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2018年8月27日(月)更新

在籍出向

在籍出向とは、社員としての身分を残したまま出向させることを言いますが、その際には法令、判例等に沿った適正な手続きが必要となります。この手続きを誤ると、後に訴訟に発展するなど大きなトラブルにもなりかねません。労働法令やその解釈が複雑に変わっていく中、各企業においては出向の仕組みやその所用手続きについての正しい理解が求められます。

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在籍出向とは

在籍出向とは、社員としての籍を残したまま他社で勤務させる人事異動のひとつです。具体的には、出向元と出向先とが対象社員についての出向契約を締結することで、社員との労働契約を維持したまま、その労働契約の権利の一部を出向元から出向先に譲渡させ、出向先で業務を行わせることが可能になるものです。

この場合の三者の関係性は、出向元と出向先の間には出向契約、出向元と社員の間にはこれまでの労働契約、出向先と社員との間には譲渡された労働契約と指揮命令関係、というものになります。このため、社員と出向元、出向先のそれぞれの間には二重の労働契約関係が成立することになります。

具体的な契約手続きについては最後の章でまとめます。

【図表1】在籍出向における出向元、出向先、労働者の関係

【関連】出向の意味とは?契約書の重要性や派遣との違いは? / BizHint HR

在籍出向の目的

各企業により様々ですが、基本的にはいずれ出向社員を戻すことを想定しているものですので、まずは、関連会社や取引先会社への業務指導や援助が目的であったり、社員自身のための人材開発や人事交流を目的としている場合が考えられます。

また、労働契約を維持させつつも、余剰人員の整理や中高年齢層の処遇などを目的としている場合も多く見受けられます。

在籍出向と転籍出向、労働者派遣との違い

在籍出向と同様に自社の社員を他社に行かせるものとして、転籍出向や労働者派遣というものがありますが、それぞれに大きな違いがあります。

「転籍出向」とは

転籍出向とは、社員としての身分を失くし、他社でその社員として勤務させる人事異動のひとつです。

具体的には、転籍元と転籍先とが対象社員についての転籍契約を締結することで、社員との労働契約の権利を転籍元からすべて転籍先に譲渡させ、転籍先の社員として業務を行わせることが可能になるものです。他の方法として、社員を一般的な手続きにより退職させ、出向先で新たに雇用契約を締結させる手続きもありますが、どちらの場合も社員の同意が必要になりますので注意が必要です。

前述の在籍出向と比べると、転籍元の会社と社員の間には労働契約関係がまったくなくなりますので主旨は大きく異なります。結果的に、社員は元の会社を退職扱いとなり、転籍先が新たな雇用先になってしまいますので、在籍出向よりも雇用調整目的として実施される割合が高いと言えます。

【図表2】転籍出向における転籍元、転籍先、労働者の関係

労働者派遣とは

労働者派遣とは、派遣元が業として労働者を派遣するものであり、派遣先と派遣元の労働者との間には労働契約は発生しませんので、そもそも前述の在籍出向、転籍出向とは根本的に異なります。しかしながら、派遣成立後の関係性は比較的似たものであり、何かと混同されることも多いため、あわせてご紹介します。

労働者派遣の仕組みは、労働者派遣事業の許可を受けた派遣元と派遣先とが労働者派遣契約を締結することで、社員との労働契約を維持したまま、派遣先で業務を行わせることが可能になるものです。

また、労働者派遣には、原則として最長3年の派遣期間制限があり、3年目以降も継続させるためには、例えば、派遣先会社で派遣元会社の従業員を直接雇用するなど、いくつかの定められた手続きが必要となります。

【図表3】労働者派遣における派遣元、派遣先、労働者の関係

【関連】労働者派遣とは?改正派遣法のポイントや注意点も解説 / BizHint HR

在籍出向のメリット

在籍出向を行う目的は各企業により様々ですが、出向元や出向先、そして、出向社員のそれぞれにはメリットがあります。

出向元のメリット

経験不足な若手社員を出向させれば、経験を積ませることができます。また、社員を子会社や関連会社、取引先会社に送り込むことで、出向先の情報を入手できますし、これらの会社が業関不振なのであれば、優秀な社員を送り込むことで、立て直しを図ることもできます。経費削減の観点で言えば、余剰人員である社員を一定期間ながらも解雇せずに整理できるというメリットもあります。

最近でこそ、大企業を中心に人材育成目的で出向させるような風潮もありますが、やはり人件費削減の方にメリットを感じている会社の方が多いと考えられます。

出向先のメリット

受け入れ社員のスキルが高い場合には、出向先の業務効率も上がり、職場全体の活性化にもつながります。また、出向元がグループ企業の本社で、出向先が子会社であれば、受け入れ社員を通じて本社とのパイプを築くことができますし、これにより、グループ内の最新の情報を入手できたり、グループ内でより円滑に業務を進めていくことが可能となります。

出向社員のメリット

若手社員であれば、純粋に経験を積むことができますし、コミュニケーション能力も高めることができ、新たな人脈をつくることもできます。また、他社で仕事をすることで、自社を客観的に分析でき、出向先会社での業務のやり方などが良くも悪くも自社に戻った時に活かせます。

