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連載:第9回 組織作り その要諦

デイサービスを「男性向け」で差別化。従業員の定着率を高める「公平感ある」職場づくり

BizHint 編集部 2019年7月19日(金)掲載
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従来、デイサービスの利用者は圧倒的に女性が多く、その雰囲気に苦手意識を持つ男性は多いもの。また、加齢によって社会との関わり合いが減少していく「高齢引きこもり」が社会問題化している昨今、高齢男性が快適に過ごせる居場所は貴重です。 もともと保育園運営事業を行っていた(株)我喜大笑は高齢者福祉事業に新規参入し、2011年、男性向けデイサービス「夢楽」を開設しました。2014年度の売上は8億、2017年度17億、2018年度は20億を見込んでいます。着実な成長を続ける同社の強みは、「サービスの差別化」と「公平感のある職場づくり」。人材確保が難しいと言われる介護業界で、高い定着率を目指す同社の取り組みについて代表取締役、倉持雅則氏にお話を伺いました。

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【プロフィール】
株式会社我喜大笑
代表取締役 倉持雅則さん
慶応義塾大学商学部卒業。東京都民銀行に約27年勤務。その後民間企業にて企業再生等に従事。平成27年(株)我喜大笑代表取締役就任。

新規参入組だからこそできた「男性向け」デイサービス

――男性向けのデイサービス「夢楽」をオープンした背景を教えてください。

倉持雅則さん (以下、倉持): 当社のデイサービス進出にあたり、創業時のメンバーが関東圏で20ヵ所ほどのデイサービスを視察しました。そこで目にしたのが、退屈そうにしている男性利用者の方々です。例えば、紙風船でバレーを行う、折り紙で貼り絵を作る等のカリキュラムでは「こんなことやってられるか……」と。

さらにケアマネジャー(以下ケアマネ)さんにヒアリングを重ねると、男性利用者はデイサービスを紹介しても長続きしない、またトラブルを起こしてやめてしまうなどのサービス拒否をする方が我々の想像以上に多いことがわかりました。それならば、 「男性が年をとったら行きたくなるデイサービスを作ろう!」 ということになったのです。

――オープンまではご苦労もあったとか。

倉持: 我々としては「男性特化型」としたかったのですが、行政側から『対象を男性に限定すること』にストップがかかりました。介護保険法をベースとした制度上、認知症対応型という限定した症状でご利用者を差別化することはあっても、法令においての原則はあくまで「人」に対しての適用であることから、性別の限定がNGだったのです。

しかし、粘り強く調整を進めていくと、行政機関や部署によって判断が異なり、最終的に「男性向け」という限定を避けた表現に落ち着きました。とはいえ、当社は勇み足で「男性特化型」という看板を設置してしまっていたので、(特化型)の部分をキャラクターで上書きして隠して対応しました(笑)。

男性向けとはいえ、もちろん女性の利用も大歓迎です。実際に女性の中にも、「夢楽」のコンテンツの一つである麻雀が好きな人はいますし、中には亡くなった旦那さんが好きだった麻雀をやってみたいという方もいらっしゃるんですよ。


行政の意向に従い、看板の「男性特化型」をキャラクターで隠し、2011年7月にオープンした「夢楽 志村坂下」。

――貴社だけが男性向けのデイサービス開設に踏み切れた理由はあるのでしょうか?

倉持: 3つあるかと思います。1つ目は、当社が新規参入者だったことです。既存の事業者は、たくさんの女性の利用者を抱えていますので、男性向けのデイサービスを行うには、従来のやり方や固定観念を自ら破壊しなければいけないというハードルがあります。2つ目は、当社には「新しいことにチャレンジしよう」という風土があったこと。3つ目に、親会社の資本を背景に資金調達が容易だったことです。

開設当初は35名前後の定員規模のデイサービスを展開していましたが、様々なチャレンジを続けるうちに最近は60名や90名といった大規模なものを展開できるようになってきました。ただし、大規模デイサービスについては、人員の確保や稼働率安定までの期間等のコスト面をを考えると、多くの事業者にとってはなかなかハードルが高いものかと思います。

