事業承継を一度断り、断られた双方の言い分。大切なものを託すために、社長が求めたもの

株式会社インターナショナルシューズ

写真右） 代表取締役社長　上田 陽一さん
写真左） 専務取締役　上田 誠一郎さん

6年前に連鎖倒産の危機。大阪で一社だけ、取引先として残れた

――貴社の経営を振り返って、ピンチだった出来事は何でしょうか？

上田 陽一さん（以下、社長）： 正直、この業界は毎年のように危機の連続です。まず思い出すのは6年前（2016年）。最大のお取引先であった、業界最大手の百貨店問屋さんが倒産してしまったことです。

その百貨店問屋さんへの卸は、当社の売上の7割を占めていました。通常で言えば、即アウト。ただ、幸いなことにその会社の引き取り手が現れて、新体制で再出発することになりました。結果、当社との取引が0になることはなかったのですが、半分から1/3ぐらいにはなりました。

――最悪の結果は回避できたわけですね。

社長： とはいえ、その後もなかなかうまくいかなかったようで、結局そのデパート問屋さんを引き取った会社も面倒が見れなくなり、ファンドに売ってしまいました。

その際、多くのメーカーとの取引をドーンと切ったのですが、残ったのは東京で2社、神戸で2社…。 そして大阪では唯一、当社だけが切られませんでした。ここで切られていれば、やはりアウトでした。

――なぜ、貴社は残れたのでしょう？

社長： 心当たりがあるとすれば、後に交流会で言われた一言でしょうか。「いつも早く回してくれてありがとう」。 納期をしっかり守り、様々な要望・お問い合わせにクイックレスポンスで対応していたことが評価されていたのかもしれません。

当社は、製品にはもちろん自信を持っています。娘を育てるように靴づくりに向き合い、嫁がせる気持ちで出荷しています。これは従業員にも朝礼などを通じて何度も話してきました。おかげさまで、お客様からの返品率は低いですし、トラブルもあまりありません。これは、私の二人の娘が嫁いでいったことで決意を新たにした思いでもあります。

そしてもう一つ、当社がこだわっているのが 「時間・約束を守る」 ということ。これを長年貫いてきたことが、デパート問屋さんとの取引を続けられた理由だったのだと思います。

――「時間・約束を守る」へのこだわりは、何かきっかけがあるのでしょうか？

社長： 初代である父がいつも言っていたのが、

1. 型紙だけはきっちりせえ
2. 約束だけは絶対守れ
3. 時間を守れ
4. 儲けより、品質のいい靴を作ろう

でした。つまり、 時間と約束を守っていい靴を作れば、お客さんは自然とついてくる 、ということ。読み書きそろばんは苦手でしたが、靴づくりに関しては、私の一番の師匠でした。

父は貧しい家庭で育ち、尋常小学校の給食代も払えなかったそうです。ですので、小学校から縫製の仕事で稼ぎ、そのまま靴づくりの道に進んでいきました。靴づくりしかなかったんですね。

そんな父と接していたので、私にとって納期や約束を守るのは至極当然のことでしたが、実は他社ではそうでもない…と感じたのは、私が入社前に紆余曲折あって東京に修行に行き、大阪に戻って来た時でしたね。

高度成長期の銀座修行。「俺にはこれしかねえんだよ」同僚の一言に自問

――家業に入られた経緯について教えてください。

社長： 正直に言うと、もともと継ぐ気はありませんでした。漠然とではありますが、体育の先生になりたかったのです。そんな中で、大学4年の時に父から「お前、この会社の採用試験を受けてみないか？」と声を掛けられたのが、銀座の靴メーカー・かねまつさんでした。縁故採用のようなものということで、とりあえず受けてみました。…が、見事落ちました。「話が違うじゃないか！」と…。