「課長」に現場の判断を委ねたリーダー3つの決断。V字回復の転換点

「トップがいなくなったら、この会社は回らない」——そんな属人的な体制から抜け出せずにいる経営者・管理職は多いはずでしょう。埼玉県熊谷市で塗装・防水工事を手がける株式会社アケボノも、かつては同様の状態に陥っていました。しかし、2019年の肺がんステージ3の宣告をきっかけに、代表の細田健一さんは組織改革に着手します。そこで選択した3つの施策が、結果的にトップがいなくても回る、現場が自律する組織への変化に繋がりました。そして5年で売上高は約4.2倍、コロナ禍の売上低迷から見事V字回復を果たします。同社が歩んできた改革の軌跡を伺いました。

「トップがいなくても回る組織」は結果論だった

――貴社の売上高は5年で約4.2倍に伸長。現在は毎年130%成長を実現されているそうですね。その成長を支えているのは「トップがいなくても回る」という現場が自律する組織とのこと。

細田健一さん(以下、細田): そうですね。現在は私が現場に意見を出すことは基本的にありません。金額交渉も現場采配も、すべて課長に任せています。ただこうなったのは結果論で、理念の実現のために必要なことをやってきたら、気づけば「トップがいなくても回る」組織になっていただけです。

以前の当社は営業が見積もりから工事の手配、集金まで全部一人でやる、いわば個人商店のようなものでした。ただ価格交渉の許容範囲や外注先の選定・発注価格といった、金銭に関わる重要な決裁はすべて社長が行う、トップに依存した体制だったんです。

転機になったのは、2019年に肺がんが見つかったこと。ステージ3で5年生存率は2割を切ると宣告され、当初は手術不可能とも言われましたが、たまたま治験に参加でき、手術と免疫療法で一命を取り留めました。

――治療の間、会社の指揮系統はどうなっていたのでしょうか?

細田: 当時はナンバー2も、管理職も一切いませんでした。だから自分が倒れている間、現場が何を基準に、誰がどう回していたのか…今でもよくわからないんです。ただ、指示を出すトップがいなくなったことによる組織の思考停止と動揺が、売上に影響していたことは確かです。私が不在にしていた1年で、当時6〜8億円で推移していた売上は5億円にまで急減してしまいました。

病に倒れた経験から「今までの自分は、何も残せていなかった」という強烈な後悔を抱きました。私がいなくなって会社が潰れてしまうようでは社員が不幸になる。その思いから、自分が生きた証を残し、支えてくれた社員に報いるための指針を「企業理念」という形で言語化しました。それが「塗装・防水・大規模修繕を通じ、安心で快適な改修工事を提供する」「全従業員の物心両面の幸福を追求する」です。

企業理念を絵に描いた餅で終わらせないためには、会社をスピーディーに成長させていくことが必須だと考えました。安心で快適な改修工事の提供にも、社員の幸福を追求するために給料を上げたいと思っても、資本がなくては実現できないからです。そのため、どんどん人を採用していますが、課題は増員しながらも生産性を維持・向上させることでした。

ここを突き詰めるため、3つの施策を実行しました。それがV字回復の転換点になっただけでなく、「トップがいなくても回る」現場が自律する組織を生み出すきっかけになったというわけです。

――「3つの施策」とは、具体的にどのようなことだったのでしょうか。