連載:第64回 リーダーが紡ぐ組織力
若手が辞めない組織へ導いた、ある改革。大量退職でも貫いたリーダーの覚悟


産業用の自動化装置やロボットシステムを一点モノで設計・製造する、株式会社フジコソ。同社は市街地から少し離れた場所にありながらも、募集をすれば人が集まり、若手が辞めない組織として知られています。しかし、かつては採用メディアに出しても応募がわずか数名しかなく、人の入れ替わりも激しかったそう。組織もバラバラで、従業員のモチベーションも低い状態でした。現在は、新卒の3年以内離職率が12%と低水準を実現。採用も、約5〜6倍の応募が集まるようになりました。同社はなぜ、そのような企業へ生まれ変わることができたのか。その背景には、代表取締役会長 藤社司さんが断行した、大きな痛みを伴う「ある改革」がありました。詳しく伺います。

大量離職を招いても断行。若手が辞めない組織の基盤を作った「ある改革」
――最初に、貴社について教えてください。
藤社 司さん(以下、藤社): 当社は、さまざまな業界における自動化装置やロボットシステムをオーダーメイドで設計・製作する会社です。従業員数は77名、売上高は約12億円です。 現在は、おかげさまで募集をすれば人が集まり、特に若手が辞めない組織になっています。
しかし、かつては深刻な人手不足に陥ったこともあります。
――「深刻な人手不足」の要因は、何だったのでしょうか?
藤社: 一つは、採用ができなかったことです。当社は愛媛県の都市部から離れた山の中にあり、 採用メディアに掲出しても年間数人しか応募がありませんでした。 今のように、働きやすい環境を整えていたわけではありませんし、自社の仕事が世の中にどう役立つのかを発信していませんでしたから、魅力を感じづらかったのかもしれません。
ただ、 大きくは業務の属人化による離職の連鎖が原因だったと思います。
特に深刻だったのが、製品を作るうえで最上流工程である「メカ設計部門」でした。当時使用していた2D CAD(平面図)の図面は、読み解くのに専門的な訓練が必要で、他部署が見ても理解しづらい構造になっていました。そのため、設計担当者以外は内容を把握できず、何か尋ねても「あなたたちが見ても分からないだろう」と突っぱねられていました。上流部門であるだけに、 一つの設計判断が全工程・全品質に大きな影響を及ぼすにもかかわらず、全体共有が機能していなかったのです。
当時は「技術力のある人が偉い」という空気が蔓延し、他者が口を挟めない。さらにお互い無関心で、「仕事さえしていればいい」という雰囲気の中、 組織はまるで個人事業主の集まりのようになっていました。
また、設計段階で誰も口出しできないことから、一品もののオーダーメイド装置が完成して初めてミスが発覚し、作り直しが発生することも頻発していました。私たちの仕事は、量産ではなく一発勝負。一度の設計ミスが、そのまま数百万円単位の損失に直結する。 そうした緊張感の中で、現場の士気は次第に下がり、人の入れ替わりも激しくなっていきました。 結果として追加費用が重なり、利益率は下がり続け、経営を圧迫していた……。それが、2016年頃のことです。
人が定着せず、育たず、そして採用もできない。さらに、利益率も低下している……。これらの要因により、一時は事業の縮小も考えました。 ただ、当社の仕事は多くの生産業界の自動化を支える仕事。ニーズは高まっていました。
「このままではいけない」と強く思い、ある大きな改革を実行。実行段階では反発も起こり、多くの設計士が会社を去りました。 大変な痛手ではありましたが、それでも覚悟を持って断行したことにより、結果的に人が集まり、かつ若手が辞めない組織の基盤ができたと思います。
――どのような改革を実行されたのでしょうか?
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バックナンバー (64)
リーダーが紡ぐ組織力
- 第64回 若手が辞めない組織へ導いた、ある改革。大量退職でも貫いたリーダーの覚悟
- 第63回 「組織を変えれば売上が上がる」は経営者の驕り。利益10倍、100億企業のリーダーが徹底したこと
- 第62回 社員の離職を止めた、リーダーの意外な「ある行動」。人が辞めない組織への転換点
- 第61回 「イエスマンばかり」の組織に危機感を抱いたリーダー。社員の主体性を引き出すため徹底した、たった一つの行動
- 第60回 社員の能力を封印していたのは自分。組織の大量離職を止めたリーダーの「気づき」