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連載:第3回 よくわかる補助金・助成金 健康経営

産業医や保健師はいますか? ~小規模事業場産業医活動助成金の紹介~

BizHint 編集部 2020年1月13日(月)掲載
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第一回ではストレスチェックを実施するための助成金、第二回ではストレスチェック後の職場環境改善をするための助成金、第三回では心の健康づくりを行うための助成金を紹介してきました。最終回は、それらの取り組みに関して欠かせない専門家と契約して指導をいただくための助成金を紹介したいと思います。この助成金は、労働者が50人未満の事業場に対して、産業医や保健師と契約して指導を受ける活動を助成してくれます。

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1.専門家の必要性について

 もう10年以上前の話になりますが、私は30人ほどの小さなデザイン制作会社で部長をしていました。部下にとても元気の良い女性がいて、仕事もバリバリやっておりました。彼女には2名の部下がいて、そのマネジメントも行っていたのですが、彼女のこれまでのキャリア、そして何よりもその明るいキャラクターで、私は勝手に「彼女はストレス耐性が高く、うつ病などとは縁遠い存在だろう」と思っていました。

 ちなみに、当時その会社では毎年一人はうつ病を発症し、長期間出勤できなくなるということが起こっていました。「そんなことは制作会社ではよくあることだ」で片づけてしまっていたのですが、数か月後、その元気な彼女が会社に来なくなってしまったのです。いやな予感はあたり、結局彼女はうつ病を発症し、退職の道を選んでしまいました。

 その後、会社は産業医と契約し、定期的な面談と社員が気軽に相談できるような仕組みを作りました。産業医の先生の話によると、うつ病は誰でも発症する可能性があり「明るいキャラクターだから大丈夫」とか「ストレス耐性が高そうだから大丈夫」なんてことは絶対ないそうです。もっと早く専門家と相談できる環境を整えていたら、彼女のように優秀な社員を失わなくてよかったのではないかと悔やんでも悔やみきれませんでした。

 素人判断では見過ごしてしまうようなことも、専門家の専門的なアプローチで発見できることもあると思います。そもそも会社の悩みを抱えている人は、上司や社長に相談できるわけがないのです。第三者である専門家を介することで心の奥にある問題を見つけることができるかもしれません。そういった意味でも会社に相談できる専門家がいるということは重要なことになってくると思います。

2.健康経営実践の具体的な取り組みについて

 専門家の指導を受けながら健康経営を実践していくには具体的にどのような取り組みがあるのか。いくつかある中で今回は4つの項目についてみてみたいと思います。

(1)長時間労働者への対応

 労働政策研究・研修機構の調査によると、週当たりの実労働時間が長い人ほど健康不安が高いという調査結果があります。

さらに、健康不安を感じる人ほど自己の能力を発揮できていないと感じる傾向が高いという調査結果も出ました。

(出典)労働政策研究・研修機構「「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」結果および「労働時間や働き方のニーズに関する調査」結果-より効率的な働き方の実現に向けて、企業の雇用管理はどう変わろうとしているのか」JILPT調査シリーズNo148、2016

 これらの結果から、健康不安のある人がよりがんばって働いてしまうという負のスパイラルに入り込む可能性が高いと考えられます。 長時間労働に対する具体的な取り組みとして以下を始めてみると良いでしょう。

  • 超過勤務時間が月80時間を超える労働者に対して、本人の申し出の有無に関わらず産業医の面接指導を受けさせる
  • 命令時間以降残っていた従業員には管理職が必ず早期帰宅の呼びかけを実施する
  • 退勤から出勤まで最低8時間の勤務時間のインターバルを取る

(2)メンタルヘルス対策

 現在では多くの企業でメンタルヘルス対策が検討されていると思います。メンタルヘルス対策は「職場環境の改善やストレスマネジメント(ストレスを上手にコントロールして心身に及ぶ負担を軽減すること)の向上を中心とする一次予防」、「メンタルヘルス不調者の早期発見、対応を中心とする二次予防」、「メンタルヘルス不調者の職場復帰や再発予防を中心とする三次予防」とあります。

 また、従業員のメンタルヘルスの保持・増進には4つのケアを継続的に行うことが重要と考えられています。

 メンタルヘルス対策の具体的な取り組みとして以下を始めてみると良いでしょう。

  • 組織として、メンタルヘルス不調者に向けた対応策をあらかじめ策定し、対象者がいる場合には実行する
    ⇒対象者には定期的な医療関係者(第三者)面談を実施
    ⇒対象者の復帰時は医師の意見を聞いて、適宜状況に合わせて支援する
    ⇒対象者の復帰時にあたっては、短時間勤務、業務制限等を配慮する
  • 相談窓口を設置する
    ⇒外部の相談窓口と契約し、窓口の利用を促す

(3)運動機会の増進

 適度な運動は心身に良い影響を与え、生産性の向上が図られると考えられています。
 企業には、従業員が日常生活の中で体を動かす工夫ができ、運動習慣が身につくように従 業員の健康課題に基づき、運動機会の増進に向けた取り組みを継続的に行うことが求められます。

