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連載:第2回 ヒット商品を生む組織

なぜ社長は、社員に「腹いっぱい」食べさせるのか? 数ヵ月待ちの高級爪切りは不良の巣窟から生まれた。

BizHint 編集部 2022年3月7日(月)掲載
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職人はやる気がなく、仕事をさぼる、出社してこない……。新潟県三条市で高級つめ切り製造を手がける株式会社諏訪田製作所の現社長・小林知行さんは、父から事業承継をした際の惨状に頭を抱えていました。そしてより良い会社にするための試行錯誤を20年以上重ねた今、「職人はかっこいい!」と憧れて入社する若手が集まり、社員の自主性も芽生えるように。その過程での悩みや、その中で思い至った「人は変わらない」という信念などについて話を聞きました。

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株式会社諏訪田製作所
代表取締役社長 小林 知行さん

1963年新潟県三条市生まれ。明治大学卒業後、地元商社に勤務し1992年に家業の株式会社諏訪田製作所に入社。1997年に三代目として代表取締役社長に就任。職人技術を結集させたニッパー型つめ切りがグッドデザイン賞を受賞し、「SUWADAブランド」として高級ブランド市場の先駆者となる。2007年、経済産業省「元気なモノ作り中小企業300社」にも選定され、地域経済を支えながら新規分野を開拓する企業として注目を集めている。


「まるで不良の巣窟だった」 怠惰すぎる職人たち

――貴社は高度な職人技術を活かした高級爪切りで国内外から支持を集めています。若手からシニアまで、いきいきと働いているのが印象的です。以前から、このような状況だったのでしょうか?

小林 知行さん(以下:小林): いえいえ、とんでもない(笑)。私が入社した1992年、会社はまるで「不良の巣窟」でした。不良ならまだいい…と言いますか、人間としての常識を疑うレベルの荒れようでしたね…。

20年以上掃除されていない社内は、ススや埃まみれで汚く、従業員にはまったくやる気が見えない。8時始業のベルが鳴っても、NHKの朝ドラをみんなで見て…その後に仕事を始めるでもなく、新聞を持ち込んでトイレにこもったり、自宅に帰る人までいる始末。…落胆しかない毎日でした。

彼らは「仕事はしたくない。でも給料は欲しい」という、絶望的なモチベーションでした。与えられた仕事をこなすだけ…いや、こなしてくれないことも日常茶飯事。そして驚くことに、父はほとんど出社しない社員にも毎月給料を払っている状態だったんです。

――そのような状況、入社前には知らなかったのですか?

小林: はい。入社して初めて知ったので本当に驚きました。私は小学生の頃から、父の手伝いとして会社を覗くことはありましたが、当時は家族で行う家内制手工業でしたし、職人たちの勤務状況についてはまったくの無知でした。まさかここまで仕事をしないなんて思いもしなかったですね。

――お父様はその状況をどう捉えられていたのでしょうか。

小林:父から出た言葉は「ほっとけ」の一言 でした。

とはいえ、私はこの状況を何とかしなければと、改善するアイデアを父に提案し続けました。しかし提案はすべて却下……。提案書は目も通してもらえず、ゴミ箱に捨てられていました。

ちなみに、父とは別段仲が悪かったわけではありません。ただ、最後まで私の提案は受け入れられませんでしたね。 知識も経験も圧倒的に豊富な父にとって、経験が浅い私の意見など取るに足らないものだったのでしょう。

そして私が34歳の時、父から「会社を任せる」とだけ告げられて、代表取締役社長に就任することに。それまでは全てが父のトップダウンでしたので、職人たちの惨状にも目をつぶってきましたが、今度は自分が全責任をもって舵取りする立場です。 「なんとかして変えよう!」と決意を新たにしました。

切った爪の断面が滑らかに整うSUWADAつめ切り。一般的な爪切りに比べ高額ながらも人気を博している。

「会社を変えたい」と思う自分を応援してくれる人は誰もいなかった。

――何から始められたのでしょうか?

小林: まず社員にお願いしたのは、「そうじ」です。実は、入社して以来ずっと、そうじは私の担当でした。社員は誰もそうじをしませんでしたし、手伝おうとする素振りもありませんでした。 社員にそうじをしてもらうことで、何かが変わるのではないか?と期待したのです。

ところが、それは大きく裏切られました。今でも鮮明に思い出す事件です。とある社員にトイレそうじをお願いしたところ、彼は壁に向けてホースで水をバーッとかけて「そうじが終わった」と言っていました。聞けば、それまでそうじをした経験がなく、トイレそうじのやり方がわからなかったと…。そして数日後、トイレの壁と天井が崩落しました。壁は石膏ボード製だったのです。

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