スパン・オブ・コントロール
企業の人事制度を経営管理の観点から考えるときに、組織構造をどうするのかという課題があります。この課題に向かうときに考えなくてはいけないのがスパン・オブ・コントロールです。管理限界や統制範囲とも訳されるこの経営学用語について解説します。
スパン・オブ・コントロールとは?
最初にスパン・オブ・コントロールとは何なのかを説明します。組織を運営していくための原則の1つであり、組織設計における重要テーマです。
5つの組織原則
会社の組織構造を構築するときには、経営者やマネジメント層が考えるべき5つの組織原則があります。スパン・オブ・コントロールもここに含まれますが、まずはそれぞれを見てみましょう。
- 専門化の原則
組織を細分化するときは同じ種類の業務内容で分類し、分類された組織である各部署に所属するメンバーは、その部署に割り当てられた役割についての専門家となれるようにする - 権限および責任一致の原則
ある職責に与えられる権限の大きさと、それに伴って発生する責任の大きさは同等のものでなければならない - 統制範囲(スパン・オブ・コントロール)の原則
1人の管理者が統率できる部下の数には上限があるので、組織編成においては管理者あたりの直接の部下数はその範囲にとどめる - 命令統一性の原則
1人のスタッフに対して支持や命令を行う上司は1人のみとして、複数の命令系統を存在させない - 例外の原則
日常的なルーチン業務や判断が少ない仕事は部下に委譲をして、経営者やマネージャーは戦略的な分析や検討、あるいは定型ではない例外業務や組織としての意思決定に専念する
マネージャーの管理限界
スパン・オブ・コントロールは特定の管理者が何人までの部下を持てるのかという管理限界を示します。また、マネージャーが管理する部署の労働力の総量や業務範囲を含めた広い意味で定義することもあり、この場合は統制範囲という訳し方がふさわしいでしょう。
どんなに優れた社長やマネージャーであっても、直接的に管理できる部下の人数や業務量には限界があります。この限界を超えてしまったとき、マネージャーは部下の行動を監督できなくなってしまい、業務管理として案件の進捗状況や課題を把握することも難しくなります。
マネージャーが管理できる部下の人数には限界があるということを正しく認識して、組織編成を考えましょう。
組織の成長と階層化
個人事務所レベルで立ち上げたばかりの企業では、従業員の数も限られています。起業して間もないベンチャー企業などでは、経営者である社長が社内のすべてを把握して管理をしていても大きな問題は起きにくいでしょう。しかし、事業の発展とともに零細規模から中小企業、そしてさらに大きな会社へと成長していくと、どうしても社長や中間管理職者の目が届かない部分が発生してきます。経営管理の観点からも権限の一部を部下に移していく必要があります。
成長企業といわれるような会社であれば、その成長の過程で部署の数が増えていき、管理職の数もそれにあわせて増えていくはずです。これによって社内階層が構成されることになり、トップである社長から下に向かって権限委譲が進められます。
このことは他の組織原則にも従った変化なのですが、各部署の規模をどうするのかということの検討は、スパン・オブ・コントロールを意識しておかなければいけません。中間管理職のスタッフが自部署の適切な管理をしていけるように、組織規模にふさわしい階層化を進める必要があるのです。
スパン・オブ・コントロールを決める要因
一般的に、スパン・オブ・コントロールは5~6人程度といわれますが、状況によってこの値は変わってきます。スパン・オブ・コントロールを決めることになる要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
管理者と部下の能力レベル
スパン・オブ・コントロールを決める要因としてまず最初に挙げられるのが、管理者と部下の仕事における能力レベルです。
■管理者の能力
管理者の管理能力が高ければ、スパン・オブ・コントロールは大きくなります。管理能力とは指導力や洞察力などによって構成される総合的なスキルですが、マネージャー個人の能力レベルによって管理限界が変わってくるということです。
■部下の能力
部下の中に担当する業務における能力レベルの低い人がいれば、その社員へのフォローなどが多く発生したりして管理者の負担が増えてしまいます。その結果として、スパン・オブ・コントロールは小さくなります。逆にチーム内のスタッフがスキルの高い人たちばかりであれば、管理者の負担は少なくなるので、管理・統制できる範囲も広がります。
■上司と部下の能力格差
