連載:第23回 成長企業 社長が考えていること
自分をさらけ出さなくては経営者の思いは伝わらない。スタートアップCEOが考える「ナンバー2」の人材登用
ノンデスクワーカー領域の業務効率化で、急成長中の株式会社カミナシ。組織拡大に伴い、経営者の「右腕」となる人材をどう迎え入れたのか。かつては「人に頼れない経営者」だったという、代表取締役CEOの諸岡裕人さんに話を聞きました。
株式会社カミナシ
代表取締役CEO 諸岡 裕人さん
1984年、千葉県出身。慶應義塾大学経済学部卒。株式会社リクルートスタッフィングを経て、2012年に家業であるワールドエンタプライズ株式会社に入社。現場業務に従事した原体験から、2016年12月にカミナシを創業。ノンデスクワーカーの業務を効率化するSaaSを展開する。
どうしても一緒に働きたくて「オファーを伝える会」を設けた
──2020年6月にリリースされた現場DXプラットフォーム「カミナシ」は、作業チェックや報告書作成といった現場の管理業務を効率化するSaaSとして、工場や店舗など幅広い業界で利用されています。「カミナシ」の開発当時、御社はどのような状況だったのでしょうか?
諸岡: 2016年12月に創業しましたが、主力事業が伸びず、2019年末に事業方針を転換して新たなプロダクトの開発に着手しました。これが現在の「カミナシ」です。開発は順調に進んでいたものの、2020年に入ってから新型コロナウイルスの感染が拡大し、ありとあらゆる現場がストップしてしまいました。手応えがあっただけに、せっかく高まった気運を維持するのに必死でしたね。現COOの河内(佑介)を採用したのも、ちょうどその頃です。
──執行役員をはじめ、経営者の右腕となる人材の採用に悩まされている企業も多いと思います。御社は経営幹部の採用に、どのようなプロセスを設けているのでしょうか。
諸岡: 最初から経営幹部として採用することはありません。あくまで役員“候補”であり、いちプレイヤーとしてジョインしてもらう形を取っています。河内も当初はPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)としての採用でした。
と言っても、当時は開発が最優先で、人材を募集していたわけではないんです。コーポレートサイトは手作りで見栄えもよくないし、採用の窓口すらなかった。でもそれを見た河内は「こんなカオスな状況に飛び込んだら楽しそうだ」と思ったそうなんですね。私と同じなんです(笑)。
──そのような状況で、なぜ採用に至ったのでしょうか。
諸岡: 河内の経歴や実績が十分だったのはもちろんですが、会ってすぐ「この人なら」と思えました。予定時間を大幅に過ぎても話が尽きないほど馬が合いましたし、私たち以上に私たちがやりたいことを信じていた。前職で大規模サービスを手掛けていたのに、それでは満足できず、「この市場ならもっとグロースするサービスを作れるはずです」と言うわけです。
「何ができるか」「何をしてきたか」も大切ですが、「何をしたいか」「何になりたいか」という思いを明確に描ける人は、こちらの想像を超えて伸びていくもの。この人は絶対に採用したいと思って……ラブレターを書きました。「あなたのこういうところが素晴らしい。カミナシに来たらこういうところで活躍してもらえるはず」と、社内の人間と一緒に文面を考えて。
──こちらも「あなたを採用したい」という思いで答えたわけですね。
諸岡: そうですね。逆にこちら側から強い思いで働きかけたのが、現CTOの原を採用したときですね。エンジニアを探しているときにVC経由で声をかけたのですが、彼は最初、全く転職する気がなかったんです。ただ、実績はあるし将来性も十分に感じる。私たちは「どうしてもこの人と働きたい」と思ったので、プレゼン資料を作りました。ご存じですか? まだ高校生だった大谷翔平選手との入団交渉で、日本ハムファイターズが提示した「伝説のプレゼン」を。
──メジャー挑戦を表明していた大谷選手を思いとどまらせ、日本ハム入団に導いたと言われる……。
諸岡: そうです。河内に「あれを作ってくれませんか?」と頼まれまして(笑)。
そこから、「原さんがなぜカミナシに来なければいけないか?」を必死で考えました。私は採用面談のとき、いつも相手になりきって考えるんです。どんな人生を歩んできたかを細かく聞いて、どのような価値観で、どんなことを考えているのかを想像する。原の場合も、過去に登壇した内容などを調べ、彼の考え方をトレースし、彼がカミナシで人生のピークを更新して幸せになるには……と、ロジックを詰めていきました。最終的に「将来CTOに挑戦してみませんか」「こんな世界を一緒に作りましょう」など、思いを全て資料に詰め込んで、「原さんにオファーを伝える会」を設けたんです。
──そこまでリソースを注ぎ込んで、本気で口説いていることを見せたわけですね。
諸岡: 最後は「この人たちだったら、失敗してもうまい酒が飲めそうだ」とオファーを受けてくれました。経営者として、本気で右腕となる人材に出会えたのなら、これくらい手間暇をかけて気持ちを込めなくてはならないと感じましたね。
2022年7月に就任したCTO原氏を採用する際に、諸岡氏が使った「原さんがなぜカミナシに来なければいけないか?」を伝えるためのプレゼン資料
権限を委譲し続けた先に、経営者のもとに残るものとは
──右腕となる人材を採用すれば、それで終わりではありません。組織が拡大するにつれ、経営者は周囲に権限を委譲することになります。権限委譲を進めるうえで、意識されてきたことはなんでしょうか。
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