現場1人当たり月20時間の作業時間削減。建設テックの先駆者が挑む働き方改革

株式会社フォトラクション
代表取締役 CEO　中島 貴春さん

1988年生まれ。2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、株式会社竹中工務店に入社。大規模建築の現場監督に従事した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。2016年3月にCONCORE’S株式会社（現・株式会社フォトラクション）を設立。さらに2022年4月には、建設テックのさらなる発展を目指して、一般社団法人建設テック協会を立ち上げ、代表理事に就任。近著に『Digital General Construction 建設業の“望ましい”未来』（日経BP）がある。

建設現場の不便を自作アプリで解決

──創業は2016年。それまでは竹中工務店に勤務していたそうですが、起業のきっかけは？

中島貴春さん（以下、中島）： 建設業界といえば、施工管理や設計の職種がすぐに思い浮かぶと思いますが、私の場合はITソリューションの活用を推進する、少し変わった部門に在籍していました。最新技術によっていかに現場の効率を上げていくかを検討し、ツールやサービスを実装するのが主な役割です。

私は大学時代からITまわりを学んでいたので、いざ建設業界に足を踏み入れてみたら、現場はデジタル化云々のもっと手前で悩んでいることがわかりました。もともと小学生の頃からプログラミングは好きでしたから、自分が作るサービスやツールでこうした現場の問題を解決できないかと漠然と考え始めたことが、起業のきっかけと言えばきっかけですね。

──前職時代、実際にご自身でアプリを開発して、現場に取り入れたという逸話も耳にします。

中島： そうですね。正式な配属はIT部門でも、最初の数カ月は研修で工事現場に派遣されますから、そこでデータ管理や書類管理など、建設の本質とはかけ離れた部分にこそ様々な不便や不効率があることを痛感しました。

ちょうどその頃、もう少しプログラミングを体系的に学ぼうと週末だけスクールに通っていたのもあり、そうした業務を効率化させたくて、まさに「Photoruction」という名の、今の原型のようなアプリを開発したんです。そのアプリをスクール内のコンテストに出してみたら、審査員の方々から、「面白いから自分で会社を起こして事業化してみてはどうか」とアドバイスをいただき、起業を意識するようになりました。

──当時の「Photoruction」は、どのような機能を備えていたのでしょうか。

中島： 工事現場というのは実は、膨大な数の写真を活用する世界です。建設過程を記録したり、設計通りに造られているかを証明するために画像で残しておいたり。また、報告書に載せる写真も必要ですし、完成後の広報用に写真を撮ることもあり、ひとつのプロジェクトで数百万枚もの写真が飛び交うことだって珍しくありません。

それらを1枚ずつ整理していると、それだけで残業時間がどんどん増えてしまいますから、初代の「Photoruction」では写真データを自動でクラウドに上げて整理できるようにしたり、現場で使われていた黒板を電子化して共有できるようにしたり、日常の細かな作業の手間を軽減する機能をいくつか備えていました。

──それがそのまま現在の事業になっている、と。

中島： 機能や仕様を見ればそうとも言えますが、所詮は個人で作ったもので、どうしてもスケーラビリティに乏しく、とてもそのまま使い続けられるものではありませんでした。結局、会社を設立したあとに、すべて1から作り直しています。

竹中工務店に勤務した3年間の経験により、「建設業界を俯瞰して見たことから、改善すべき課題が明確になった」と振り返る中島さん。ITの技術により、業界の業務改善にチャレンジする

ITの技術を活用して建設業界の働き方改革に貢献

──中島さんは日頃から建設テックの啓発に積極的ですが、建設業界はもともとデジタル対応が遅れているイメージがあります。起業にあたり、それが逆風になるとは考えませんでしたか。