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連載:第10回 組織作り その要諦

「超属人的組織」だからこそ仕事が面白い。一人の職人のみが持つ技術も「継がなくて良い」

BizHint 編集部 2019年7月26日(金)掲載
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1979年創業の製本会社、有限会社篠原紙工。カタログやチラシ、会社案内などの一般的な製本事業を軸としながら、特殊な製本技術を自社開発できる技術力、そしてクライアントもエンドユーザーもワクワクさせる提案力を持ち、ブックデザイナーやクリエイターから「困ったら篠原紙工」と頼られる存在です。 全社員19名の会社ながら、2019年は新卒4名の採用に成功した篠原紙工。会社が変わる過程で離職する社員が増え、ギリギリの状態で業務を続けてきた同社が、新卒者に選ばれる会社になるまでの積み重ねについて、代表取締役社長である篠原慶丞(けいすけ)さんに伺いました。

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【プロフィール】
有限会社篠原紙工
代表取締役社長 篠原慶丞さん

父の創業した有限会社篠原紙工へ入社後、現場オペレーターを経て2013年代表取締役に就任。現場経験で培った印刷と製本の知識、デザインに関する造詣の深さをあわせもつバインディングディレクターとして、デザイナーやクリエイターから絶大な信頼を得ている。6社で結成した紙のステーショナリーブランド「印刷加工連」の代表、紙の可能性を広げる実験場「Factory4F」の代表を務める。

採用を本格化する前に、会社の価値観を見直す

――今年(2019年)の4名採用。19名という社員数に対して、インパクトがありますね!

篠原慶丞さん(以下、篠原): 一気に増えたように見えますが、長年、採用を控えていたんです。篠原紙工は「人の心を動かす仕事をする」という信念のもと、製本会社の仕事を面白くして仕事に誇りを持てる人を増やし、さらにその仕事に感謝してくださるお客様も増やしたいと思っています。人材を募集するときは、今お話ししたような価値観に共鳴してくれる若者をターゲットにしたいと思っていましたが、 その価値観がようやく社内に定着してきたと感じられたので、多めの採用に踏み切った んです。 実際に現場で働く社員は、それまで一人あたりの仕事量が増えていたのでつらかったと思います。でも、私の思いがまとまるまで社員は待ってくれました。

――なぜ、社員のみなさんは待ってくれたのだと思われますか?

篠原: 明確な言葉にはならなくても 自分の思いは常に伝えてきたので、迷いも含めて私の意志を理解してくれていたからだと思います。 ただ、その時期には退職する社員も数名いました。 製本は職人的な仕事で、一人で黙々と作業ができます。「人の心を動かす仕事、お客様から感謝される仕事をするにはどうしたらいいか」なんて、別に考えなくてもできるのになぜ今更……と反発する社員もいましたし、社長にはついていけないと辞める社員もいました。離職率は決して低くなかったです。 だからこそ、今残ってくれている社員は 「会社の価値観に共感している人でないと一緒に進めない」という実感を持ってくれたのだと思います。
歴史ある会社であればあるほど、このような変革は痛みを伴いますが、 人材採用と定着のためには「会社の価値観」をはっきりさせることが必要 だと考えました。

――現在、2、30代の若手が増えていますが、若手採用に力を入れた背景を教えてください。

篠原: 単純に若い方がいいよね(笑)。というのは冗談で、ものを作るだけでなく、若い時期から育てて成長させられる会社でありたいと思っていましたし、会社の未来を考えるとクライアントと一緒に物事を考えられる柔軟性の高い人に来てほしかったんです。
製本業界は、広告出版界の中でも最終工程を担うことが多く、当社の稼ぎ頭であるパンフレットやマップ、書籍の製本作業は、仕様書通りに効率よく進めることだけが求められています。つまり、 長期間この業界にいると「前提を疑う」という機会がほぼ失われます。 そもそもこのパンフレットをつくる必要があったのか、あったとして、この形状で目的を達成できるのか。そんな風に 「そもそも」を考えられる人が必要 でした。 当社は少しずつ若返りを図り、今は、2、30代を中心に40代、50代、70代の社員が少しずつという構成で、部署のリーダーは2、30代にまかせています。技術力のあるベテラン社員は、技術の要として若手の指導もしてくれて、いいバランスです。

会社の可能性を拡げるのは、社員の実現したいことと、個性的なバックグラウンド

――採用にあたり「日本仕事百貨」という採用サイトを利用されたのはなぜですか?

篠原:自分が想像できる範囲外からの応募を期待できた からです。 ここ数年、採用にすごく苦労したという記憶はありません。当社はアート系の個性的な製本を手がけることも多く、自社内に「Factory4F」という紙加工をテーマに開かれた場を設けてイベントなども数多く開いてきたので、自社のHPから応募を呼びかけるだけでも、美大生を中心に反応があったんです。 すでに当社を知っていて、当社のHPから応募してくれる人はミスマッチを起こしづらいというメリットがあります。ただ、これまでの篠原紙工を振り返ると、新たな人材が思わぬ仕事をつくってくれてきていました。だからこそ、私が思いもつかない背景を持っている人、もしくはこの先面白いことを呼び込んでくれそうな人たちと出会い、会社の可能性を拡げられたらいいなという思い がありましたね。

――たとえば、これまでどんなお仕事が新たに生まれましたか?

篠原: ちょうど今、私たちの後ろで作業してくれていますが(下写真)、ある本の表側に、透けるような薄布を一枚一枚手貼りして仕上げています。これは、本を手でつくる「造本家」の活動を現在も続けている社員が入社してくれたからできた仕事です。今年入社した社員にも、自分のやりたいこと、特技を活かせる仕事に積極的に取り組んでほしいです。

――では、若手社員のモチベーションを保つために意識していることはありますか?

篠原:ひとつは、若手社員に注目が集まるようにしていること です。今日は経営の話題なので私が話していますが、デザイン関連の媒体に取り上げていただく際は若手社員の活躍に光が当たるように気を付けています。求職者にとっても、私より若手社員がどのくらい活躍しているかの方が重要ですよね。 当社は工場見学も頻繁に受け入れています。最初は「これで受注につながったら」なんて思っていましたが、今は100%社員のモチベーションアップのため。お客様が目を輝かせて自分の仕事を見てくれる。仕事の説明をすると「おー」と反応してくれる。それだけで、社員の仕事に向かう姿勢は変わりました。

もうひとつは、大企業ではあまり好まれない「属人的組織」という特徴が、モチベーションアップにつながっている と思います。

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