VUCA
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとして使われています。
VUCAとは
VUCA(ブーカ)とは4つの単語
- V olatility(変動性)
- U ncertainty(不確実性)
- C omplexity(複雑性)
- A mbiguity(曖昧性)
から頭文字をとって作られた単語であり、現代のカオス化した経済環境を指す言葉です。一言でいうと「予測不能な状態」を意味します。
VUCAはもともと1990年代にアメリカの軍事領域において用いられてきた言葉で、昨今、経済、企業組織、個人のキャリアにいたるまで、ありとあらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあります。
そんな中、2010年代に入って以降、世界の経済界各所で「VUCAの時代」が到来したといわれるようになりました。
VUCA時代
2014年、ASTD国際大会にてVUCAは注目を浴びました。「チェンジ(変化)」にフォーカスが当たったこの年、VUCAは多くのセッションで登場しています。
2016年に入って以降もWEF世界経済フォーラム(ダボス会議)やIMD国際経営開発研究所主催の講演でVUCAは数多くのビジネス界の著名人に取り上げられ、「VUCAワールド」という言葉が頻出しています。現代ビジネスは本格的にVUCA時代に突入したといえます。
※ASTDとは…米国人材開発機構、1944年に設立された非営利団体。100か国以上の国々に約40000人の会員をもつ、訓練・人材開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織。現ATD
現代におけるビジネス環境の変化「VUCAワールド」
2000年代以降、世界経済は急速にグローバル化が進み、市場は急激な変化を遂げています。変化は日本においても進んでいて、たとえば個人のレベルでは、もはや終身雇用制度は崩壊に向かっており、それまで安泰といわれていた大企業の倒産も目立つようになっています。
また、IT技術の進歩に伴うイノベーションの加速によってあらゆる市場で既存ビジネスモデルの崩壊・再構築が始まり、ビジネス界の新陳代謝はどんどん激しくなる一方です。世界の家電市場を席巻していたにも関わらず、現在衰退傾向にある日本の電機メーカーはそのいい例であり、一度市場の覇者となっても数年以内に流行が廃れてしまうサービスもまた珍しくありません。
ビジネスモデル一つとっても、これまでの10年間を今後の10年間と比較すると、その変化の速さは比べものにもならないでしょう。VUCAワールドはそんな、めまぐるしく変化し、先が予測できないビジネス環境を的確に示しているといえます。
より具体的なVUCA時代到来を示す事例を4つの単語Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)に絡めながら説明していきましょう。
Volatility-変動性-
テクノロジーの進歩や世界情勢が激変する中で、現代のビジネスにはさまざまなリスクが潜在しています。また、消費者の価値観・ニーズの多様化により、市場はどんどん細分化。
これらの急激な変化に対応するため、企業の商品開発やマーケティング手法を変革するべき時代に突入したと言えるでしょう。
SNS市場を取り巻く変動性
日本で始まったSNS(ソーシャルネットワークサービス)の先駆け「mixi」をはじめ、現在では「Facebook」や「Twitter」、「Instagram」、「TikTok」、さらには日本のコミュニケーションを革新させた「LINE」など、数多くのSNSが登場しました。mixiのサービス開始は2004年であり、わずか15年余りでSNSの市場は大きな変化を遂げているのです。
このようなSNSは巨大な顧客を持つプラットフォーマーとして君臨し、金融業や広告業など幅広い事業を展開していることでも知られます。近年では、SNSは消費者の購買決定に強く働きかけることも多く、商品やサービスを提供する企業はSNSを活用したマーケティング(インフルエンサー・マーケティング)を実施し、企業価値の向上に努めています。
ビジネス業界におけるSNSの影響力の拡大は、世界共通の変動性といえます。
Uncertainty-不確実性-
政治、経済、市場を取り巻く環境はグローバル化が進んでいます。また、世界中で大規模な自然災害や気候の変化がといった問題も発生しています。
現代を取り巻く世界情勢はますます予断を許さない状況となっており、さまざまなリスクに対応しなければなりません。
保護主義の台頭による世界経済のリスクが増加
テクノロジーの発展により、グローバル化が実現し、自由貿易が全世界に恩恵をもたらしている一方で、国同士の利害関係に起因する葛藤や争いが続き、自由貿易の悪用や保護主義に向かう国が登場しており、世界経済にさまざまな悪影響も与えているのが現状です。
