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連載:第9回 人材育成 各社の取り組みを追う

サッカー元日本五輪代表監督から学ぶ、人材育成のヒント【山本昌邦さん×マイナビ土屋裕介さん】

BizHint 編集部 2019年3月28日(木)掲載
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アテネ五輪監督などサッカー日本代表を指導してきた山本昌邦さんと、マイナビの教育研修事業部開発部部長である土屋裕介さんが「人材育成」について語り合いました。山本昌邦さんは「W杯で連覇できた国はない。常に成長し続けることが選手にとっても指導者にとっても必要」と話します。昨今、人材育成の難しさに直面している企業は少なくないですが、どのように人事・管理職・経営者は対応していくべきなのでしょうか。[sponsored by 株式会社マイナビ]

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山本昌邦さん(写真左)

1958年4月4日生まれ。静岡県沼津市出身。国士舘大学在籍時から、アジアユース日本代表、ユニバーシアード日本代表、および日本代表として活躍をする。大学卒業後、ヤマハ発動機株式会社サッカー部(現・ジュビロ磐田)へ入部。95年のワールドユース日本代表コーチ、97年ワールドユース監督、2002年日本代表コーチ、03年アテネ五輪監督など日本代表を指導。その後、ジュビロ磐田の監督に就任。06年にジュビロ磐田退団後は、解説を中心とした幅広い活動を展開。「人材育成なしに組織の発展はない」という考えのもとに数多くの企業向け講演を行っている。

土屋裕介さん(写真右)

株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長

国内大手コンサルタント会社にて、人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に(株)マイナビ入社。研修商材の開発や、毎年5000名以上が参加するマイナビ公開研修シリーズの運営責任者、各地での講演などを実施。2014年にムビケーションシリーズ第一弾「新入社員研修ムビケーション」の開発、リリースをしたのち、商品開発の責任者として、「研修教材の開発」「各種アセスメントの開発」「ビジネスゲームの開発」などに従事。2018年より日本人材マネジメント協会・執行役員に就任。


できない経験を積ませると人は伸びる

土屋裕介さん(以下、土屋): 私はマイナビの教育研修事業部に在籍して、新入社員や管理職、人事の方向けの研修サービスを提供しています。今回はサッカーという競技や、元日本五輪代表監督を務められてきた山本さんのご経験から「人を育てること」のヒントを得られたらなと思っています。

山本昌邦さん(以下、山本): スポーツはわかりやすいですよね、結果が「勝ち負け」という形ではっきり出ますから。そして、勝つためは欠かせないのが「人を育てる」ということ。 指導者たちは「選手をどう成長させるか」をいつも心がけています。

土屋: なるほど。企業と同じですね。では、どうすれば上手く成長させることができるのでしょうか?

山本: 大切なのは「できない経験」を積ませること。成功する人は、たくさん失敗している人でもあるんですよ。失敗を恐れずにチャレンジできる仕掛けをどう作るかが、指導者に問われていると言えるでしょう。

土屋: 最近、「部下をどう教育すればいいか、わからない」というマネージャーの声をよく聞きます。

山本: まず、 指導者が手取り足取り教えているうちは成長できませんよね。教えたことしかできない選手は当然、大舞台でプレーができるわけがない(笑)。サッカーでも会社でも、そんな人は伸びません。 肝心なのは「何をすればいいのか」を自分で気づかせることですよ。

土屋: 具体的に教えていただけますか?

山本: 私は20年近く日本代表、特にユース世代のコーチも務めてきましたが、若い世代の方たちは、精神的な豊かさにとてつもなく飢えていると思います。頭ごなしに指示をすると、抵抗感を持たれてしまう。ですから、自分の意志で決断する方向に持っていくのが大事です。

土屋: まさしく企業でも一緒ですね。昨今、「このタスクを何で自分がやらないといけないのか」ということに納得できないと動けない人が増えているように思います。

山本: 同じですね。サッカーでは選手に「どういう選手になりたいの?」と聞くと「世界で活躍したい」とか「W杯で優勝したい」など、一人ひとり目標を持っています。目標へのルートは、山登りと一緒で複数あるもの。こちらも長年の経験から、最短ルートは知っていますけど、「じゃあ、こうしろ!」とは言いません。途端に「やらされ感」が出てしまうからですね。

土屋: 選手が進もうとしている道が、遠回りの場合もありますよね?

山本: もちろん(笑)。「え、そっちは茨の道だけど……。本当に行くの?」というルートもある。でも、 躓いてもいいから、まずはやってみないと。ダメだったら修正すればいい。

土屋: 会社でも、上司が良かれと思って「これをやれ!」とついつい指示してしまいがちです。部下にもっと自分で目標や仕事の進め方を教えて行動する機会を与えることが重要ですね。

組織の成長にはタレントの発掘が欠かせない

土屋: 組織として成長し続けるためには何が必要だと思いますか?

