売上23億減、残った主要社員4名との再出発。辿り着いたのは「社員の幸福」「経済効率性」の同時実現

BizHint 編集部 2021年12月9日(木)掲載

株式会社Panomaの代表取締役会長、葭野一恵さん。売上23億減、管理者が全員退職、60人いた社員は若い主要社員4名と新入社員のみ…という危機的状況下で、同社の代表に就任しました。赤字は見事3年で黒字化。その後も利益を追求すべく奮闘しますが、売上は伸び悩み、社員たちの疲弊していく様子を目の当たりにし、「本当にこれでいいのか…」と悩み始めます。そして、たどり着いた答えは「社員の幸福」「経済効率性」の同時実現でした。今回は、葭野会長の現在に至るまでの歩みと、中小企業の成長に欠かせない業務効率化や多様化を実現するためのポイントについて伺いました。

■株式会社Panoma （パノマ）

1967年に家具店「ヨシノ家具」として創業。マンションのモデルルーム事業などを経て、現在は住宅リノベーションのデザイン設計・施工やインテリアコーディネートを手がける。2021年「株式会社ヨシノスペースデベロップメント」から「株式会社Panoma」に社名変更。本社は東京都渋谷区で、従業員数は27名（2021年10月現在）。

■株式会社ワクフリ

2017年12月に設立。「企業のバックオフィス業務を改善し、働きやすく本業に集中できる企業を世に創出し続ける」ことを経営理念とし、主に中小企業に対しバックオフィス効率化の支援や補助金獲得サポートなどを行っている。ツールの導入支援だけでなく、業務改善・運用定着のサポートまで行うことが特徴。

60名いた社員が、事業承継時には主要社員4名に。売上23億減からの再スタート

――まず、葭野会長が事業承継された経緯について教えてください。

葭野一恵さん（以下、葭野）： 当社は、1967年に東京・調布市で私の両親が「ヨシノ家具」として創業しました。次第に建築関係の仕事が増え、1988年頃からはマンションのモデルルーム事業を本格稼働、現在は住宅のリノベーションやインテリアコーディネートを主軸としています。

私が新卒でTOTOに営業職として入社した年、弟が骨髄のがんを発症しました。それから両親は弟の看病や、弟の骨髄移植のために血液を提供してくださった方々へのお礼に駆け回ることになります。経営は他の人に任せていたのですが、次第に社内では派閥ができ内紛なども起きるように。また、この業界特有ではあるのですが、独立する社員も多く、このままでは会社の存続が難しいのでは…という状況に陥っていました。

そんなとき、社長である父から私に 「会社を継いでくれないか。お前が継いでくれないなら会社を売ろうと思っている」 という相談がありました。当時は全く当社の事業には関わっていなかったのですが、話は聞いていたので、状況は理解していました。悩みに悩み……、会社を継ぐことを決意。翌年の2008年、41歳で株式会社ヨシノスペースデベロップメントの代表取締役に就任しました。

内紛が起こる前の2006年、当社は過去最高売上である26億円を叩き出し、社員は60名ほどいました。しかし、私が代表に就任した翌年の2009年、売上は4億円。2010年には3億円に…。そして残っていた社員は若手の主要社員が4名と、まだ自分一人では売上をつくることのできない新入社員のみでした。

――売上は23億減、社員数も主要社員は4名だったとは……。相当な危機的状況でのスタートだったんですね。

葭野： よく言われますが、 実はあまり危機感を持っていなかったんです（笑）。 社員数は少なかったものの、顧客は残っていましたし、幸いにもキャッシュもありました。だから、経営の観点で言うと「ものすごくピンチ」だとは思わなかったんです。 「会社という器は残っているのだから大丈夫」 と。

まず事業承継したタイミングで、主要な取引先銀行に「3年間の赤字を認めてください」とお願いしました。当時、業界はリーマンショックのあおりを受け、取引先の2/3が倒産していました。それもあって、私たちも会社を1/3の規模に縮小し、それに見合った採算ラインで経営すると伝えたんです。そして宣言通り、3年目で黒字化に成功。社員数も12名ほどに増えていました。