連載:第74回 リーダーが紡ぐ組織力
「指示待ち組織」を覚醒させた、意外すぎる一手。社員の主体性を引き出したリーダーの覚悟
BizHint 編集部
2026年4月9日(木)掲載
トップダウン型の社風のもと、上から言われたことをこなすだけの「指示待ち社員」が多かった組織を根本から改革したのが、三共食品株式会社 代表取締役社長・中村俊之さんです。「社員一人ひとりが、自ら考えて動ける組織にしたい」。その思いを胸に、中村さんは誰も予想しなかった改革に着手します。社内からは批判の声も上がりましたが、中村さんはやり切りました。その結果、現在では現場から自発的な改善提案が次々と生まれ、部署を越えた活発な議論が日常となる組織へと変貌を遂げています。社員の活躍により、昨年度は過去最高売上を更新しました。中村さんが最初に取り組んだ「意外すぎる一手」とは。詳しく伺います。
「指示待ち組織」に危機感。社員の主体性を引き出したリーダー、意外すぎる最初の一手
――中村さんは、2015年に社長に就任されています。当時は、どのような組織だったのでしょうか?
中村 俊之さん(以下、中村): まず、当社は1964年に創業した食品メーカーです。私が社長に就任する前は、創業者である父が指揮を執る、いわゆるトップダウン型の会社でした。 上から降りてくる指示を正確にこなすことが社員に求められていて、自分から意見を言ったり、新しいことを提案したりするような雰囲気はほとんどありませんでした。 極端な話、イエスマンが多い職場だったと思います。上司の顔色をうかがいながら働く社員が多く、自分の頭で考えて動くという習慣がなかなか生まれてこない環境でした。
もちろん、創業期の小さな組織であれば、トップが引っ張っていくスタイルは必要なことです。ただ、 事業が複数に広がり、組織の規模が大きくなっていくと、一人のトップがすべてを指示してコントロールするやり方には限界が出てきます。 スピード感も落ちますし、現場からのアイデアや意見も出てきにくくなるからです。
私は2015年に社長に就任しました。そして、会長であった先代が2019年に退任して以降、大きく改革を前進させることになります。
そこで 最初に取り組んだのが「ハード面」における改革でした。 これは周囲にもかなり驚かれましたし、自分でも少し変わっていると思っています(笑)。ただ、この改革のおかげで 社員の意識は大きく変わり、結果的に一人ひとりの仕事に対するモチベーションや主体性が向上しました。 売上高も右肩上がりで増加し、昨年度は過去最高を更新することができました。まさに、人の成長と連動した結果だと捉えています。
――ハード面の改革とは、一体どのようなことだったのでしょうか?
中村:オフィス環境と服装ルールの見直しです。
以前のオフィスは、グレーの事務机が無機質に並ぶ、いかにも昭和の会社といった雰囲気がありました。それを思い切って、 カフェのような明るく開放的な空間へと生まれ変わらせたのです。 社員食堂には「SANKYOFOODS CAFE」という名前をつけ、シンボルツリーのヤシの木やウッドデッキも設置しました。 部署を越えて社員が自然と集まり、会話が生まれる場所にしたかったのです。 また、社長室もなくし、私自身も社員と同じフロアで働くスタイルに変えました。
「遊び心」をテーマにしたオフィスの一部。リラックスできる空間を意識している(写真提供:三共食品)
中村: 実はこの改装、社員には事前に目的を伝えませんでした。先に説明してしまうと、みんなが身構えてしまうと思って。 まずは空間が変わったという「事実」を体感してもらうことを優先しました。
服装についても大きく変えました。 事務服、営業職のスーツ、工場の作業服、これらのルールをすべて廃止し、オフィスカジュアルへの移行を進めました。 堅苦しい服装のルールを取っ払うことで、 社員の意識がより自由になればという思いがありました。
現在では、会社のロゴが入ったオリジナルTシャツなども提供していて、すっかり定着しています。当時を知る社員に「制服の時代に戻せる?」と聞くと、みんな口を揃えて「絶対に戻れません」と言うんですよ(笑)。
社員は自由な服装で出社している。左は、会社支給のオリジナルTシャツ(写真提供:三共食品)
――なぜ、ハード面から入られたのでしょうか?
