連載:第3回 プロ・リクルーター、河合聡一郎さんが聞く【事業承継のカギ】
3代目経営者が事業を承継するなかで「変えた」こと「変えない」こと【銀座英國屋小林英毅さん×河合聡一郎さん】


採用のプロフェッショナルである河合聡一郎さんの事業承継の成功のヒントを探る連載。今回はビジネス・エグゼクティブ向けオーダースーツの製造販売を行う銀座英國屋の代表取締役社長、小林英毅さんです。後半では変革のプロセスと組織づくりについてお話を伺いました。接客方法をブラッシュアップしたり、本社部門でMBO(目標管理制度)を廃止するなどの変革を行っていますが、変革にあたって丁寧なコミュニケーションを心がけているとか。小林さんが事業を継承するなかで「変えた」こと、「変えない」ことを探ります。

河合聡一郎さん(以下、河合): 事業承継において、トップダウンの変革は組織にとってマイナスの影響を及ぼすことがある。社員が受け入れられるかが変革のポイントだとおっしゃっていました。具体的に「ここは変えずに残そう」と思ったことや「ここは変えた」という事例を教えてください。
小林英毅さん(以下、小林): 私からの提案をきっかけに討議され、私の当初案ではないものの、より目的達成に沿った案に昇華されていったことが多くあります。
一つは接客方法です。店舗での接客”方法”はOJT中心で教育されています。その状態から更に組織としての接客力アップを目指し、方法が明文化された「インタビュー型営業」「質問型営業」といった外部手法の導入を社内に提案したのですが、共感が得られませんでした。私は「外部で実績があり、明文化された手法を取り入れ、組織として接客力を上げたい」という思いが強く、感情的にもなってしまいました。
共感が得られなかった理由は、訪問販売にイメージを置いた方法であり、ご注文を前提でいらっしゃる来店型の接客には、少し強すぎるコミュニケーションだったため です。ただ、これまでの接客方法をより詳細に聞いていく中で「質問をして、お客様からお話を引き出すことが、お客様との距離を縮めることが有効だ」ということが、ハッキリと共有され、その方向で明文化することで決定しました。
結果、私の指南役でもある大ベテランの副社長が大切にしてきた「質問をするにしても、まずはお客様に対するリスペクトする気持ちが前提」も明文化されました。その時には分からなかったのですが、後日、実は質問型営業でも「尊敬」が大事にされていることが分かりました。私自身の理解が浅い部分があるので、確定はできませんが、副社長の価値観と近いものと思います。
このケースからわかったことは、 今ある価値に目を向け、磨いていくというやり方が結果的に自社に適していた んだと思います。もっと言えば、弊社で実績のない外部メソッドよりも、既に弊社で実績を出し続けてきた副社長のメソッドの明文化の方が、弊社にとっては価値があって当然だと、反省しています。
河合: こういった点にも周囲に対するリスペクトがよく表れていますね。小林さんはもともと外部企業を経験されて家業を継いだわけですが、前の組織の影響を受けたこともたくさんあったのではないでしょうか。
小林: そうですね。ただやはり気をつけたいのは、いくら外部で得た経験や優れたメソッドがあっても、最終的に自社の状況に合わないものを取り入れると失敗してしまうということ。世の中一般的に正解だと思われているものが、自社の組織や人にとって正解かは全く別問題だということです。 前職のワークスアプリケーションズで学んだ「目的思考」「他責NG」といった思考法を取り入れようとしましたが、やはり初めは社内に受け入れられませんでした。 でも今年度から、本社の人事考課にこれらの言葉を導入できるようになりました。10年越しで変わったことですね。
河合: それだけ長い時間が必要だったということでしょうか。営業方法だけでなく、採用や評価制度とか文化など着手したい部分がたくさんあったと思います。どうやって小林さんなりにアクセルを踏みなおしてきたのでしょうか。
小林:アクセルを踏むタイミングは社員の顔色を見てでしょうか(笑)。 社員との密なコミュニケーションを大切にする。万が一受け入れてもらえなくても、時機をうかがって再度提案してみる。少なくとも自社と自分にとっては、時間は必要だったように思います。それだけ組織の変革には時間がかかるということです。私のカレンダーには「3年後、5年後に再度提案する」というものがいくつもありますよ。もちろん、時が経ち、自分の考えの過ち・足りなさにも気付いて、コソッと消していくものも多くあります。
社員に求めるのは「会社の課題を会社とともに解決できる人」
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