者に反省を求めるために、口頭または文書により注意を行うものです。譴責の方は、一般的に始末書の提出を求めますので、譴責の方が戒告よりも重い処分であると言えます。

始末書について

始末書は、懲戒処分としての重要な記録にもなるものですが、この始末書(不祥事の事実の報告に加え、謝罪や反省などの意を表明させるもの)の提出を拒否された場合、憲法に定める「思想・良心の自由」にも抵触してしまう関係上、強制はできないとするのが主な判例、学説です。また、提出しないことをもってさらなる懲戒処分を行うことも、「一事不再理の原則(二重処罰の禁止)」(これについては後述します。)からしても適当ではないと考えられていますので注意が必要です。

拒否された場合は、懲戒処分としての始末書ではなく、業務命令として、顛末書(不祥事の内容を客観的事実としての報告させるもの)を提出させることが無難なものと考えられます。

【参考】労働相談(平成26年4月 始末書の提出)/福岡県

減給

減給とは、労働者が受け取る賃金から、制裁として一定額を差し引くことを言います。

ただし、労働基準法第91条において、制裁としての減給に制限が定められており、1回の事案についての減給は、平均賃金(※)の1日分の半額以内でなければならず、複数の事案が発生した場合においては、減額の総額は一賃金支払期(通常は月)における賃金総額の10分の1以内でなければなりませんので注意が必要です。

※算定すべき事由が発生した日以前3か月間に、その労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額のことを言います。

【関連】減給とは?減給が可能なケースや制裁の制限額、注意点を解説/BizHint HR

【参考】労働基準法第91条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕

出勤停止

出勤停止とは、文字どおり労働者の出勤を一定期間、停止することを言います。懲戒処分としての出勤停止であるため、この期間中の賃金は支給しないことが一般的です。

出勤停止期間については、労働基準法その他の法令による制限はありませんが、懲戒処分とはいえ、労働者にとって重大な不利益となりますので、簡単に長期間にしていいものではありません。

過去の判例では、20日間の出勤停止処分を認めているものもあります(出勤停止よりも重い処分としての「懲戒休職」については、3ヶ月までが妥当としている判例もあります。)が、一般的には1週間から長くても1か月までとするケースが多いと言えます。

【参考】最高裁判例 ダイハツ工業事件/裁判所
【参考】岩手県交通事件/公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

降格

降格とは、労働者の役職、職位などの人事制度上の等級を引き下げることを言います。この場合、降格によって賃金も大幅に低下することも考えられますが、前述の減給処分における労働基準法第91条の制限に抵触するのかどうかについては、旧労働省が見解を示しています。

少し古いものになりますが、旧労働省労働基準局長の行政通達(昭和26年3月14日基収第518号)によると、「制裁としての格下げによる賃金低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから、労働規準法第91条の制裁規定の制限に抵触しない。」としており、これは、現在においても有効な解釈です。

【関連】「降格人事」とは?違法か合法か降格人事のイロハをご紹介/BizHint HR

【参考】賃金の減額(欠勤控除含む)/大阪府

諭旨退職・諭旨解雇

諭旨退職と諭旨解雇については、その定義が明確ではありませんが、ともに共通しているのは、懲戒解雇よりも軽い処分であるということです。

例えば、懲戒処分に相当する事案であるものの、情状を斟酌して労働者に退職願の提出を促し、提出があれば諭旨退職または諭旨解雇とし、提出がない場合には懲戒解雇とする場合もありますし、最初から諭旨退職または諭旨解雇で進める場合もあります。諭旨解雇とするのであれば、本来、退職願は必須ではありませんが、会社によって整理は異なります。

退職金については、諭旨退職の場合は全額支給、諭旨解雇の場合は減額あるいは不支給とするなどの差異を設けることが考えられます。

【関連】【社労士執筆】諭旨解雇の意味は?退職金の有無、普通解雇・懲戒解雇との違い/BizHint HR

懲戒解雇

懲戒解雇とは、懲戒処分の中で最も重い処分であり、処分が決定した段階で即時に解雇することが多いと言えます。前述の諭旨退職、諭旨解雇の検討の中で、退職願の提出がない場合に結果的に懲戒解雇とすることもあります。

なお、労働者を解雇する場合には、労働基準法第20条により、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、予告をしないで即時に解雇するためには、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければならないことになっています。しかし、その解雇が労働者の責任によるものである場合、つまり、この懲戒解雇のような場合には、事前に労働基準監督署に申請し認定を受けることにより、これらの解雇予告の手続きを除外することができます。