 運動機会の増進に向けた具体的な取り組みとして以下を始めてみると良いでしょう。

  • 運動不足解消のため、一駅分の徒歩通勤の推奨
  • 社内エレベーター使用制限のルールを設ける
  • ラジオ体操、ストレッチ等の実施
  • 万歩計を配布、または携帯のアプリなどを利用し、レクレーション要素を取り入れた社内歩数競争の実施
  • 社内の運動部への活動費補助
  • フィットネスクラブなどの利用料の一部補助

(4)コミュニケーションの促進

 コミュニケーションが闊達な組織では、組織が活性化し、生産性も向上すると考えられています。コミュニケーションが図られる組織作りは、従業員任せにするのではなく、会社が積極的に工夫してコミュニケーションが生まれやすい環境を整えていく必要があります。 コミュニケーションの促進に向けた具体的な取り組みとして以下を始めてみると良いでしょう。

  • 挨拶の励行
  • 事務所内のフリーアドレス(固定席の廃止)の導入や定期的な席替え
  • 社員旅行・心身の健康増進を目的とした旅行の実施
  • 家族同伴の社内運動会やボウリング大会(スポーツイベントの実施)
  • 社内歩数競争による日々のコミュニケーション増加

3.小規模事業場産業医活動助成金について

 この助成金制度は、労働者数50人未満の事業者の方が産業医や保健師と契約を交わし、一定期間産業保健活動を行った場合に、費用の助成を受けることができる制度です。

(1)助成となる方

産業医コース

 産業医の要件を備えた医師と職場巡回、健康診断異常所見者に関する意見聴取、保健指導等、産業医活動の全部または一部を実施する契約を締結し、契約を締結した産業医が産業医活動の全部または一部を実施した、労働者50人未満の事業場。

保健師コース

 新たに保健師と健康診断異常所見者や長時間労働者等に対する保健指導、高ストレス者等に対する健康相談、健康教育等の産業保健活動の全部または一部を実施する契約を締結し、契約を締結した保健師が産業保健活動の全部または一部を実施した、労働者50人未満の事業場。

直接健康相談環境整備コース

 小規模事業者が「産業医の要件を備えた医師と職場巡回等、産業医活動の全部または一部を実施する契約」か「保健師と健診異常者や長時間労働者等に対する保健指導等、産業保健活動の全部または一部を実施する契約」のいずれかに、契約した産業医または保健師に労働者が直接健康相談できる環境を整備する条項を含めて締結し、労働者に周知した、労働者50人未満の事業場。

(2)助成金を受けるための要件

 すべてのコース共通で次の2つの要件を満たしていることが必要です。また、各コースについて、それぞれの要件があります。

全コース共通の要件

  • 小規模事業場(常時50人未満の労働者を使用する事業場)であること。
  • 労働保険の適用事業場であること。(厚生労働省ホームページ掲載の「労働保険適用事業場検索」にて該当した事業場を適用事業場とみなしています)
  • 産業医コースの要件

  • 平成29年度以降、産業医の要件を備えた医師と職場巡視、健診異常所見者に関する意見聴取、保健指導等、産業医活動の全部又は一部を実施する契約を新たに締結していること。
  • 産業医が産業医活動の全部又は一部を実施していること。
  • 産業医活動を行う者は、自社の使用者・労働者以外の者であること。

保健師コースの要件

  • 平成30年度以降、新たに保健師と健診異常所見者や長時間労働者等に対する保健指導、高ストレス者等に対する健康相談、健康教育等の産業保健活動の全部又は一部を実施する契約を新たに締結していること。
  • 保健師が産業保健活動の全部又は一部を実施していること。
  • 産業保健活動を行う者は、自社の使用者・労働者以外の者であること。
  • 直接健康相談環境整備コースの要件

  • 産業医と職場巡視等、産業医活動の全部又は一部を実施する契約又は保健師と保健 指導等、産業保健活動の全部又は一部を実施する契約のいずれかに、契約した産業医 又は保健師に労働者が直接健康相談できる環境を整備する条項を含めて平成30年度 以降新たに締結していること。
  • 労働者へ産業医又は保健師と労働者が直接相談できる仕組みを周知していること。
  • 産業医活動もしくは産業保健活動を行う者は、自社の使用者・労働者以外の者であること。
  • (3)助成の内容

助成額は以下の通りです。

(4)申請の期限

 全てのコースの期限は、令和2年6月30日(消印有効)までとなっています。ただし申請期間中でも助成金支給申請の受付を終了することがありますのでご注意ください。

(5)お問い合わせ先

独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部 
産業保健業務指導課
電話:0570-783-046

ホームページ:[小規模事業場産業医活動助成金(産業医コース)]
(https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1405/Default.aspx)

[小規模事業場産業医活動助成金(保健師コース)]
(https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1408/Default.aspx)

[小規模事業場産業医活動助成金の概要(直接健康相談環境整備コース)]
(https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1412/Default.aspx)

(参考文献)
2019年度版 中小企業施策利用ガイドブック(中小企業庁)
2018年 健康経営アドバイザーテキスト(東京商工会議所)
2019年 健康経営アドバイザー・エキスパートアドバイザー共通テキスト(東京商工会議所)

(執筆)
株式会社プロデューサー・ハウス 佐藤和哉
中小企業診断士、健康経営アドバイザー

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