ブラックな業界で「人が辞めない会社」。森ビルの信頼を勝ち得た「提案力」

BizHint 編集部 2023年11月29日(水)掲載

平均離職率が35％台といわれるイベント業界において、離職率11％台※をキープしている会社があります。それだけでなく残業時間が月平均10時間、年間休日130日以上を実現しているという業界でも異例の存在です。売り上げも好調に推移し、2019年のコロナ禍でも減収することなく、2023年度は過去最高年商に達する見込みです。「ブラック」と呼ばれるイベント業界でどのように人が辞めない会社を作り上げたのか、創業者の前野さんにお話を伺いました。（※2022年9月～23年8月時点）

株式会社ホットスケープ
代表取締役前野伸幸さん

1991年に株式会社ホットスケープを創業。これまで2500本以上のイベント・セミナーの企画・運営・進行に携わる。2017年MICEの国際的団体である「MPI Japan Chapter」5代目会長に就任。2023年2月より一般社団法人日本コンベンション協会（JCMA）に加盟、2023年6月同協会理事に就任。

なにもかも「異例」な組織。業界の悪習をどのように変えたのか

――ホットスケープは業界でも非常に離職率の低い会社だそうですね。

前野伸幸さん（以下、前野）： イベント業界でもありえないとよく言われます。土日の出勤がほとんどなく、有給の取得率が高い。そして離職率が11％とイベント業界でもトップクラスに低い。これらの事実が異例という評価につながっているのだと思います。

イベント業界の離職率が高い理由として、残業時間が多いこと、土曜、日曜日はもちろん休日出勤も珍しくないこと。などの労働面が大きいと思っています。イベント業界は魅力的な業界ですが、そういう働き方を続けられる人は多くはありません。仕事が面白くなってきたところで体力気力がついていけなくなったり、家族のためにキャリアをあきらめなくてはならなかったりする方が離れてしまうのです。

また、人手不足も労働時間の長さに拍車をかけています。イベントというものは3か月～1年前くらいに開催が決定します。そのため運営を委託される関連会社は長期的な成長戦略を描くことができず、人材採用や投資を行うことが難しいのが現状です。

人を増やすことができないから、ぎりぎりの人数でイベントを回すしかなく、結果として社員にしわ寄せが行っている。それがイベント業界が「ブラック」な理由の1つだと思います。

実際我々も4人で経営していた頃、創業メンバーの一人が結婚を機に退職を口にしたことで、労働環境の改善は他人事ではなくなりました。

――どのように働き方の改善を可能にしたのでしょうか？

前野： 大きく2つあります。

・広告代理店を介さず、企業との直接取引を事業の主軸にしたこと
・イベントのマネジメント、コンサルティング事業を手掛けたこと

それによって、労働環境に関するあらゆる問題が解決できただけでなく、安定した経営が可能になりました。

――最初の「企業との直接取引を主軸にした」というのはどのような意味でしょうか？

前野： 広告代理店を介さずに仕事をしようというのは起業前から考えていたことでした。主催者と現場との間に広告代理店が入ることで情報がちゃんと伝わってこない。それから、やりたいと思ったことの実現性が少しずつ遠くなったり、手間がやたら増えていたのを見てきたからです。

たとえば、主催者が「喉が渇いたので水をください」という要望を出しますよね。そうすると、広告代理店は運営会社に「水をください」とだけ伝える。運営会社からすると花瓶の水なのか、飲むための水なのか、掃除につかうのかわからない。喉が渇いているのであれば、水だけではなく、お茶やジュースなどを用意できますし、薬を飲むための水であれば白湯を用意できる。コミュニケーションに無駄が多いし、運営会社としてもホスピタリティを発揮しにくい。

私がイベントホールで働いていた時は本当にひどかったと思います。金曜の夕方になって「月曜日までに企画書を上げろ」とか、徹夜で作り直しが発生したりとか、そういう場面を見てきました。

それで、「これは正しい働き方じゃないよな」っていうのは当時から考えていたことでした。

――とはいえ、広告代理店なしで仕事を受託するのは大変ではありませんか？