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ディーセント・ワーク

2020年6月11日(木)更新

ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」という意味の言葉で、具体的には「子どもに教育を受けさせ、家族を扶養することができ、30年~35年ぐらい働いたら、老後の生活を営めるだけの年金などがまかなえるような労働」であるとされています。近年では「SDGs」の17の目標にも組み込まれ、世界的に注目を集めています。今回はこのディーセント・ワークについて、推進するメリットや、日本そして海外における取り組み、日本で推進していく上での課題、企業での実現ポイント、まだ企業事例まで幅広くご紹介します。

ディーセント・ワークとは

「ディーセント・ワーク」とは、1999年に国際労働機関(ILO)が「活動の主目標」として掲げた概念で、日本においては「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されています。

具体的には「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」であるとされています。

つまり、「仕事がある」という事を前提として、以下の5つの条件を満たした「人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」が、ディーセント・ワークなのです。

  1. 権利の確保
  2. 社会保障の確保
  3. 社会対話の確保
  4. 自由と平等の保障
  5. 生活の安定

ディーセント・ワークは単に「働きがいのある人間らしい仕事」を指すのではなく、人々がそのような仕事を獲得するための、環境整備、そして広くはグローバル化や貧困削減など、世界的な事象の解決への取り組みも指しています。

【参考】ディーセント・ワーク/ILO駐日事務所

ディーセント・ワークが誕生した背景

ディーセント・ワークが提唱された背景には、グローバル競争の激化などによる労働条件の悪化、所得格差、雇用危機などがあると言われています。

現在でも、上記の労働環境に加え、男女不平等や病気・障害・年齢などによる差別、非生産的な仕事への従事など、様々な労働問題が指摘されています。これらを解決するために提唱され、日本を含めて現在も世界で推進されているのがディーセント・ワークなのです。

ディーセント・ワークの世界的な推進

世界において、ディーセント・ワークはどのように推進されているのでしょうか。

国際労働機関(ILO)の戦略的目標

国際労働機関(ILO)が世界的にディーセント・ワークを推進する上で、掲げている4つの戦略的目標を具体的に見てみましょう。

  1. 雇用の促進
    人々がスキルを身に付けた上で働いて生活できるよう、国や企業が仕事を創出する事をサポートする
  2. 社会的保護の展開
    社会保障を充実させ、安全かつ健康的に働く事ができる職場・そして生産性を向上させる環境の整備を行う
  3. 社会対話の促進
    職場におけるトラブル解決のため、平和的な話し合いを促進する
  4. 労働における権利の保障
    労働者の権利を尊重し、不当な立場で働く人を無くす事を目指す

また、この4つに横断的な課題として「男女平等」および「非差別」も掲げられています。

【参考】ディーセント・ワーク/ILO駐日事務所

SDGsの目標に採択

【出典】持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割/外務省

近年多くの企業が取り組みをはじめている「SDGs」とは、2015年の国連サミットで採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための国際目標です。

この17の目標のうち8番目に「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」が組み込まれています。これにより、2030年までに世界規模で多くの企業がこれらの目標に取り組むことになります。

世界的な推進事例

ディーセント・ワークの社会的な推進を語る上で欠かせないのが「オランダモデル」です。1970年代以降、景気の低迷による失業率の上昇などに瀕していたオランダにおいて、推進された政策です。具体的には、以下のような施策が実行されました。

  • 正規雇用労働者とパート労働者の差を無くす「同一労働同一賃金」の導入
  • 正規雇用労働者とパート労働者の年金・保険を同等に扱う
  • 家事育児をしながら男女共に働きやすい環境を作る

元々オランダは「家庭を大切にする」という気質を持った国であった事もあり、この政策により、失業率の大幅な減少、男性のパート労働者比率の向上(就業率の向上)などの成果が得られました。

【参考】やさしく解説用語集 オランダモデル/電機連合

日本におけるディーセント・ワーク

まず、ディーセント・ワークは日本語で「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されていますが、この具体的な捉え方について、平成24年に厚生労働省が発表した「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」では、以下の4つに整理されています。