山本: 第一に、人材育成が欠かせません。監督はピッチでプレーできないように、社長が営業の現場の最前線には立ち続けられませんよね。だから、できる人材を育てなければいけない。そして、タレント発掘も必要です。

サッカーでも世界のトップチームは常にスカウト担当が世界中を飛び回って、小学校の試合から見ています。FCバルセロナのユースチームにいて、今はFC東京でプレーしている久保建英選手もそんな一人。才能ある選手を発掘し、育成して、それをいかに維持するか。それが、トップチームに求められていることです。

土屋: 欧米ではタレントマネジメントの重要性に注目が集まっています。スター社員を選び出して、少しきつめの修羅場を体験させて……後継者育成のサクセッションプランが常に走っている。しかし、日本に目を向けると「不公平だから」という理由で、なかなかスター社員を選べていない企業も多いです。

山本: 公平と平等を整理しないといけません。 権利を行使するための機会は平等に与えられないといけない。とはいえ、力がある人が高い年俸を得たり、チャンスが多く回ってくるのは公平です。 たくさん努力をしてきた人に運が転がってくるわけですから。それに、努力を諦めた瞬間に成長はありません。

強い組織を創るために必要なこと

土屋: 強い組織を作る際には、どのような監督が求められるのでしょうか。

山本: 「今いる選手のいいところ」を最大限引出だせる監督ですね。よく「バルセロナのようなサッカーがしたい」という指導者がいますが……。私はそれに異を唱えたい。「チームには、メッシのようなスーパースターはいないでしょ? それなのにどうやって形を作るの?」という話。つまり、今いるメンバーのいいところを最大限活かして、どのように勝利に導くかです。逆に言えば、 ヨーロッパのトップクラブでもスター選手がぞろぞろいるのに、「スター選手のいいところ」を引き出せずなかなか優勝できないチームも多い。

岡崎慎司選手が所属しているレスター・シティFCは2015-16シーズンにプレミアリーグで初優勝しました。選手の年俸総額で比べたら、名門マンチェスター・ユナイテッドの半分以下だったにも関わらず、です。結局、 今いるメンバーでどう勝つか。それを考えるのが、現場のリーダーの仕事 です。我々指導者は、いいチームを作るのではなく、「強いチーム」を作らないといけません。

土屋: 日本企業の場合、自社の社員の不足している部分に目を向けすぎているかも知れません。育成して厳選しないと、何もできないと思っている節もあります。山本さんのおっしゃってくださったように、今いる社員の特徴・長所に目を向けて、うまく生かすことで「強いチーム」を作らなければなりませんね。

山本: 昔は「俺についてこい!」と示せるのがいい指導者でした。現在ではメンバーの才能や能力をどう活かすのか、調整役的なリーダーがいるチームが強くなっていますよね。繰り返しになりますが、 タレントを発掘し、育成し、いかに維持していくか。そこへの投資も大事です 。リーダーの研修など、「育てる人を育てる仕組み」も必要かなと思います。上司も自分の仕事もあって忙しいと思いますが、人材育成をする仕組みに投資したチームは強い傾向にありますね。

リーダーには求心力が求められる

山本: あとは、選手一人ひとりが「役に立ちたい」という結束力を持っているかどうかも強いチームづくりに関わりますよね。サッカーではベンチ組がいるわけですが、強いチームは22番目や23番目のメンバーも「自分がどう役に立つのか」を必死に考えているチームです。2014年のブラジルW杯、ドイツ対アルゼンチンの決勝、覚えていますか?

土屋: もちろんです。ドイツが延長の末、優勝を勝ち取りましたよね。

山本: あの試合の決勝ゴールは、途中出場のドイツのアンドレ・シュールレというFWの選手のクロスを、同じく途中出場のマリオ・ゲッツェというMFの選手が決めましたよね。3人交代したうちの2人がゴールとアシストに絡んでいる。優勝の立役者は、スタメン組ではなかった。チームが一丸となって、強く結束して、「絶対に優勝する」という執念が産んだ賜物です。

土屋: 確かに。控え組でも腐らずにどうすれば自分が役に立てるかを考えることが大切ですね。ただ、企業では「自分が役に立っている」と実感できていない若手社員の方も多いと思います。

山本: どう「役立っているか」を感じてもらうかですよね。まだ成長途中の選手や、新入社員もですけど、なかなか質の高い仕事はできません。しかし、小さな作業でも役に立っているという存在価値を高めてあげること。私は選手にもよく「あのとき、4番の選手にプレッシャーかけてただろ? あれな、すごいよかったぞ。お前のあの勇気が気迫となって、結局相手はバックパスしただろう。お前が攻撃の芽を摘んだんだよ」と伝えています。 目に見えないようなプレーを褒めることで、見てもらえているという安心感にもつながります。小さな努力を大きく褒めることが大切です。

土屋: ちゃんと部下の行動を観察しフィードバックすることは、企業のマネージャーにとっても欠かせない要素だと思います。

山本: 監督は説明が上手いのではなく、納得させるのが上手くないといけません。本人が納得して、自分の意志で覚悟を持つと、選手はものすごい力を発揮しますから。やる気にさせることが大事なんですよ。

ミーティングのやり方など、確立されたノウハウがたくさんあります。でも、選手一人ひとりの置かれている状態が違うので、マニュアル通りにやってもダメ。W杯の歴史のなかで、他国出身監督のチームが優勝した例はありません。

土屋: それはやはりコミュニケーションの問題ですか?

