連載:第4回 よくわかる補助金・助成金 販路開拓
補助金で実現できる多言語対応とは?インバウンド対策に使える補助金のメリット
近年、政府をあげて外国人観光客の誘致を行い、観光を成長産業と位置付けてさまざまな支援を行ってきました。観光業界への支援を行った結果、訪日外国人観光客数は年々増加しています。 その一方で、増える訪日観光客に対応するインフラ整備は遅れています。とくに観光などの現場で、直接外国人と接する小規模事業者の多言語対応は急務となっており、政府は補助金などの支援を積極的に行っています。そこで今回は、補助金で実現できる外国人観光客のための多言語対応について解説していきます。
1.欠かせない多言語対策には補助金を有効活用
訪日外国人観光客の増加に伴い、BtoCのビジネスを行ってきた企業は、顧客が日本人以外にも広がっているという方も多いのではないでしょうか。そこで問題となってくるのが、言語の問題です。最近では小規模飲食店であっても、英語だけでなく中国語や韓国語などのメニューを用意している、といったところも増えてきました。
増加傾向にある訪日外国人観光客のニーズに対応するためには、多言語対応は必要不可欠になりつつあります。ただし多言語対応は顧客拡大のチャンスであると同時に、中小企業にとっては非常に負担の大きいものです。メニューを多言語化するためには、単にネットの翻訳文章を並べればよい、というものではありません。たとえば海外に行ったとき、日本語の説明文が掲載されているのに、おかしな表現になっていたことはありませんか?単純に直訳すればそれでよいという訳ではないので、やはりしっかりとした多言語対策が必要です。
ではどうすれば上手に伝えられるのでしょうか。そんな悩みに応えるために、中小企業の負担を減らし多言語対応に使えるさまざまな補助金・助成金があります。これらをうまく利用すれば、かなりの部分をカバーできるようになるでしょう。では実際にどのような種類があるのかご理解いただくために、代表的なものをご紹介します。
・公益財団法人 東京観光財団(TCVB)インバウンド対応力強化支援補助金
この補助金は、以下のような事業者に支援されます。
(1)東京都内において旅館業法の許可を受けて「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」を行っている施設
(2)都内の飲食店(※)・免税店(中小企業者のみ)
(3)外国人旅行者の受け入れ対応に取り組む中小企業団体・グループ
※外国人旅行者のための多言語対応に取り組んでいる店舗
またインバウンド対応強化が目的となっているので、幅広い事業が対象となっています。
①多言語対応(施設・店舗の案内表示・室内・店内設備の利用案内・ホームページ・パンフレットなどの多言語化、多言語対応タブレット導入など)
②無線LAN環境の整備
③トイレの洋式化
④クレジットカードや電子マネーなどの決済機器の導入
⑤客室の和洋室化、テレビの国際放送設備の整備(宿泊施設のみ)
⑥免税手続きに係るシステム機器の導入(免税店のみ)
⑦外国人旅行者の受け入れ対応に係る人材育成
このように、とさまざまな事業に使うことができます。メインテーマの多言語対策だけでなく、関連項目である無線LANやトイレの洋式化など施設整備、外国人を接客するスタッフの教育、といったことにも使うことも可能です。ただし、補助対象経費の2分の1以内であり、限度額は1施設/店舗あたり300万円が限度となっています。(詳しくは該当サイトをご覧ください)
こうした補助金は、東京都だけでなく、各地方自治体も行っています。事業を行っている所在地でどのような補助金制度があるか、一度調べてみてはいかがでしょうか。
また国も、訪日外国人対応のために、補助金・助成金事業を行っています。国土交通省では、訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業を行い、補助対象経費の3分の1以内を限度に支援をしています。
(国土交通省観光庁:訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の公募を開始します)
それに加えて観光振興事業(観光地の「まちあるき」の満足度向上整備支援事業)として、訪日外国人旅行者のニーズが特に高い取組みなどを一体的に進める事業に対し、経費の2分の1以内を補助しています。
ご注意いただきたいのが、これらの補助金は予算額に達すると終了してしまいます。見逃さないためにも、公募をよくご確認ください。また来年度のオリンピック開催のために、さらに別の補助金・助成金事業を行うこともあるでしょうから、多言語対策を取り入れたい企業は、常に情報をチェックしておきましょう。