(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること
【引用】ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書/厚生労働省

日本における取り組み

1999年にILOにて提唱されたディーセント・ワークは、日本では2007年に官民トップ会議において策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」において、「多様な働き方の模索」の項目に「ディーセント・ワークの推進は、就業を促進し、自立支援につなげるという観点からも必要である」と盛り込まれました。

また、2012年に報告された「労働経済白書」においても、「分厚い中間層の復活に向けては、ディーセント・ワークの実現が不可欠」と報告されています。さらに、同年に閣議決定された「日本再生戦略」でも、ディーセント・ワークの実現について提言されています。

つまり、国としては積極的に推進していきたい取り組みである事が分かります。

【参考】仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章/内閣府
【参考】平成24年版労働経済の分析を公表/厚生労働省
【参考】ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について/厚生労働省

ディーセント・ワークを推進するメリット

ディーセント・ワークを推進する大きなメリットとしては、「従業員エンゲージメントの向上」が挙げられます。

実際に、日本労働組合総連合会の2014年の調査(対象:18〜65歳の男女1,000名)の「ディーセント・ワークの実現によって期待できる事」を見てみましょう。

「職場的変化」の項目では以下のような結果が得られました。

  • 1位…従業員の平均勤続年数が長くなる(42.2%)
  • 2位…どのような雇用形態でも安心して働けるようになる(38.1%)
  • 3位…若年層も安心して働けるようになる(35.6%)

【出典】ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査/日本労働組合総連合会

労働者目線では、ディーセント・ワークの実現によって離職率が下がったり、様々な雇用形態・属性においても働きやすい環境が実現できると考えられている事が分かります。

労働力人口の減少や緩やかな経済成長などにより、人手不足が叫ばれる今、ディーセント・ワークは必要不可欠な施策であると言えます。

日本におけるディーセント・ワークの課題

それでは、日本でディーセント・ワークを推進していく上で、課題となっている点について見ていきましょう。

残業時間の上限が定められていなかった

日本では、近年まで法律上「残業時間の上限」が定められておらず、ワーク・ライフ・バランスの確保とは程遠い生活を強いられる労働者も多く、社会問題となっていました。そのため、ディーセント・ワークの実現に必要な「家庭生活と職業生活の両立」が難しいケースも多く、日本での推進は難航するという声も。

そんな中、2019年4月1日より「働き方改革関連法」が施行され、大企業を対象に「残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間として、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」、さらに「臨時的な特別な事情」があった場合の規定および、懲役もしくは罰金の罰則が設けられました。
※中小企業は2020年の4月からの適応

【出典】時間外労働の上限規制/厚生労働省

今後の各企業の対応に期待が寄せられています。

低い認知度

日本において「ディーセント・ワーク」はどの程度認知されているのでしょうか。日本労働組合総連合会の2014年の調査を見てみましょう。

「ディーセント・ワークという言葉を聞いたことがあるか」という質問に対し「聞いた事があり、内容も知っていた」といいう人は、わずか1.7%、「聞いたことはあるが、内容は知らなかった」と合わせても11.7%と非常に低い結果となりました。

【出典】ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査/日本労働組合総連合会

これだけ認知度が低いという事は、推進している企業も限られていると考えられ、ロールモデルが少ない状態での推進は企業にとって大きな負担になると予想されます。

企業内でのディーセント・ワーク推進のポイント

それでは、企業内でディーセント・ワークを推進する際のポイントについて見てみましょう。

ディーセント・ワーク達成度の判定軸を重視

厚生労働省の2012年の調査「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」では、企業のディーセント・ワークの達成度を評価する項目として以下の7つが挙げられました。

つまり、企業内においてディーセント・ワークを推進するためには、この7つのポイントが必要不可欠であるという事です。

①WLB軸…「ワーク」と「ライフ」をバランスさせながら、いくつになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸
②公正平等軸…性別や雇用形態を問わず、すべての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸
③自己鍛錬軸…能力開発機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸
④収入軸…持続可能な生計に足る収入を得ることができる職場かどうかを示す軸
⑤労働者の権利軸…労働三権などの働く上での権利が確保され、発言が行いやすく、それが認められる職場かどうかを示す軸
⑥安全衛生軸…安全な環境が確保されている職場かどうかを示す軸
⑦セーフティネット軸…最低限(以上)の公的な雇用保険、医療・年金制度などに確実に加入している職場かどうかを示す軸
【引用】ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書/厚生労働省