山本: その通りです。監督は選手のちょっとした表情の変化を感じ取って、「どうした?」とか「さっきのプレーだけど、どう思う?」とコミュニケーションを取らないといけません。しかし、言葉が通じかつ、その国特有の間を理解していなければ、的確なタイミングと内容でコミュニケーションができませんからね。

土屋: そのようなコミュニケーションのとり方に関しては、上司と部下の関係においても同じですね。

山本: 「いい上司」と呼ばれる人は、共感を呼ぶ力があります。 チームのメンバーたちをワクワクさせたり、みんなと一緒に何かを達成したいと思わせたり。彼らに共通するのは、「言葉」を持っていて、一人ひとりの心に火をつけるのが上手いということです。

惹きつけるリーダーは感情マネジメントが上手い

山本: 私は「感情のマネジメント」と言っていますが、一人ひとりの感情が見えないとチームは一体にならない。技術も戦術も体力も、今はデータで可視化できます。目に見えるものはデータでわかるが、大きなことを成すには、感情のマネジメントで心を一つにすることが大事です。2018年のロシアW杯でも、直前の親善試合までバラバラだったチームが、西野朗監督に変わって驚くほど団結して、ベスト16に進出できたのは、まさに、心が一つになるとチームは強くなるという事例だったと思います。

土屋: なるほど。山本さんが監督時代に実践されてきたことはありますか?

山本: 「チームビルディング」ですね。シーズン前にはサッカーとは関係ないアクティビティを行います。例えば、壁登り。4メートルくらいの壁を全員で乗り越えるのですが、難しさ加減が絶妙で、フィジカルエリートの彼らでもみんなで考えて協力しないとクリアできない。一人が踏み台になれば登れますが、最後に一人が残されてしまう。最後の一人をみんなでどう持ち上げるかがカギです。

みんなで協力して達成した瞬間には大いに盛り上がって一体感が生まれる。企業向け研修でも、さまざまなアクティビティをしますが、やはり「みんなで協力しないと達成できない難易度」というのが一体感を生むポイントですね。

土屋: 感情のマネジメント。例えば、トラブルが起きたとき、監督はどのようにおさめるのでしょうか。

山本: 選手同士が練習中に衝突するのはしょっちゅうあります(笑)。それぞれに個性が強いし、野心を持っている選手が多いですから。ついカッとなって取っ組み合いの喧嘩になってしまったり……。周りの選手が引き剥がすのでその場では大きなトラブルにはなりません。私は「ご飯食べてシャワー浴びたら20時半に監督室に来なさい」とだけ伝えます。

彼らも一瞬頭に血が上っても後から冷静になって「やってしまった……」と後悔している。そして、強制送還されると思っているので、泣きながら「本当にスミマセンでした……‼」と謝ってくる。私は周りから内情をヒアリングして情報を得ていますけれど、敢えて「どうした?」と話を丁寧に聞いてあげる。最後に「そうか。ちゃんと乗り越えていけ。明日から堂々とプレーしろ! 代表で活躍しろ、楽しみにしてるぞ!」と言ってあげれば、翌日はすっかり切り替わってプレイしていますよ(笑)。 監督の仕事は決して教えることではない。教えたらそればかりこなそうとします。気づかせてあげる。気づかせるためには、いいヒントを与える・いい質問をするということです。

もちろん、個別にフィードバックしてあげるのが大事です。みんなの前で注意してもいいことはありません。選手のプライドを傷つけるだけです。それに、褒めるのも個別に行います。みんなの前で「お前、キャプテンだしレギュラーとして頑張ってくれ!」と伝えても、野心を持っている控えの選手が「え、俺は!?」と白けてしまいます。

土屋: 監督や指導者の成長も欠かせませんね。

山本: もちろんです。長いW杯の歴史でもここ50年を振り返ると連覇した国は出てきていません。つまり、4年前と同じことをしても勝てる保証はゼロに近い。 選手たちも常に変化・進化・成長していますから、監督が同じままではいけない。自らも変化していかなければなりません。大事なのは、成功よりも成長を意識し続けること。 これが強いチームには必要ですよね。勝つ組織は常に成長していく、常に進化し続けているチームです。

土屋: 企業においても同じことが言えますね。ビジネス環境がめまぐるしく変化する中で、変化をしない企業は淘汰されてしまいます。サッカーチームにおける監督のように、企業においては従業員がそういった意識を持つ必要がありそうです。そもそもそういった意識を持ってもらえるような関係性を従業員との間に築くことも重要になり、そのためには「感情のマネジメント」など、本日お話いただいた内容を企業内でも一つひとつ実践していくことが重要となりそうですね。山本さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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