前述の諭旨解雇の場合にも労働者の責任による解雇であることを考えると、この認定申請を行えますが、この申請を行うのは、情状酌量の余地がない懲戒解雇に限る傾向にあります。

退職金については、不支給とすることが一般的です。

【参考】労働基準法第20条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕
【参考】しっかりマスター 労働基準法 解雇編/東京労働局

【関連】解雇の意味や種類とは?解雇が認められるケースや解雇予告・解雇通知まで徹底解説 / BizHint HR

就業規則における規定内容

懲戒処分を行うためには、就業規則において、その根拠となる規定が必要です。

インターネット上には、法律事務所などが公開している雛形もありますし、厚生労働省でもモデル就業規則や、就業規則の作成、見直しマニュアルなども公開しています。これらを参考にしつつ、自社に合った懲戒規定の整備をしておかなければなりませんが、懲戒処分に関しては、労働者とのトラブルのリスクが大きいため、できる限り、弁護士などの専門家の助言を得た上で整備した方が良いと言えます。

厚生労働省のモデル就業規則に沿って、主なポイントを説明します。

懲戒の種類

まずは、懲戒の種類についての定めが必要です。それぞれの懲戒処分が、具体的にどのような内容なのかを明確にしておかなければなりません。

厚生労働省のモデル就業規則では、以下のように整理しています。

【出典】【厚生労働省】モデル就業規則(「表彰及び制裁」部分)

上記について補足すれば、懲戒解雇については、退職金の有無について明確にしておいた方がよいと考えられますし、「情状によっては、退職願の提出を勧告し、諭旨退職にとどめることがある。」などの記載も検討が必要です。

また、上記以外で一般的な懲戒処分として、戒告、諭旨退職・諭旨解雇などがあります。

戒告について規定するのであれば、例えば、「文書によって厳重注意し、将来を戒める。」などとしますが、始末書の提出を義務付けず注意を与えるだけものですので、就業規則にはあえて規定しないことが多いと言えます。

諭旨退職・諭旨解雇について規定するのであれば、厚生労働省が公開している「就業規則作成・見直しのポイント」によると、「懲戒解雇に相当する事由がある場合で、本人に深く反省が認められるときは、退職届の提出を勧告する。ただし、〇日以内に提出しない場合には懲戒解雇とする。」という例を挙げています。

【参考】就業規則作成・見直しのポイント/厚生労働省

懲戒の事由

次に、どのような事由がどの懲戒処分に該当するのかについての定めが必要です。譴責、減額、出勤停止と、最も重い処分である懲戒解雇とは分けて整理することが一般的です。

譴責・減給・出勤停止の事由

これらの事由については、当然ながら、懲戒解雇の事由と比べて、悪質性の低い事由で整理することになります。

厚生労働省のモデル就業規則では、以下のように整理しています。

  1. 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき。
  2. 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
  3. 過失により会社に損害を与えたとき。
  4. 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
  5. 性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき。
  6. 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支障を与えたとき。
  7. 第〇条、第〇条、第〇条に違反したとき。
    (厚生労働省の例では、就業規則で別に規定している服務規律の遵守事項やパワーハラスメントの禁止、個人情報保護の条項などを挙げています。)
  8. その他、この規則に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

なお、上記1の無断欠勤の日数については、次の懲戒解雇の事由では「14日以上」とすることが一般的です。これは、先に説明した労働基準監督署の解雇予告除外認定基準の1つとして、「2週間以上、正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と示されているためです。そのため、譴責・減給・出勤停止の事由では「7日以上」などとすることが多いと言えます。

上記7のように就業規則で別に規定しているものについての違反を懲戒処分の事由として挙げる場合には、社内外の実情に合わせて検討が必要です。社外での飲酒運転を含めた交通法規違反やわいせつ行為などの非行も多く見られることから、それらを該当事由にするためにも別に規定している服務規定などの整備も求められます。