2.補助金を活用して多言語対応アプリを導入
補助金があることはわかりましたが、実際に取得して活用するにはどうしたらよいのでしょうか。そこで、その具体的な事例として、草津温泉旅館協同組合の例を参考にしてみましょう。
この組合は、国土交通省観光庁の宿泊施設インバウンド対応支援事業を活用しました。この宿泊施設のインバウンド対応支援事業は以下の内容です。
宿泊事業者(5以上)による協議会が「訪日外国人宿泊者受入体制拡充計画」を策定し、国土交通大臣の認定を受けた後、宿泊事業者による各宿泊事業者が実施する、Wi-Fiの整備、自社サイトの多言語化などインバウンド対応事業の経費の一部を支援し、訪日外国人が快適に利用できる宿泊施設の拡大を図る事業 です。
(国土交通省観光庁:宿泊施設インバウンド対応支援事業)
つまり宿泊事業者団体がインバウンドの受け入れ態勢整備の計画を作り、国交省に応募、認定を受けたら団体を校正する宿泊事業者が交付申請を行い、支援を受けるというものです。
【出典】国土交通省 観光庁 宿泊施設インバウンド対応支援事業より宿泊施設インバウンド対策支援事業 事業スキーム
草津温泉旅館協同組合では、この制度を利用し、英語・中国語・韓国語・タイ語の5言語に対応したタブレットやアプリケーションを導入しました。ホテル・旅館のフロント・接客だけでなく、近隣の観光名所への案内などでこのアプリを活用しています。
草津温泉旅館協同組合のように、タブレット通訳サービスの導入だけでなく、メニューやインバウンド客向けの商品説明などの多言語化も補助金の対象です。2018年8月に公表された「平成31年度 観光庁関係予算概算要求概要」によると、インバウンド対策の方向性は以下の3つです。
1.ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備
2.我が国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化
3.地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験滞在の 満足度向上
こうした方向性の事業を行うのであれば、積極的に補助金を活用してみてはいかがでしょうか。
3.リピーターを獲得し、さらなる発展を
こうした補助金を活用し、多言語対応を進めれば、企業にとって大きなプラスになります。 多言語対応によるメリットとしては、リピーターの獲得、消費の拡大、接客の効率化などの効果があるといわれています。
・リピーターの獲得
多言語対応をしっかり行うことで、訪日外国人観光客に「日本は旅行しやすい」という印象を持ってもらい、何度も訪れてもらえるリピーターになってもらえるかもしれません。実際に観光庁のデータによると、訪日外国人旅行者の61.4%が、訪日回数2回目以上のリピーターだといわれています。訪日回数の増加とともに、1人あたりの旅行支出は高くなる傾向がある(平成29年訪日外国人消費動向調査)のでめ、多言語対応は将来の新規顧客をしっかり確保することにつながるはずです。
・消費の拡大
商品やサービスの説明などを多言語対応することで、外国人の購買意欲を高め、消費拡大が期待できます。さらに客層や顧客単価の向上も期待でき、売上アップを狙うことができます。
・インバウンド客対応の効率化
訪日外国人観光客の接客を行うスタッフは、誰もが外国語に堪能なわけではありません。外国語で話しかけられても理解するのに時間がかかり、それだけサービスは低下してしまいます。多言語での対応体制を整備することは、スムーズな接客を実現し、サービス向上を目指せます。システムや設備だけでなく、サービスを行う従業員にもフォローしていくことで効率化が実現されるようになります。
4.まとめ
補助金を活用して事業を展開していくというと、非常に難しいと感じるかもしれません。しかし補助金・助成金にはさまざまな種類があり、活用の仕方によっては上記のように顧客単価の向上、新規顧客の獲得なども期待できます。
今回紹介したような補助金制度は、地域に密着した事業を展開している中小企業、新規起業者こそ、上手に利用すれば高い効果を期待できるでしょう。ぜひ多言語対応を支援する補助金をビジネスに取り入れてみませんか!
監修:長谷川祐也(中小企業診断士/経営学修士)
執筆:リカル
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