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連載:第50回 組織作り その要諦

「自分は誰一人幸せにできていない」と気付いた社長。女性アルバイトを頼り、ブラック企業はV字成長を遂げた。

BizHint 編集部 2023年2月1日(水)掲載
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「自分は誰一人幸せにできていないということに気がついて、ずっとつらかったんです」そう語るのは、岐阜県岐阜市で総合建設業を展開する三承工業 代表取締役の西岡徹人さん。はじめて実施した無記名での社員アンケートで、自身に対する評価は最低。社員は西岡さんに不満しかありませんでした。そのような現実を目の当たりにして、いかにして社内改革を進めていったのか?そのヒントは「北風と太陽」の寓話と、ある女性アルバイトでした。

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三承工業株式会社
代表取締役 西岡 徹人さん

1979年、岐阜県不破郡関ケ原町生まれ。岐阜市内の高校を卒業後、建設会社への就職を経て1999年に起業。2006年に法人化したのちは、SDGsを経営の中核に置いた取り組みを進める。2018年には建設業として初の外務省「ジャパンSDGs アワード特別賞」を受賞。2021年には内閣官房国土強靭化推進室「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」準グランプリと最優秀賞をW受賞。2022年には日本政府「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部運営支援業務」受託。子連れで勤務可能なカンガルー出勤、キッズスペース設置など、女性のライフキャリアステージにあった環境作りと“社会の課題をビジネスで解決する”ビジネスモデルが評価され、国連の認定企業となる。外務省をはじめとした行政機関や民間団体と連携し、社会課題に取り組む多くのプロジェクトに参画している。


最低の評価だった無記名の社員アンケート

――創業当初は典型的なブラック企業だったそうですね。

西岡徹人さん(以下、西岡): 最初は草刈り工事の仕事から始めたのですが、創業当時は「どうしたらお金を稼げるか」しか考えていませんでした。

売上を上げるために、元請けの言うことは何でも聞きました。そのため社員には「絶対服従」を押しつけていました。自分が指示しないと会社が回らないと考え、今思えば、社員を単なるコマとしか見ていませんでした。

社員同士の言い争いや喧嘩は日常茶飯事で、会社の雰囲気はまさに殺伐。私自身、頭にきて壁を蹴って穴を開けてしまったこともありました。そんな状況が12年も続きました。

――そのようなブラックな会社が、なぜ変化することになったのでしょうか?

西岡: ある時期から私自身、会社の現状に疑問を持つようになったのです。売上は確保できているものの、利益がなかなか上がらない。社員は楽しくなさそうだし、やりがいなどとは無縁。

自分自身も苦しくなってきて、知り合いの経営者に相談しました。すると「社風考察セミナー」を勧められたのです。そこに参加したところ、まさに自分と会社が変わるきっかけとなる、衝撃的な事実を突きつけられました。

――どのようなセミナーだったのでしょうか?

西岡: そのセミナーの中で「社長が目指す姿と社員が考えていることのギャップを測るアンケート」があったので、早速これを実施してみました。無記名で社内アンケートを取ったのですが、結果は惨憺たるものでした。

自分の中では、5段階評価で3~5くらい、つまり普通~非常に良いくらいかな?と思っていたら、すべての項目で1か2。「非常に悪い」と「悪い」しかありませんでした。さらに自由コメント欄には「社長の関西弁に腹が立つ」「社長の香水が臭い」など、仕事とは関係ないことまでボロクソに書かれていました。正直、(シバいてやろうか)と思ったくらいです。本当に衝撃でした。

そしてセミナーの主催者から「現実はこうなのですよ」と突きつけられて、さらに落ち込みました。当時、もっともらしい経営理念は作っていたのですが、「社員を幸せにできていないのに、どうしてお客さんを幸せにできるんですか?」と言われ、何も言い返せませんでした。

そのとき 初めて「自分は誰一人幸せにできていない」ということに気がつきました。 帰宅して家族にこのことを話したら「私もそう思っていた」と言われてさらに愕然としました。 家族さえも幸せにできていなかったのです。

「そこまで言われたら、自分や会社が変わるしかない」。そこから会社を変える取り組みを始めました。

――どう変えていったのでしょうか?

西岡: イソップ物語に「北風と太陽」という話がありますよね。セミナーの中でこれを題材に「あなたは、北風と太陽で言えばどちらのタイプですか?」と聞かれたのです。「もちろん太陽です!」と答えたのですが、「いや西岡さん、あなたは完全に北風ですよ」と言われてしまいました。

そして「あなたはいつも、売上を上げろ、利益を上げろと、社員に対して指示ばかりしている。そんな会社には北風が吹いています。だから社員は、旅人がマントで体を覆うように縮こまってしまう。結果、当事者意識のない組織ができあがる。そんな場所では何も生まれませんし育ちません。言わば、カチカチのコンクリートのような社内風土をあなた自身が作っているのです」と言われました。

西岡:社長が太陽のようにならないと社風も良くならないし、社員の当事者意識も芽生えない。コンクリートの土壌にどれだけ元気な種や苗を植えたとしても根はつかない。逆に、土壌が豊かであれば、多少弱い種や苗を植えたとしても、しっかりと根付き、育っていく。

このやり取りで、初めて自分が北風になっていることに気がつきました。まず「自分が太陽になるしかない」と誓いました。

北風から太陽には変われなかった。

――北風から太陽になるために、何をされたのでしょう?

西岡: まず、自分が率先垂範して行動しなければならないと考えました。そのセミナーで「トイレ掃除をしたら会社がすごく良くなった」という話を聞いたので、早速トイレ掃除を始めました。半信半疑でしたが、騙されたと思ってやりました。

そして朝礼も始めました。「ありがとうの朝礼」といって、例えば「昨日のあなたの議事録はわかりやすかったですね。ありがとう」というような感じで必ずほめるのです。とにかく会社を変えたかったから、やれることは何でもやろうと思って取り組みました。

――社員の反応はいかがでしたか?

西岡: こうした取り組みをしばらく続けていたところ、社員からは「社長はおかしくなってしまったのではないか?」といった噂が立ち、「会社が倒産してしまうのでは?」と、本気で心配する声も出てきました。それでも「ここで止めたら自分も会社も変われない」と思って続けていました。

しかし、それでも社内の雰囲気はまったく変わりませんでした。むしろ、社員の不満は溜まる一方でした。

「改革なんてやめてほしい。今までどおり、何も変えなくていい」 「朝礼をしても意味がない」

など、すべてが逆効果でした。

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