また、上記8のような記載は、予想できない事由に対して懲戒処分を適用させるためにも必ず記載しておかなければなりません。

【参考】モデル就業規則(全体版)/厚生労働省

懲戒解雇の事由

懲戒解雇の事由については、上記の譴責、減額、出勤停止の事由と比べて、より悪質性の高い事由で整理することになります。

厚生労働省のモデル就業規則では、以下のように整理しています。

  1. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
  2. 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
  3. 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、〇回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
  4. 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
  5. 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
  6. 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき。
    (当該行為が軽微な違反である場合を除く。)
  7. 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
  8. 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
  9. 職責を利用して交際を強要し、又は、性的な関係を強要したとき。
  10. 第〇条(厚生労働省の例では、就業規則で別に規定している、パワーハラスメントの禁止の条項を挙げています。)に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
  11. 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
  12. 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
  13. 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
  14. 正当な理由なく、会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して、会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
  15. その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

なお、上記2の無断欠勤の日数については、前述のとおり、労働基準監督署の解雇予告除外認定基準の1として、「2週間以上の無断欠勤」が挙げられていることから、「14日以上」とすることが一般的です。上記3の遅刻、早退又は欠勤を繰り返している場合の注意回数については、同解雇予告除外認定基準では、「数回」とされているのみですが、あまりに少ない回数に設定すると、トラブルが多発する可能性もありますので、十分な検討が必要です。

懲戒委員会

懲戒処分を審議、決定する懲戒(懲罰)委員会については、その設置が法令上義務付けられているものではありませんが、設置するのであれば、委員の構成(一般的には、社長、役員、人事部長など)や、委員会での決定方法(一般的には、出席委員の過半数の同意により決定)、対象社員の弁明の機会の付与などについて、就業規則に規定する必要があります。

この場合、懲戒処分は懲戒委員会において決定すると規定していた場合には、懲戒委員会の開催、そこでの決定が義務になり、それを怠った処分は重大な手続き違反として原則として無効になりますので、注意が必要です。

【参考】東北日産電子事件/独立行政法人労働政策研究・研修機構

懲戒処分の法的制限等

これまでの説明のとおり、企業は企業秩序を遵守しない労働者に対して、懲戒処分を行うことができますが、企業の判断で自由に行えるものではありません。

あらかじめ、就業規則に根拠となる規定が必要になるほか、労働関係法、判例、刑法の一般原則なども適用されることになるため、慎重な対応が求められます。

罪刑法定主義の原則

罪刑法定主義とは、罪として刑を科すためには、どのような行為が罪とされ、それに対してどのような刑を科すのかについて、あらかじめ法律によりで定められていなければならないという刑法の原則ですが、社内における懲戒処分についても類似の側面があるため、この原則が適用されます。

このため、労働基準法第89条においても、制裁の定めをする場合には、その種類や程度に関する事項を就業規則に規定しておかなければならないこととしており、就業規則に規定がない場合には、原則として懲戒処分を行うことはできません。

【参考】労働基準法第89条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕

不遡及・一事不再理の原則

これは、憲法第39条の「何人も実行時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任は問われず、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。」という原則に基づくものでもあり、不遡及の原則については、前述の罪刑法定主義の派生原理でもあります。

これにより懲戒処分についても、就業規則に規定していても規定する前に発生した事案については遡及して適用することはできませんし、一度懲戒処分がなされた事案に対して、さらに追加の処分をすることもできません。

【参考】日本国憲法第39条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕

合理性・相当性の原則

労働契約法第15条においては、「懲戒は労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当と認められない場合には、権利を濫用したものとして無効とする。」とされています。

どう考えても厳重注意程度で済むような事案に対して、懲戒解雇などを行うことは、当然ながら許されません。

【参考】労働契約法第15条/電子政府の総合窓口e-Gov〔イーガブ〕

適正手続きの原則

対象事案については、当然ながら十分な事実確認を行う必要がありますし、それに基づく、懲戒処分の決定は、就業規則に規定された手続きに則ったものでなければなりません。就業規則に懲戒委員会で決定することを規定しているのであれば、その手続きを踏まなければなりません。

平等取扱いの原則

役職などを考慮して、同一事案について異なる懲戒処分を行ってはいけないことは当然として、同じような事案が過去にもあった場合は、その時に行った懲戒処分と同程度の処分を検討しなければなりません。処分の決定に差異が出ないようにするためにも、就業規則において、懲戒処分の種類と、それに該当する事由を明確にしておく必要があります。

個人責任の原則

懲戒処分は、個人の故意、過失が前提になるものであり、処分の対象は違反行為者本人に限られます。行為に関与していない、あるいは関与しているか定かでない別の者もまとめて処分するなどは許されません。