利用者の興味に応え、満足度9割超。コンテンツはもちろん、職員の意識・姿勢が重要

――利用者満足のための取り組みについて教えてください。

倉持:「何をしているときが楽しいのか」「何があれば行きたくなるのか」を考えて、コンテンツを揃えています。ノンアルコールビールやこだわりのコーヒー、脳トレやパソコン、iPadをはじめ、挑戦する活力や交流につながる囲碁、将棋、手積みの麻雀、カラオケなどを用意して、自由に選択できるようにしています。

一般的にデイサービスというと、集団体操や、集団プログラムを実施しているところが多いのですが、 当社はご利用者の多様な興味に応えることができるようにしています。 テーブルゲームは、皆さん本当に真剣勝負ですよ(笑)。手足が多少不自由でも参加できますし、肺が苦しくても酸素吸入機をつけながらでも楽しみにしている方もいらっしゃいます。

4人掛けテーブルで一つのコミュニティができあがり、 それまで部屋に閉じこもりがちだった方でも同年代の友人ができたり、コンテンツを楽しみたいという動機から目的意識が生まれ、社会性が向上(回復)していきます。 ご利用者が自立して動けるようになると、その方にとって介護職員は、介護職員から店員さんになっていきます。福祉業界自体がサービス業界に帰属している以上、この価値観の変化は我々にとって自立支援の達成を意味しており、非常に有意義なものと感じています。

当社のデイサービスでは要介護度が1.5~1.6と低く(注:要介護度が大きいほど、介護の必要性が高い)元気な方が多いので、リハビリマシーンを導入してみましたが、蓋を開けてみたら私たちの想定よりもニーズは少ないことに驚きました。同じく、ペッパー君も失敗(笑)。大事なのはやはり、ご利用者の興味があるかどうか。そして、職員は「いかに喜んでいただけるか」をベースに積極的にアイディアを出し合い、その成果を運営に活かしています。

――実際、利用者様の満足度はいかがですか。

倉持: 年1回、満足度アンケートを実施していますが、9割の方から「満足」という回答をいただいています。普段のご様子を見ていても、笑顔で過ごしている方が多く、職員と一緒に麻雀をするなどコミュニケーションも活発です。

コンテンツ自体は、他社でも取り入れているところはあるはずです。しかし当社は、 コンテンツそのものよりも、職員の意識や姿勢を重視 しています。それは 「人生の先輩が通所してくださっている」「その方が何を求めているか」という2点です。 そのような意識で接することで行動へと繋がり、「夢楽ブランド」がつくられていくと思っています。

――事業運営の「本部」として、心がけられていることはありますか?

倉持: 現場ではとても良い雰囲気が醸成され、また職員一人一人の意見やチャレンジの声も上がってくるので、本部としては「それらの要望にできるだけ応えていく」ということです。最近も、女性職員がアロマの資格を活かしたい!ということで、新しいプログラムを導入しました。


互いに心を通わせながら、テーブルゲームを楽しむひととき

――新規出店はどのように決めているのでしょうか。

倉持: どの事業者も似たようなものだと思いますが、まず、商圏の設定とともに、車の台数と送迎の所要時間からエリアの限界設定を行います。そのうえで、居宅介護支援事業所にいるケアマネさんの商圏と、我々が設定したエリアを照らし合わせます。取引先となるケアマネさんを何人確保できるかが重要なポイントです。

ケアマネさん一人当たりの担当人数は最大35名ほど。当社がターゲットとする要介護1~2で男性且つ「楽しみや交流」といったニーズがある方はそのうち約10%なので、ケアマネさんの1名あたりにご紹介いただけるご利用者は多くて2名程度。1人当たりの1週間の平均利用回数が1.5回とすると、週6日営業で黒字化できる稼働率に達するためには……?といった具合に、どんどん数字を落とし込んで指標を作っていきます。ただし、よほどの競合が至近距離にいない限りは出店します。 サービスがしっかり差別化できているので、他社が脅威になりにくいからです。

とはいえ、過去には失敗もありました。体制が整っていない状態で受入人数を増やしたために、お約束したサービスを提供できず、その地域での信用を失ってしまったんです。だからこそ、出店の際にはきちんとしたサービスを提供できるかということを最重要視しています。ネガティブな情報は、地域の方々に口コミで瞬く間に広がります。「信用」が何より大切ですので、運営において最も重要視しているポイントです。

『トラブルは、起こる』。「コトの番人」としての公平な判断が、企業の秩序を保つ

――職員の採用や定着についてはいかがでしょうか?

