男性でも育休が取得しやすくなる出生時両立支援コースとは
近年になって企業にも育休制度が整ってきたために、取得しやすくなってきたといわれています。女性でも、育休後に職場復帰される方は多いのではないでしょうか。一方で男性の育休取得はというと、まだあまり広がっているようには見えません。最近男性の有名政治家が育休に触れたことで、男性の育休取得論議に拍車がかかるのではと期待されています。一方で男性が育休取得に踏み切れないのは、職場環境や仕事内容、前例がないといったこともあるでしょうが、一番大きい理由は減収ではないでしょうか。このコラムでは育休制度を正しく理解していただき、企業にとっても機会損失せずにメリットになるように解説します。
1. 出生時両立支援コースは男性のための育児目的休暇
「両立支援等助成金」は、現在6つの制度があります。なかでも「出生時両立支援コース」は男性でも育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場環境を構築し、社内の育休制度を利用した男性従業員が出た場合に事業主に助成されるものです。
現在このコースには 男性労働者の育児休業 と 育児目的休暇 の2つがあります。また経営者であれば知っておくと有利なことがあります。それは生産性要件が満たしていれば、助成金の割増があるからです。
1-1.生産性要件
雇用関係助成金を受給する際に 「生産性要件」 という項目があります。これは以下のどちらかを満たしている場合に 助成金の割増 などが行われます。 申請を行う直近の会計年度における生産性に関して
- その3年間に比べ6%以上伸びていること
- その3年前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
※2.は金融機関から一定の事業性評価を得ていること
生産性の計算式は付加価値÷雇用保険被保険者数から算出されますが、この付加価値とは、企業の場合、営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課で決まります。
少しでも多く助成されたいとお考えの場合は、顧問税理士や中小企業診断士とよくご相談ください。
1-2.出生時両立支援コース(助成金)の要件
平成28年4月1日以降に、以下のような要件が必要になります。
● 男性労働者の育児休業と育児目的休暇のどちらも共通する要件
- 雇用保険の被保険者である男性従業員
- 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業の制度及び育児のための短時間勤務制度において、就業規則に規定している
- 次世代育成支援対策推進法(※1)に基づく、一般事業主行動計画を策定し、届け出ていること。また計画を公表して労働者に周知する措置を行っていること
- 平成28年4月以降に職場風土づくりのための取り組みを行うこと
- 管理職による、男性労働者への育休取得の勧奨
- 男性労働者を対象に、育休の利用を周知徹底させる
- 男性労働者の育休取得に関する管理職研修の実施
※1:2005年に施行され10年を期間とした時限立法。300人以下の企業では努力義務。企業における仕事と家庭(育児)の両立支援のさらなる取り組みを促進するために設立。
● 男性労働者の育児休業の要件
共通要件に加えて以下の要件を満たします。
- 男性労働者(被保険者)に、出生後8週間以内(出生日含む)に開始している、連続14日以上(中小企業は5日以上)の育休を取得させた
● 男性労働者の育児目的休暇の要件
共通要件に加えて以下の要件を満たします。
- 男性労働者(被保険者)が、子どもの出生前後に育児や配偶者の出産支援のために取得できる育児目的休暇の制度を導入し、就業規則に規定する
- 1.の制度を男性が、子どもの出生前6週間または出生後8週間以内に合計して8日以上(中小企業は5日以上)取得する
1-3.助成される額
企業の規模や取得した育児休業期間によっても金額が異なりますのでご注意ください。なお、下の図表内の太字が取得金額、細字( )内は生産性要件を満たした場合の金額です。
表1:厚生労働省 両立支援等助成金・支給申請の手引き(2019年度版)より抜粋
2. 男性の育児休業が取得しやすい職場風土とは
日本では男性の育休取得がまだ一般的ではありません。制度として存在するものの、使いづらいと思っている方も多いでしょう。日本は先進国の中でも唯一男性が6か月以上もの育休が取得できる国ですが、多くの方がその事実を知りません。制度自体は充実しているものの、職場意識が変化しないというのが現状です。
女性の育休取得率は認知されてきたものの、2018年度の厚生省の発表では女性の育休取得率は83%でした。それと比較すると男性は6.16%という非常に低いものでした。厚生省は過去2012年までに男性の育休取得率を10%にまで上げる、としていましたが目標には遥か及ばない結果となりました。実は厚生労働省では、育児を積極的に行う男性「イクメン」を応援し、男性の育児と仕事の両立を推進する「イクメンプロジェクト」を2010年から実施しています。それでも周知徹底されることがありません。
「男性の育児休業取得促進事業(イクメンプロジェクト)」の取組について 厚生労働省雇用環境・均等局職業生活両立課
男性の育休が取得しやすい職場風土とは、どんなものなのでしょうか。受給要件にも書かれている、以下の3つがポイントになります。これは 【育児休業を取得しやすい職場風土作りの取り組み】 として申請する事業所の行動を定義しています。
- 男性労働者が育児休業制度の利用を促進しやすくなるための資料などを周知
- 管理職による、男性労働者への育休取得の勧奨
- 男性労働者の育休取得についての管理職向け研修を実施する
ここで一番重要な部分は、(2)と(3)の管理職という部分です。管理職から勧められないと男性社員が育休を取得するのはかなり難しいでしょう。上司が制度自体を理解し、部下などの若手社員に育休を勧める職場風土にしていかないとなかなか取得しにくいというのが現実でしょう。
そこで管理職自体も育休を取る、男性育休の取得が実績としてあるという企業体質が定着すると、社員も離職せずに定着率もアップするのではないでしょうか。鍵を握る男性管理職の認知・啓蒙がとても重要です。
最後に補足事項を記しておきます。子どもの出生後に連続した育児休業を取得させると、一人目でも二人目でも助成されます(表1をご覧ください)。そして一人目・二人目に加えて、 【育児休業を取得しやすい職場風土作りの取り組み】 を実施すると表1にあるように「育児目的休暇の導入・利用」として28.5万円(中小企業以外は14.25万円)が支給されます。
制度を作るにはカネ・ヒト・モノがかかりますが、作って実行してしまうと後から必ず助成されるようになっています。
3.まとめ
中小企業には、人手の問題でなかなか育休が取りづらいこともあるでしょう。しかし制度が定着すると、社員も定着して離職が減らせるというメリットがあります。社歴が長くなるとその中での「5日」はたいしたことはない、と思えるようになるはずです。
むしろ5日で何ができるかという疑問が沸くかもしれませんが、男性が積極的に育休を取れる職場風土こそ、企業としてもステータスをアップさせる良い機会になるでしょう。ぜひ経営者の皆様、ご検討ください!
監修:長谷川祐也(中小企業診断士/経営学修士) 執筆:リカル
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