在籍出向のデメリット

メリットもあれば、その裏返しとして当然にデメリットもあります。どちらかと言えば、出向元以外はこちらの方が多いものと推測されます。

出向元のデメリット

社員を出向させるためには就業規則や労働協定、出向規定などの整備が必要となりますが、それが不十分であれば、法律、判例等に即した整備が必要となります。そして、出向後も出向社員の管理(給与支給や保険料納付など)が必要になることが多く、総務担当的には実質的に自社にいる時と業務量が変わらない場合があります。

また、その出向が雇用調整を目的としていた場合など、出向社員との間で何らかのトラブルが発生する可能性があります。

出向先のデメリット

出向元のメリットと相反しますが、まずは人件費の増大が大きなデメリットです。手続き的なことで言えば、役職から備品に至るまで、出向社員の受け入れ体制を整える必要があり、特にその出向が出向元からの要請である場合には通常業務の妨げともなり大きなストレスになります。

また、受け入れ社員が戦力にならないこともあり、現場の士気低下につながることもあり得ます。

出向社員のデメリット

期待される若手社員の研修出向であったとしても、勤務地が変わることによる通勤経路や居住地の変更は大きなストレスになります。また、新しい職場環境では、業務の進め方も異なることが多く、特に自身が希望していない業務である場合などはモチベーションの低下は否めません。出向期間が長期化した場合には、自社への不信感も強まります。

在籍出向の手続きについて

冒頭でも少し触れましたが、社員に在籍出向を命じるためには、いくつかの手続きがあります。ただし、法令等で明確化されていないため注意が必要です。

出向元と出向先の契約手続き

労働基準法などで特に定めがあるわけではありませんが、後々のトラブルもありますので、一般的には出向元と出向先との間で出向契約を締結します。その内容は、誰をいつからいつまで出向するのか、期間の延長はあるのか、就業規則はどちらのものを適用させるのか、賃金の支払いはどうするのかなどについての確認をするものになります。

出向元と出向社員との手続き

こちらも法の定めはありませんが、出向させるにあたっては、過去の判例により、原則として社員の同意を得る必要があるとされています。手続きとしては、同意書を取ったうえで出向命令通知書を発行するという流れが一般的です。

ただし、就業規則や労働協約などに出向を命じる旨の記載があり、かつ、別に定めた出向規定などで、出向時の具体的労働条件について定められている場合には、包括的同意があったものとして、判例でもあらためて同意を得る必要はないとされています。しかしながら、この場合においても何の説明もなく出向させられては社員も困惑しますので、十分に説明したうえで同意を得ておくべきものと考えられます。

なお、会社として初めて社員を他社に出向させるような場合や、就業規則や労働協約はあっても、その中で出向について触れていないのであれば、必ず社員の同意を得る必要がありますので注意が必要です。

いずれにしても、在籍出向は配置転換のような人事異動のひとつではありつつも、対象となる社員にとっては相当な期間、いままでと違う環境に置かれることになりますので、十分な配慮が必要と言えます。

在籍出向の注意点

社員に在籍出向を命じるまでの手続きは先に述べたとおりですが、その後、社員を管理していくためには出向元、出向先のそれぞれにおいて、さらに整理が必要になります。

就業規則の適用について

冒頭でも少し触れましたが、在籍出向の場合は、出向社員と出向元、出向先のそれぞれに労働契約関係があることになりますので、就業規則の適用については、出向元と出向先との間で交わされる出向契約で細かに取り決めをすることになります。

この場合の整理としては、賃金、解雇、退職、定年といった身分に係わる事項は出向元の就業規則を適用させ、労働時間、休日、休暇、服務規律といった業務遂行に係る事項は出向先の就業規則を適用させることが一般的です。

出向先の就業規則を適用させたばかりに出向元の待遇よりも悪くなることのないよう注意する必要があります。

【関連】就業規則とは?作成~届出までの手順・ポイントをご紹介 / BizHint HR

賃金の支払いについて

出向社員が出向元、出向先の両方で業務を行う場合を除いて、労働の対価という観点で言えば、賃金は出向先で負担することが原則です。ただ、この場合に議論となるのはどちらが窓口になって支払うのかという点になります。それは、出向元と出向先との協議によって決めることになりますが、一般的に多いのは、引き続き出向元が社員に全額を払い、その負担金を出向先から出向元に支払うパターンです。

出向先で全額払う場合もありますし、出向先に行くことによって賃金が下がってしまうのであれば、その差額を出向元から補填したりする場合もありますが、出向先での支払いにすると、この後で説明する各種保険料の手続きが煩雑になりますので、可能であれば出向元での支払いにしておくことが無難です。

労災保険の適用について

労災保険については、労働者が実態的に勤務している事業所で適用になる決まりがありますので、出向社員が出向期間中、出向先だけで業務を行っているのであれば、出向先の整理になります。このため、出向社員が出向先で被った業務災害、通勤災害の各種申請にかかる手続きも出向先が行うことになります。

