400年の酒造が途絶え、ローカル愛されコンビニ誕生。変化こそが暖簾をつなぐ

株式会社大津屋
代表取締役社長　小川 明彦さん

慶應義塾大学を卒業後に福井で家業を継ぐ。昭和56年（1981年）にコンビニ経営を思い立ち8月に1号店をオープン。経営コンセプトは「先見力を持って市場を見つめ、潜在的な顧客のＳＥＥＤＳを発見し、それを積極的に実現されることによって、地域社会に貢献する」。

400年続いた酒造。28代目で酒造りが途絶え、29代目がコンビニ開店

――福井県初となるコンビニエンスストア。開店の経緯を教えてください。

小川 明彦さん（以下、小川）： 今から40年ほど前、1981年８月に「オレンジＢＯＸおおつや」が開店しました。これは私が大学を卒業し、家業の大津屋に入って２年目のことでした。

大津屋は1573年から400年にわたって続く酒造業の老舗でした。私は大津屋の29代目になります。しかし私が大学２年の1977年に酒造業は廃業しました。それからは酒の業務用卸が主業となり、ホテルや飲食店との取り引きで、規模は年商7000万円ほど。当時から小売業もやっていたのですが、 一番売るのが自動販売機ってくらい細々とした事業 でしたね。

昭和55年(1980年)ごろの大津屋

家業を継ぐため、大学卒業後に東京から地元・福井に戻り、まずは小売業として御用聞きをがんばりました。その中で、当時の地元のお客様の生活を知ることになったのです。

新興住宅地には若い世代の共働き夫婦が多く住んでいて、買い物をする時間は夜が多いのに、スーパーはどこも19時閉店。買い物する場所がありません。それなら酒販免許を持つうちが、夜遅くまで買い物できる店をつくればいいのではと思いついたのが、今に至る福井のコンビニエンスストアチェーン「オレンジＢＯＸ」の始まりです。

――当時の福井で、大手コンビニエンスストアのチェーン展開はどうだったのでしょうか？

小川： 1970年代後半は、まさに大手CVSの勃興期でした。しかし出店は都心がメインであり、福井には５年先まで出店計画がないと知り、チャンスを感じました。それに、御用聞きで収集した地元住民のニーズに応える品揃えができれば、差別化になると考えていました。

「夜中に出歩いている人はいない！」夜間営業への反発

――まだ見たこともないコンビニエンスストア。周囲の反対はなかったのでしょうか？

小川： 家業を継ぐ時から、旧態依然の酒屋では生き残れないと感じていました。なので、小売業への参入は生き残るためのチャレンジでした。目標は日商30万円。これといった根拠はなかったのですが、絶対に売れると信じて疑いませんでしたね（笑）。

はじめは24時間営業を考えていましたが、 当時の社長である叔父には『夜中に出歩いてる人なんていない！』と反対されました。 実際、夜に店の前に人通りはありませんでしたので。しかし『うちが夜中まで営業すれば、遠くからお客様が来るんだ！』と説明しました。結局、22時閉店でのスタートとなりましたが。

――開店して、いかがでしたか？

小川： オープン初日は100万円を売り上げました。「変わったスーパーができた」という物珍しさからお客様が足を運んでくれたのだと思います。しかし２日目は80万円、３日目は60万円と目減りし、最終的に平均日商は10万円に着地しました。

目標とした日商30万円には程遠く、運転資金にも悩まされ、当初からオープンに反対していた 叔父からは「それ見たことか！」 と言われましたね。

オープン当初の盛況の様子。しかしここから右肩下がりに…

――どうされたのでしょうか？