連載:第36回 医療・医薬・健康
診療範囲とバックオフィスでIT意識に格差 電子カルテの導入からITシステムを活用した働き方改革へ
2021年のクリニックの廃業・倒産数は過去最多ペースとなりました(※1)。そのような中で、2022年度の診療報酬改定により初診料の評価が新設されたオンライン診療や、患者の利便性を高めるWEB予約・問診、キャッシュレス決済などのITツールの活用を促進する動きが高まっています。しかし、厚生労働省が発表した2020年の医療施設動態調査(※2)では、全国の一般診療所(歯科を除く)における電子カルテの導入率は49.9%と、2017年の前回調査から8%程度の増加にとどまっていることが明らかになっており、クリニックのIT化は喫緊の課題となっています。株式会社DONUTSは、全国の医師(勤務医・開業医/医科のみ)を対象にクリニックのITシステムに関連する運営状況を調査しました。
※1 参考:TDB「クリニックの廃業や倒産、6月までに累計267件発生 過去最多ペース」
※2 参考:厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」
電子カルテ導入がクリニック全体のIT化に貢献。電子カルテを導入した医師の71%が「業務効率化につながった」
今回のアンケート回答者のうち、電子カルテを利用しているのは全体の89.9%にのぼり、診療範囲でにおけるIT化意識の高まりを示す結果となりました。
電子カルテを使用している医師のうち、電子カルテを導入して得たメリットとして、「クリニック全体のIT化につながった」と答えた人が51.4%、「業務効率化につながった」と回答した割合は71.4%にまでのぼりました。
また、「紙カルテのように、運用の場所をとらないこと」「文字が読みやすく、患者情報が把握しやすい」との回答はそれぞれ50%を超えており、電子カルテならではの「情報へのアクセスの良さ」に価値を感じている人が多いことが分かりました。
さらに、複数の医師が個別コメントにてデータ分析、統計分析に関するメリットを挙げていることからも、電子カルテ導入が、診療部分を超えクリニック全体のIT化に寄与したことが分かります。
医師の50%以上が期待する電子カルテに搭載される機能は「レセコン内包」「WEB予約」「WEB問診」「オンライン診療」「経営・患者情報の分析」
今後の電子カルテに期待する機能・搭載されていると便利だと思う機能については、「レセコン内包(カルテからも会計処理ができる)」「WEB予約」「WEB問診」「オンライン診療」「経営・患者情報の分析」の5つを選択した割合がすべて回答者の55%を超えました。
回答した医師の半数以上が、診療情報を保存・閲覧・検索する電子カルテとしての役割以上の豊富な機能を求めており、診療範囲のIT化に積極的な姿勢が浸透しはじめていることが読み取れます。
先の質問にある追加機能がカルテに搭載されることのメリットについては、「医師の業務効率化につながる」「受付スタッフの業務が軽減される」との回答が多いのはもちろん、「患者さんの待ち時間が軽減される」は57.2%、マーケティングや患者満足度への寄与を期待する回答も40%前後ありました。
単なる利便性や効率化のためだけではなく、電子カルテを軸とした診療範囲のIT化によってクリニック経営全体が改善されることへの期待や要望が読み取れる結果となりました。
診療範囲に比べてIT化が遅れているクリニックのバックオフィスの実態が明らかに。勤怠管理の主流は未だタイムカード
診療範囲でのIT化が浸透する一方で、勤務時間を記録する打刻方法については、36.7%が未だ紙で実施していることが分かりました。「経営者のため打刻が不要」という開業医の回答を除くと大多数がタイムカードで打刻を行っていることになります。
クリニックにおける診療範囲とバックオフィスとのIT化意識に大きな乖離がみられる結果となりました。
総評
「電子カルテ」の導入がクリニック全体のIT化、業務効率化に繋がることが認められつつあり、診療周辺システムをつなぐ“診療のハブ”としても期待されていることがわかる結果となりました。さらに近年は、電子カルテ単体としての機能ではなく、それ以上の豊富な機能の搭載が求められる時流になっています。
これらの要因として、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、クリニックの待合室の混雑緩和が求められるようになったこと、スタッフの働き方に「在宅勤務」も視野に入りスピーディーな情報共有が求められるようになったこと、さらに在宅医療の需要も高まったことが考えられます。また、2022年度の診療報酬改定により、オンライン診療の注目度がこれまで以上に高まったことも一因として考えられます。
時代の流れに合わせ、診療に関わる部分がIT化される動きはあるものの、診療のハブである電子カルテに紐づきにくい勤怠管理については、IT化がまだまだ進んでいません。人件費を削減し、スタッフや院長自身が本来の業務に集中するために、そしてスタッフの多様な働き方に対応するためにも、電子カルテを軸とした診療部分に加え、今後はクリニック経営全体としてのIT化が今後ますます求められると考えられます。
調査概要
調査方法:インターネット上でのアンケート調査
調査対象:全国の医師(勤務医・開業医/医科のみ)79名
調査名称:「クリニックのIT化に関する調査」
調査集計期間:2022年2月3日~3月4日
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}
バックナンバー (39)
医療・医薬・健康
- 第39回 医師の働き方改革、「労働時間短縮を実感できていない」がほぼ7割 DXや生成AIが改善のカギ?
- 第38回 介護・医療機関のインボイスへの登録状況、「登録する予定はない」が2割近く
- 第37回 オンライン診療「使ってみたい」は3割超だが、実際に利用したことがある人はわずか約2%
- 第36回 診療範囲とバックオフィスでIT意識に格差 電子カルテの導入からITシステムを活用した働き方改革へ
- 第35回 今後の医療経営が厳しくなると感じている医師は85% 新規開業よりM&Aが主流に?