なお、各種申請の際に必要となる給付基礎日額の計算については、出向元で賃金の全額が支払われている場合にはその額を出向先で支払っているものと見なし、出向元から一部の賃金が支払われている場合には出向先が支払っている賃金と合算して平均賃金を算定するなどの手続きが必要となります。

雇用保険の適用について

雇用保険については、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係において被保険者となるという決まりがあります。簡単に言えば、出向社員により多くの賃金を支払っている会社の被保険者になるということです。つまり、引き続き、出向元ですべての賃金を支払うのであればそのまま出向元の被保険者になりますので、手続き的にはそのままになります。

また、出向先の方ですべての賃金を支払うのであれば、出向先の被保険者になりますので、出向元では資格喪失手続き、出向先では資格取得手続きが必要となり、その後は出向先の方で保険料を納付していくことになります。なお、出向元、出向先のそれぞれで一定割合の賃金を支払うのであれば、その額が多い方の被保険者になりますので注意が必要です。

社会保険の適用について

社会保険料、つまり、健康保険料と厚生年金保険料についてですが、出向元あるいは出向先のどちらかが出向社員のすべての賃金を支払うのであれば、前述の雇用保険と同じ手続きになります。ただし、出向元と出向先のそれぞれで一定割合の賃金を支払う場合には雇用保険とは扱いが異なり、出向元での被保険者資格はそのまま継続し、出向先の方でも資格取得手続きが必要となります。

その後、出向社員がどちらの被保険者になるのかを選択し、選択された出向元あるいは出向先が「二以上事業所勤務届」というものを年金事務所に届け出ることにより、その後は出向元、出向先のそれぞれで按分された保険料を納付していくことになります。

出向期間を延長する場合

予定期間終了前に、出向先の要望などによって期間を延長することもあり得ます。この場合、最初に出向させる時と同様に、延長することについて就業規則や労働協約、出向規定などにおいて取り決めがあり、かつ、その延長理由が合理的(業務上の必要性があるなど)であれば、出向社員の同意を得なくても延長できるという判例があります。

しかしながら、実務においては出向社員に対して延長を行う理由やその後の待遇などについて十分に説明し、同意を得たうえで行うことが一般的です。

出向期間を短縮する場合

延長とは逆に、業務上の理由などによりで予定期間の途中で戻すことも考えられます。この場合も、出向先の同意を得ていれば、特段の事情がある場合(出向時に出向元への復帰はない旨の説明をし、出向社員の同意を得ていたなど)を除いて、出向社員の同意を得る必要はなく、出向社員も命令を拒めないという判例があります。

ただし、延長する場合と同様に、出向社員に対しては短縮を行う理由を十分に説明し、同意を得たうえで行うことが一般的です。

在籍出向が違法になるケース

在籍出向や転籍出向についてはその性質上、会社と出向社員との間でトラブルになることが多く、最近でも数多く裁判になっています。

繰り返しになりますが、そもそも出向については労働基準法に明確な規定はなく、労働法令を見渡しても、労働契約法第14条で「当該出向の命令が、その権利を濫用したものと認められる場合には無効とする。」とされているのみです。このため、何が違法になるかについては、個別具体的に判断されることになり一概に言えるものではありませんが、いままでの判例で違法あるいは違法性が高いとされたものがいくつかあります。

例えば、就業規則や労働協約などにおいて出向に関する規定が何もない、または、規定はあっても「出向を命じることがある。」などのように抽象的な記載だけで労働条件をどうするかについて何も定めていないのであれば、対象社員に同意を得ることもなく出向させることは違法の可能性が高いとされています。

また、出向期間を定めないうえ、合理的な理由もなく期間を長期化し、実質的に転籍出向状態にすることについても違法の可能性が高いとされた判例があります。

また、出向元が出向先から対象社員の賃金相当額以上の出向手数料を受けている場合には、労働者供給事業とみなされ、職業安定法や労働者派遣法において違法の疑いをかけられる例が多いです。(=偽装出向)

まとめ

  • 在籍出向のほか、類似のものとして転籍出向、労働者派遣があるが、それぞれで根本的な違いがあり、企業側としてはその仕組みを十分に理解しておく必要がある。
  • 在籍出向、転籍出向を含めて、配転と同様に人事異動のひとつであるが、実施するにあたっては、使用者側からの一方的な命令であったり、人事部だけの裁量とならないような配慮が必要。
  • 社員に出向を命じるためには様々な手順を踏む必要があるが、労働基準法などに明記されているわけではないため、場合によっては専門家に相談も必要。
  • 出向社員への賃金の支払いについては、出向元、出向先で分けると、保険料の納付が煩雑になるため、可能であればどちらか(できれば出向元)にまとめた方が無難。

<執筆者>
本田 勝志 社会保険労務士

関西大学 経済学部 経済学科 卒業。1996年10月 文部省(現文部科学省)入省。退職後、2010年に社会保険労務士試験に合格。社会保険労務士事務所などでの勤務経験を経て、現在は特定企業における労務管理等を担当。


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