管理者である上司の能力が非常に高い場合であっても、部下の能力が低いことによってスパン・オブ・コントロールが小さくなることがあります。部下の能力が低いことによって上司がいつまでもプレイングマネージャーから脱することができず、本来の役割である管理業務に専念できないケースなどがこれにあたります。
いくら管理能力が高くてもそれを発揮する機会が削がれてしまうので、上司と部下の能力格差が大きいということも管理限界や統制範囲を決める要因になると理解しておくと良いでしょう。
権限の委譲度
組織原則の中にある「例外の原則」が示すように、経営者やマネージャーは日常のルーチン業務からは外れるべきです。定型的な業務から外れることによって、本来の管理業務である戦略の立案や突発的な案件への対応、組織として意思決定などに専念できるようになります。そのためには判断の少ない通常業務などを部下に委譲しておかねばならず、委譲度が低いとスパン・オブ・コントロールが小さくなります。
もちろん、管理者として持っておくべき権限や責任を下に押し付けてはいけませんが、持っている権限の範囲で、部下ができることは任せるようにしましょう。この際にも部下が持つことになる権限と責任は同じ大きさになるようにして、適切な権限移譲が行われればスパン・オブ・コントロールの最大化が図れます。
業務内容の安定性
その組織が行う業務内容が比較的安定していると、組織原則にある「例外の原則」に該当する事柄が少なくなります。例外的な出来事への対応は部下スタッフも行いますが、マニュアル化できない判断は管理者が行います。
したがって、例外的なタスクが少なければそれだけ管理者の負担が減ることになり、仕事の内容が安定していてルーチン業務が占める割合が多い組織では、スパン・オブ・コントロールが大きくなるということです。反対に、常に臨機応変な対応が求められる部署や、定型的な仕事の設定をしにくい組織では、部下が上司に判断を仰ぐことが増えることなどもあるため、統制範囲は狭くなります。
組織が成長する速さ
業績が好調なベンチャー企業などでは、組織がものすごい速さで成長していくことがあります。成長企業においては人事制度としての社内階層が増えていき、マネージャーと呼ぶべき人の数も多くなっていきますが、成長速度が大きければ大きいほど、経験値が低いままに役職に就くケースが発生しやすくなります。
さらに急激な成長の過程では、管理職社員であってもプレイングマネージャーとして働く必要があったりもするので、スパン・オブ・コントロールは小さくなりがちです。少ない管理者に無理を強いるということにならないように、あるていど権限を分散しておくのが良いでしょう。
スパン・オブ・コントロールを拡大するためには
スパン・オブ・コントロールが小さい組織は中間管理職が多くなり、経営効率の点で良くないものとなってしまいます。拡大するためにはどのような施策があるのでしょうか。
権限委譲できる社員の育成
管理者が持っている機能の1つに判断を下すということがあり、これは責任が伴う権限でもあります。この権限を部下に委譲することで管理者の業務負担は軽減されてスパン・オブ・コントロールが拡大します。
権限委譲を進めるためには、部下である社員がふさわしい判断力を持っていなくてはならず、そのためには育成が必要となります。上司の権限の一部を引き受けられる社員を育てることで、スパン・オブ・コントロールを大きくできます。
業務のマニュアル化
業務の手段や方法が定まっていないと部下社員が上司に支持を仰ぐ頻度が高まります。そうするとその上司は部下に指示を出すことに手間や時間をとられて、本来の管理業務に割ける時間が減ってしまいます。
逆に、業務のマニュアル化を可能なかぎり進めておけば、管理職層が支持を出す頻度を減らせます。マニュアル化による業務の標準化も、スパン・オブ・コントロールを拡大するために有効な手段です。
情報共有手段の改善
組織において情報共有は必要不可欠な重要事項です。一方で、上司から部下へ、あるいは部下から上司への情報伝達には少なからず時間がかかります。マネージャーが管理統制するためには部下とコミュニケーションをとって双方向のやりとりをしなくてはいけません。
IT化することなどによって情報共有の手段を改善していけば、上司と部下の間で行われる情報のやりとりを効率化できる可能性が高くなります。コミュニケーションのレベルは維持しながらも、時間や手間を省略できる方法を検討しましょう。
まとめ
- スパン・オブ・コントロールとは組織を統率する人が直接的に管理できる部下の人数や業務範囲のことです。
- いくつかの要因によってその範囲が決まってくるので、適切な数を見極めて組織編成をするようにしましょう。また、スパン・オブ・コントロールを大きくすることも可能なので、そのために出来ることも考えてみると良いでしょう。
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