倉持: 現在は売り手市場ということもあり、採用への課題は他社同様にあるかと思います。そういった中で力を入れているのは、職員の定着・離職防止です。手前味噌はありますが、当社の定着率は高いように思っています。

まず、人が介在する事業ですので管理職側のコミュニケーション能力が不可欠です。普段から管理職側が職員の課題や現場の問題を把握し、早めに対応すれば、不要なトラブルやそれによる離職は事前に食い止められるはずです。当社では、半期に一度、上席がすべての職員と面談し、履歴を残します。半年後の面談では、前回の履歴をふまえて、課題があれば継続的にフォローしていきます。

よく言っているのは、「施設で抱え込むな」ということです。日々いろいろな事案が発生しますが、スーパーバイザー(SV)や担当部長のチェック機能が働くよう仕組み化しています。すべての報告とその指示はグループウエアで公開し、誰でも見ることができます。一般職員に対しては、課長以上の個人携帯につながる「レスキューダイアル」を渡し、相談内容を次長以上で共有。本部の部長につながる「セクハラ110番」も作りました。

本当に大きな事案というのは、私自ら解決にあたることもあります。人が介在する比重が極めて大きい事業でもありますし、『トラブルは起こる』という前提に立って情報収集と問題解決の仕組みを構築することが大事だと思っています。

――なかなか表沙汰になりにくい事案もあるのではないでしょうか。

倉持: そうですね。例えば、とある施設でのみ相談数が多かったり、退職者が相次ぐケースなどは(何かがおかしい…)と感づきますね。また、SVや本部の管理職が定期的に訪問するなど情報のルートを複数持つことで、公に上がってこない情報をキャッチできるようにしています。

そして問題がありそうな場合は、 すぐに施設の全職員にヒアリングします。 全職員です。たとえば30人の職員一人一人に聞いていったら最初の10人は口ごもるかもしれません。しかし、話を重ねると徐々に「いや、実を言うと……」という人が出てきます。

そこで、いかにスピーディにアクションをとるかが重要です。「結局、本部は何もやってくれない」と諦められてしまうのが一番怖い。 同時に、最終決裁を下す私は「コトの番人」である必要があります。問題となる「コト」に対して厳正に、フェアに対処を決めなければなりません。会社が泣き寝入りしてしまっては、秩序は保てないのです。

問題が真実であれば、みんなでもう一度考えて、みんなで立て直そうというスタンスで臨みます。我々にとってはそれがスタンダードなのです。もちろん、事情によっては再チャンスを与えるようにしています。

――給与面での従業員満足度はいかがでしょうか。

倉持: 同じ介護職でも、スキル・能力は人によって違います。つまり、医療・福祉業界は本来、職能的な評価がしっくりくる業界といえます。しかし、業界の主流はいわゆる職務給。能力の差が、給与に反映されないことから、優秀な方ほど不満を募らせることが一般的な課題となっていました。

そこで当社では、勤務年数に関係なく、能力や実績を評価する新制度を試験的に導入しました。これにより、高いスキルをもつ職員の要望に応えられるようにしていきたいと考えています。試験運用で出てきた意見などを踏まえ、2019年10月から本格運用の予定です。

我々の業界はある意味「売上のトップライン」が決まっています。限られた原資をどう配分し、職員の満足度・モチベーションにつなげるか?そういった意味でも、能力や実績を評価する制度は理にかなったものと思っています。

さらに、そういった取り組みによって、より多くの方が当社での仕事に興味を持っていただければ、採用にも良い影響が出てきます。利用者の方々にご満足いただけるサービスを提供し続けるためにも、職員が納得感をもって働ける職場であり続けたいと考えています。

(取材・文:鈴木寧々 撮影:新井翔喜)

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