連載:第27回 悩める管理職の方へ「マネジメントのススメ」
“上司の思い込み”が若手を辞めさせる?『人が辞めない組織』をつくるマネジメント、はじめの一歩


「最近の若手はすぐに辞めてしまう」「何を考えているのかわからない」——そんな声が多くの職場で聞かれます。採用や育成にかかるコストを考えると、若手1人の離職が企業にもたらす損失は決して小さくありません。生産性の低下やチームワークの乱れ、企業イメージの悪化など、影響は広範囲に及びます。その一因となっているのが、上司の“思い込み”による一律のマネジメントです。若手といっても仕事に対する価値観や動機はさまざま。だからこそ、タイプごとの特性を理解し、それぞれに合わせたマネジメントを行うことが、離職を防ぐ第一歩です。本記事では、明日から実践できる、離職防止につながるマネジメントについて解説します。

同じ職場にいても、メンバーの価値観によって離職リスクが異なる
当社が2023年に実施した大規模調査(59社、N=20,019名)では、若手の離職意思に影響する要因について明らかになりました。同時に、メンバーがどのような価値観を持っているかによって、離職リスクの高さやマネジメント効果に違いがあることも見えてきたのです。
まず、若手の離職意思には 「上司のマネジメント」 と 「組織レベルでの取り組み」 の両方影響していることが判明しました。
さらに、「働く目的」という観点から若手社員の価値観を2つのタイプに分類して分析を行ったところ、上司によるマネジメントの効果は、メンバーの価値観によっても変化することがわかりました。
分類した1つは、仕事を通じて自分の力を高めることを重視する 「A.自己成長」 重視タイプ。市場価値の向上やスキルアップに関心が高く、現在の組織と他の組織を常に比較する傾向があります。
もう1つは、仕事を通じて組織や周囲の期待に応えることを重視する 「B.組織貢献」 重視タイプ。所属組織への愛着が強く、チームや会社への貢献を重要視します。
興味深いことに、「A.自己成長」を重視する社員ほど離職意思が高く、「B.組織貢献」を重視する社員ほど離職意思が低いという結果が出たのです。つまり、同じ職場にいても、価値観によって離職リスクが異なるということです。
「新人にはまずこのような経験を積ませるべきだ」「若手社員の頃はこんな仕事が原動力になる」――そんな思い込みのもと、若手に対して一律のマネジメントを行ってしまっていませんか?そんな「上司の思い込み」こそが、実は若手の離職を加速させている可能性があります。
若手といっても、仕事に対する価値観や動機は一様ではありません。だからこそ、 「どんなタイプの価値観を持っているか」を理解したうえで、それぞれに合わせたマネジメントを行うことが重要です。
では実際に、どのようなマネジメントを行えば離職を防げるのでしょうか。ここから解説していきます。
若手の離職リスクを見極め、適切にマネジメントする方法
まず、メンバーの価値観にかかわらず、離職防止につながる上司のマネジメントの基本を3つご紹介します。
- 成長につながる業務アサイン: メンバーの特徴や仕事内容を理解し成長につながるような業務を割り当てること
- 成長につながるフィードバック: 振り返りや学びにつながるよう建設的なフィードバックを提供すること
- キャリア支援: メンバーが仕事を通じて実現したいことや目指したい姿を一緒に考えること
これらはすべて「サーバント・リーダーシップ(支援型のリーダーシップ)」と呼ばれるマネジメントスタイルにも関連するものです。つまり、「メンバーの成長を支える姿勢」が離職防止につながると言えるでしょう。
この前提を理解いただいたうえで、価値観別のマネジメントを実施していきます。
まずはメンバーの価値観を見極める
リスクを早期に察知するためにも、まずはメンバーの価値観を理解することが重要です。 1on1や面談の場で、「仕事を通じて何を実現したいですか?」「3年後、どんな自分になっていたいですか?」「今の仕事で最もやりがいを感じるのはどんな時ですか?」「会社やチームに対してどんな貢献をしたいですか?」といった、仕事に対する価値観が見えてくる質問を投げかけてみましょう。
「A.自己成長」重視タイプからは、「新しいスキルを身につけて市場価値を高めたい」「将来的には○○の専門家として認められたい」「難しい案件にチャレンジして成長を実感したい」といった、自分自身の成長に関わる回答が返ってくることが多いでしょう。