労働者目線のディーセント・ワークを意識

次に、労働者目線でのディーセント・ワークについて見てみましょう。日本労働組合総連合会のホームページでは、労働者が自らの仕事を「ディーセント・ワーク」かどうか判断する基準として、以下の8つのチェックポイントを公開しています。

・安定して働く機会がある。
・収入は十分(生活し、今後に備えて貯蓄ができる賃金)である。
・仕事とプライベート(家庭生活)のバランスが取れている(長時間労働に苦しんでいない)。
・雇用保険、医療・年金制度に加入している。
・仕事で性別 (女性だから、男性だから)、性的指向・性自認による不当な扱いを感じることはない。
・仕事で身体的、精神的危険を感じることはない。
・働く人の権利が保障されていて(組合に入れる、作れる、会社と交渉できる)、職場での相談先がある。
・自己の成長、働きがいを感じることができる。
【引用】国際活動 ディーセント・ワークの実現/日本労働組合総連合

自社の従業員が、自身の仕事をどのように評価するのか。ヒアリングやアンケートを実施するなどして実態を把握し、現場の声とすり合わせを行うことも重要です。

ディーセント・ワークの企業事例

日本企業においても、上場企業を中心にディーセント・ワークの推進に向けた取り組みが始まっています。

株式会社マンダム

化粧品や医薬部外品の製造販売大手 株式会社マンダムでは、ディーセント・ワークに関する取り組みとして、毎年、正社員を対象に実施する「社員意識調査」、そして全社員を対象とした「ストレスチェック」等を行っています。

この他にも、ワーク・ライフ・バランスの推進や雇用促進など様々な側面からディーセント・ワークの実現を目指した様々な取り組みを実施しています。

【参考】労働慣行:ディーセント・ワークとワーク・ライフ・バランス/株式会社マンダム

オリンパス株式会社

カメラなど精密機器の製造販売大手 オリンパス株式会社でも、労働慣行とディーセント・ワークを「多様性と機会均等」を念頭に推進しています。

基本方針としては、グローバル化する事業を推進するには、働く人の多様性を尊重し活躍の機会の提供が重要であるとして「オリンパスグループ行動規範」において「人材の多様性の尊重」を明記しています。

具体的には、採用や昇進・昇格の際に男女の区別なく積極的に人材を登用しています。実際に、2016年時点で女性管理職は22名、管理職候補は125名と、その比率を年々高めています。

併せて、ワーク・ライフ・バランス推進のため、育児・介護などの事情を持つ社員のキャリア継続のため、仕事と生活の両立のための在宅勤務制度などの様々な制度を打ち出しています。

【参考】労働慣行とディーセントワーク│多様性と機会均等/オリンパス株式会社

ディーセント・ワーク取組事例集

この他にも、近年様々な企業が「ディーセント・ワーク」推進に取り組んでいます。

具体的な取り組みについて、国際労働機関(ILO)と公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が2020年1月に制作した、東京2020大会パートナー企業のディーセント・ワーク取組事例集「FAIR PLAY」でも数多く紹介されています。

【参考】東京2020大会パートナー企業のディーセント・ワーク取組事例集「FAIR PLAY」/国際労働機関(ILO)・公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

まとめ

  • ディーセント・ワークはILOが提唱した概念で、「働きがいのある人間らしい仕事」と定義されているが、その意味は幅広く、世界規模で推進されている
  • 日本においても厚生労働省を中心に推進されており「日本再生戦略」などにも盛り込まれているが、知名度は低く、企業の取組の推進が求められている
  • 企業内でディーセント・ワークを推進するには、ワーク・ライフ・バランスや、平等性、労働条件や権利など、様々な軸から検討する必要がある

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