2016年6月に起きたイギリスのEU離脱問題や、アメリカ合衆国の保護主義政策、東アジアで起きている安全保障問題などによりカントリーリスクが顕在化し、世界中の株価市場・為替市場は乱高下する事態をもたらしています。
不確実性は予測不可能な政治や気候により、未来がどうなるか予測することが困難な様を意味しています。
Complexity-複雑性-
既存の枠組みを超えた事業が増えつつある中、個人や組織のビジネス課題や業務は高度化・複雑化しています。また、かつてのイノベーションとは異なる、オープンイノベーションやリバース・イノベーションといった新たな概念への注目が高まっています。
イノベーションとグローバル化が示す複雑性
日本の市場に大きく影響を与えたイノベーションサービスとしては、米ウーバー・テクノロジーズ社が運営する自動車配車サービス「Uber」や、米Airbnb, Incによる一般人が空き部屋を宿泊施設・民宿として貸し出す「Airbnb」があげられます。
Uberは今までの移動手段の概念を変えるイノベーションとして知られており、いつでもどこでも配車を可能とし、明確な会計システムや支払いの利便性、さらにはクラウンやベンツ、BMWといったハイクラスの車種を手配できるところが特徴です。
Airbnbは、人気観光地の宿泊施設不足やサービスに沿わない高額なホテル料金といったさまざまな問題に対して、個人が自分の家を宿泊施設として提供するサービスが家主・消費者ともに支持され、世界中で急拡大しています。
しかし、こうした画期的なイノベーション・サービスに現行の法整備が追いついておらず、さまざまな課題が発生しています。また、日本では法整備によりイノベーション・サービスのメリットを阻害する事態(民泊事業では年間180日までの上限規制)にもなり、国や法の違いが新たなビジネスモデルの浸透を妨げていることも事実です。
テクノロジーにより物理的な制限が排除され、画期的なサービスが浸透する中でも、多数の当事者・企業・国家が関わることで、現代の複雑性はますます高まっています。
Ambiguity‐曖昧性-
世界中でプロダクトライフサイクルの短縮化や経営を取り巻く環境の変化が起きています。そのため、過去の成功例が現在のビジネス課題に通用しなくなっており、長期的な予測だけでなく、短期的な予測も難しくなりつつあります。
曖昧性を包括しながら進むベンチャーキャピタル
欧米で主流となっていた投資ファンド(VC:ベンチャーキャピタル)は、日本でも一般的に認知されるようになり、大企業がベンチャー企業に投資する取り組みも始まっています。
トヨタ自動車株式会社が立ち上げたトヨタグループ株式ファンドは、人工知能、ロボティクス、燃料電池技術を開発するスタートアップを中心に投資、売上高1兆円を超える住友林業株式会社は、当時社員数がわずか20名だった建設事業者のプラットフォーム事業を運営する株式会社ローカルワークスと協業するなど、現在の日本は第4次ベンチャーブームと呼ばれています。
スタートアップ企業に投資するプログラムを開始している企業が増えている一方で、「投資対象が必ずしも利益に直結するとは限らない」というジレンマにも悩まされています。また、高い技術レベルを保有していたとしても本当に市場ニーズに応えることができるかも曖昧です。
日本の大手通信事業を手掛けるソフトバンクグループ株式会社によるベンチャーキャピタル関連の話題でも、良い話題もあれば悪い話題も存在します。現代社会では、曖昧性の高い案件に対して短時間で意思決定を行っていく必要に迫られているのです。
VUCA時代に飲まれゆく企業・人
ここからはVUCA時代にあって急変を遂げている事例を紹介します。
シャープの栄光と衰退
1998年にシャープの社長町田勝彦(当時)は「ブラウン管テレビをすべて液晶テレビに置き換える」と宣言しました。その宣言通り2000年代シャープは過去最高の売り上げである3兆4177億円を計上するなど世界有数の電機メーカーとなります。しかしこの状況は2010年代に入ると一変し、2011年頃から巨額の経営不振に見舞われ、ついには鴻海に買収されるという結果に至りました。
ここで予測のできなかった大きな「変化」は次の2つが挙げられます。
- 液晶テレビ用パネル価格の大幅な下落
- 強烈な円高による為替差額損益
為替価格や市場価格の大幅な変動はまさにVUCA(予測不能な状態)なものの代表といえるでしょう。
石油企業を混乱させる投機とシェールガス
2014年7月、石油価格の急激な下落が始まりました。これによって石油メジャーはもちろん、石油資源開発会社、石油小売り大手まで数多くの石油関連企業が経営状態を悪化させています。
ここで予測できなかった大きな「変化」は次の2つが挙げられます。
- 技術革新によるシェールガスの台頭
- アラブ諸国の原油価格抑制(投機的な要素)
これらはまさに様々な利権者が絡み合い複雑性をましたVUCAワールドだからこそ起きた事例といえます。
人にとって代わる!?AIの台頭