一方、「B.組織貢献」重視タイプからは、「チームの目標達成に貢献したい」「会社の理念に共感して、その実現に携わりたい」「先輩や同僚から頼られる存在になりたい」といった、組織やチームに対する貢献意欲を読み取れる答えが聞かれると思います。
上記のようなコミュニケーションを通じて、メンバーが「A.自己成長」重視タイプか「B.組織貢献」重視タイプのどちらにより重きを置いているかを推察してみてください。
※より精度高く価値観を測定したい場合は「SPI3 for Employees」が有効です。
「A.自己成長」重視タイプには仕事の意味付けをセットにした成長支援を
このタイプは毎日の細かい進捗確認よりも、成長の道筋を示し、本人の判断に委ねる姿勢が重要になります。
たとえば、プロジェクト開始時には「この案件を通じて、あなたが身につけたいスキルは何ですか?どんな成長を期待していますか?」と問いかけ、「今回の案件は、あなたが身につけたい〇〇の習得につながります」と仕事を意味づける。中間フィードバック時には「前回話した○○のスキル、今回の取り組みでどの程度向上を感じていますか?」と成長の実感を確認する。そして完了時には「この案件で一番成長を実感できたのはどの部分でしたか?次はどんなチャレンジをしたいですか?」と次のステップを一緒に考えることが効果的でしょう。
「B.組織貢献」重視タイプには組織に対する貢献度を伝えていく
一方、このタイプには、日々の業務がチームや組織の成果にどのように結びついているかをフィードバックしていくことが重要です。
たとえば、プロジェクト開始時には「会社や上司は、あなたに今回こんな役割を担い、このような働きを期待しています」と明確に期待を伝える。また適宜、「あなたが作成した資料のおかげで、クライアントから高い評価をいただきました」「今週のあなたの取り組みで、チーム全体の効率が上がったと、他のメンバーから聞きました」などと貢献を明らかにする。そして完了時には、「あなたの丁寧な顧客対応が、今四半期の顧客満足度向上に大きく貢献しています」といったように、自分の仕事がどのように組織の成果につながっているかフィードバックすることが効果的です。
組織レベルでの環境整備も忘れずに
個別のマネジメントと並行して、組織レベルでの取り組みも欠かせません。
組織レベルでの取り組みにおけるポイントは2つあります。
- 明確なビジョンの発信 :会社の魅力的な理念やビジョンが明確に打ち出されていること
- 成長機会の担保 :能力やスキルを身につける仕組みや機会が整備されていること
明確なビジョンの発信については、四半期や半期ごとの全社会議で、経営陣が具体的な成功事例を交えてビジョンを語り、それを部門別展開会議で各部門の具体的な取り組みに落とし込む。また社内報での定期発信も効果的です。
成長機会の担保については、たとえば外部研修参加支援制度、社内公募制度、メンター制度、社内勉強会の開催などが効果的でしょう。
「思い込み」を捨てて個別最適なマネジメントを
今回の調査結果から明らかになったのは、若手社員の離職防止には「1人ひとりの価値観に応じた個別最適なマネジメント」が不可欠だということです。
「最近の若手は……」という一括りの思い込みを捨て、タイプの傾向をヒントにしながら、個々のメンバーに寄り添うマネジメントを実践していきましょう。価値観を理解し、それに応じたマネジメントを実践することで、離職リスクを大幅に軽減できるはず。若手の離職リスクを“察知できる上司”こそが、組織を強くするのです。
手間はかかるかもしれません。しかし、その手間を惜しんで優秀な人材を失うコストを考えれば、投資効果は十分にあると考えます。上司による個別支援と組織による環境整備の両輪で、持続可能な組織づくりを目指していきましょう。
【執筆】
坂本 佑太朗 (さかもと ゆうたろう)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員
2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。
人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。
(編集:櫛田 優子)
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