いわゆる、連帯責任として刑罰などが科せられることは、個人責任を原則とする近代においては、一部例外(公職選挙法における、選挙関係者が犯した違反の責任を候補者本人にも負わせて、当選が無効になるなどの「連座制」など)を除いて認められておらず、懲戒処分においても例外ではありません。

懲戒処分の実施手順

前述のとおり、懲戒処分の決定には適正な手続きが求められるため、該当労働者の処分対象となる事案の発生から順序立てて進めていく必要があります。

処分対象の事実確認

まずは、該当労働者の処分対象となる事案について、本人や関係者から聴き取りなどを行って、詳細に把握しなければなりませんし、その事案を客観的に確認できる物的証拠も集める必要があります。不正経理が疑われているのであれば、本人が使用するパソコンなどを調査しなければならないこともあります。

なお、処分を決定するまでに、自宅謹慎などを命じることも考えられますが、その自宅謹慎が懲戒処分の規定に根拠がない場合には、一種の業務命令となり、その間の賃金を支払わなければならないことが判例でも示されていますので注意が必要です。賃金の支払いを免れるためには、自宅謹慎について、不正行為の再発や証拠隠滅の恐れなどの緊急かつ合理的な理由があるか、懲戒処分の規定上の根拠が必要とされています。

【参考】日通名古屋製鉄作業所事件/公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

処分理由の告知・弁明機会の付与

該当労働者に処分理由の告知や弁明の機会を与えることなく、会社側が処分することは大きなトラブルを招きかねません。その旨の規定がない場合にも、本人には処分理由の告知と弁明の機会を与えることが求められます。

ただし、これらの定めがない場合には、「事実を告げなかったからといって、直ちに懲戒処分の手続きに反して無効ということはできない」とした判例もあります。

【参考】総友会事件/公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

懲戒処分の種類の検討

対象事案に対応する処分の種類を検討する必要があります。具体的には以下について確認したうえ、総合的に判断します。

  1. 対象事案の違法性の程度
  2. 故意の有無や不注意の程度
  3. 社内外の損害、影響の程度
  4. 就業規則における懲戒事由
  5. 過去の類似事案における処分内容

なお、先に説明したとおりですが、決定した懲戒処分が、客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上、相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効になります。 どの処分を検討するにしても、より軽い処分にできないかなどの慎重な検討が必要です。

懲戒委員会への付議

懲戒処分の決定について、就業規則において、懲戒委員会(あるいは懲罰委員会など)を経て行うこととしている場合には、必ず、懲戒委員会を開催し、そこで決定したものでなければなりません。

ただし、就業規則において、必ずしも懲戒委員会への付議を義務付ていない場合には、懲戒委員会への付議を経ずになされた懲戒解雇が違法ではないとした判例もあります。

【参考】住宅施工業者暴力等事件(エス・バイ・エル事件)/女性就業支援バックアップナビ

本人への通知

決定した懲戒処分については、懲戒処分通知書などにより、対象労働者に書面で通知しておくことが重要です。対象労働者とトラブルになったときのことも考えると、以下のような内容について記載しておく必要があります。

  1. 懲戒処分の対象となった該当事由
  2. 懲戒処分の根拠となる就業規則の該当条項
  3. 懲戒処分の内容(出勤停止であれば、期間中の賃金を支払わないことなども明記)

通知の様式に法令の定めはありませんが、これらをまとめると、以下のような通知になります。

まとめ

  • 懲戒処分が有効とされるためには、就業規則に懲戒処分に関する規定が必要であり、また、規定に即した適正な手続きによって決定された、違反行為の程度に相当する処分でなければならない。
  • 懲戒処分は、法令において明確に定められているものではなく、判例などで示されている解釈なども多いため、それらに関する理解も必要である。
  • 懲戒解雇については、対象従業員との間で訴訟などのトラブルになる可能性が高いため、より慎重に検討し、斟酌できる情状があれば、諭旨退職などを検討することも必要である。
  • 懲戒解雇のような重い処分や複雑な事案に関するものについては、トラブルを避けるためにも弁護士などの専門家に助言を求めることが望まれる。

<執筆者>
本田 勝志 社会保険労務士

関西大学 経済学部 経済学科 卒業。1996年10月 文部省(現文部科学省)入省。退職後、2010年に社会保険労務士試験に合格。社会保険労務士事務所などでの勤務経験を経て、現在は特定企業における労務管理等を担当。


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