2015年12月、野村総合研究所は「日本の労働人口の49%が人工知能やロボットで代替可能になる」との試算を発表しました。代替可能性が高い職業としては生産オペレーターや一般事務員からタクシー運転手まで100種の職業が挙げられています。実際にどこまで現実になるかはわかりませんが、この予測のままいけば多くの労働者が職を失ってしまう可能性があります。
ここで今まで労働者が予測できなかった大きな「変化」は次の要素が挙げられます。
- 機械学習に代表される人口知能関連技術の飛躍的な発展
AIの台頭によって仕事が「減る」のではなく「失くなる」可能性が生じていることからも分かるように、現代社会は今後より不確実な世界になっていくでしょう。
【参考】 日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に/野村総合研究所
VUCA時代に求められるリーダーシップ
これまで何度も強調してきましたが、世界はVUCAワールドに突入し、環境の変化は予測できなくなっています。
したがって、VUCAワールドを生き残る組織であるためには、強いリーダーシップを持った人材を育成することが非常に重要となっています。
VUCA時代のリーダーシップに求められる3つのポイント
スタンリーマクリスタル将軍(General Stan McCrystal)は2014年ASTDの基調講演にて、チームや組織が変化の激しいVUCAの世界で生き残るために求められるポイントとして次の3つを挙げています。
- 予測できるという傲慢さ (predictive hubris) を捨てる
- 組織的な適合性 (organic adaptability) を高める
- 共有化された意識と権限委譲による実行(shared consciousness & empowered execution)
未来は予測できず、適応することしかできない、そのために現実に適応する力を高める必要性があります。
この適応力を高めるには、「ビジョンの設定」と「動機付け・育成」、そして「決断すること」という3つの役割を担い、それぞれ必要なスキルを高めなければなりません。
ビジョンの設定
ビジョンの設定には、「どんな成果を出すか」という方針を固め、企業として何を果たすべきかというビジョンやミッション、そして個人(会社の一員)として自分の立ち位置での成果や目標を明確化することが必要です。
また、不確実性の高い未来に対して、優れた洞察力や構想力を持ち、自分たちにしかできない形で提供価値を作り出す力が求められます。
動機付け・育成
リーダーは部下やチームメンバーが当事者意識を持ち、目標を達成できる環境を構築することも求められます。
そのためにも、部下・メンバーひとり一人の価値観や強み、能力、現在の状態を考慮した上でモチベーションを向上させるコミュニケーションとり、相手の力量を正しく評価し、最高のパフォーマンスを発揮できるように支援していくことが必要です。
決断すること
時代の変化が激しい現在、リーダーには強い決断力が必要です。過去の経験(原体験)を振り返ることで共通項を見つけ出し、自分の判断軸を理解します。
また、リーダーとなる人材に最も必要な役割として、チームにかかわる人々に「権限を委譲する」ことがあります。部下やチームメンバーとの信頼関係を構築したうえで権限を委譲することも、大きな決断力のひとつです。
【関連】VUCA時代に求められるリーダーシップの役割とは。育成方法もご紹介/BizHint
「VUCA時代を生き抜くために重要な「OODAループ」
OODAループとは、「観察(Observe)」、「状況判断(Orient)」、「意思決定(Decide)」、「実行(Act)」の4つのステップを通して、先が読めない状態の中でも最前の選択を行い、実行に移していくための意思決定プロセスです。
OODAループは、現場レベルでリアルタイムのデータを収集・分析し、市場における自社の立ち位置や競合他社との優位性といった現状を整理した上で、意思決定を行っていきます。そのため、不確実性の高い現状においても、柔軟かつ迅速に対応が可能であり、まさにVUCA時代に活用すべき優れた思考・意思決定プロセスとして、今注目が高まっています。
OODAループについては、以下の記事も合わせてご覧ください。
【関連】OODAループとは?PDCAサイクルとの違いやビジネス書籍を紹介/BizHint
まとめ
- VUCAはVolatility(変動性)Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった単語
- 現代の社会経済環境は複雑性を増し、予測不能なVUCA時代に突入している
- VUCA時代を生き残る組織には強いリーダーシップが必要
- リーダーに求められる能力は自分自身を変化させながら組織の変革を推進する力
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