中村: これには、私なりのメッセージを込めました。 古いルールや慣習を取っ払って、風通しの良い組織に変えていくんだという「意思表示」です。 長年、上司からの指示を待って動いていた組織の様子を見ていて、 言葉で「会社を変えます」と宣言するよりも、目に見える形で変化を示す方が、よりリアルに伝わると思いました。 誰もが自分の意見を言いやすい、明るく開かれた会社にしていく。その覚悟を、言葉ではなく空間や服装という目に見える形で示したかったんです。
――これらの改革により、社員の皆さんに変化はありましたか?
中村:社内の雰囲気はずいぶん変わりました。 最初は戸惑っていた社員たちでしたが、だんだんと自分なりにファッションを楽しむようになり、オフィス全体が明るくなりました。堅苦しさがなくなった分「お互いに話しかけやすくなった」という声も。 気づけば、部署を越えた何気ない会話が日常的に生まれるようになっていました。
企業は、結局のところ働く人次第だと思っています。どんなに良い設備や仕組みを整えても、働いている人がワクワクしていなければ、良いものは生まれてこない。 社員一人ひとりが「この会社で働くのが楽しい」と感じられる環境を作ることが、お客様へ届ける商品やサービスの質にも直結すると、私は本気でそう考えています。
――大きな改革に、社員の皆さんから反発はありませんでしたか?
中村: もちろん社内から戸惑いや批判の声は上がりました。耳に入ってきたのは、「食品工場なんだから、見た目よりも生産性を高める機械を入れた方がよほど意味がある」「無駄なことにお金を使っている」というもの。気持ちは分かります。 確かに機械を入れれば一時的に生産性は上がるかもしれない。でも、働いている人の意識や組織の雰囲気は変わらない。この会社の未来を考えたとき、まずは社風改革に投資すべきだと考え、断行しました。
「経営理念が言えない」社員の答えに感じた危機感。問い直した、ここで働くことの意味
中村: ハード面の改革と並行して、 社員の意識に働きかけるための取り組みも進めました。
まず取り組んだのが、理念の明確化です。当社には創業当時から「しあわせ作戦」という基本方針に基づいた3つの経営理念がありました。ただ、社員たちは研修で説明は受けるものの、現場に配属された後は、理念について語り合う場も、日々意識する機会も、ほとんどありませんでした。
あるとき、衝撃を受けた出来事がありました。面接の場で「御社の経営理念に賛同して入社を決めました」と言っていた社員に 「入社して5年経つけど、経営理念を言える?」と聞いてみたんです。すると、きちんと答えられない……。そのとき、大きな危機感を覚えました。 「何のためにこの会社で働くのか」「この会社はどこに向かっているのか」、そういった問いに対する答えが理念であるとすれば、それが社員の中に根付いていない会社は、バラバラな方向を向いて仕事をしているということになる。
理念が根付いていない組織では、社員は「何を優先すべきか」を自分で判断できず、すべて上司の指示を待つしかなくなる。 それはまさに、過去の三共食品そのものでした。このままでは、いざという時に踏ん張れない組織になってしまう。その危機感が、私を動かしました。
そこで、理念の浸透を改革の柱の一つに据えることにしたんです。まず、「食べる”わくわく”を世界中に」という、誰にとっても理解しやすいキャッチコピーを新たに作りました。食を通じて世界中の人たちを笑顔にしたい、その思いをシンプルな言葉に凝縮したものです。それを念頭に、 自分たちの仕事がどのように「しあわせ」につながるのかを図解し、要所要所で伝えるようにしました。
また、理念や目標を記載したカードを社員証の裏に入れる仕組みを導入しました。経営理念だけでなく、会社の年間目標や個人の目標も書けるようになっていて、「自分が何のためにここで働いているか」を日々確認できる仕掛けにしています。他にも、毎年の事業計画に経営理念に紐づいた具体的なテーマを盛り込んだり、月に一度の「社内報」や管理職会議で、私自身のメッセージを随時発信したりしています。
三共食品の「みんながしあわせになるしくみ」
――「何のために働くのか」これを明確にすることで、主体性が育ったのでしょうか?
中村: もちろんそれもありますが、 社員が自分の頭で考えて動くためには、判断できる材料をきちんと渡すことも重要です。 そこで月に一回、管理職28名を集めた会議で、 売上や経費、仕入れ、各部署の予算といった数字をすべてオープンにするようにしました。
ここでは、数字の背景にある構造まで説明することを大切にしています。たとえば値上げが必要な場面では、「なぜ値上げをしなければならないのか」を丁寧に伝えます。原料コストの高騰はもちろんですが、毎年昇給すれば固定費は上がります。だからこそ、社員にしっかりと利益を還元していくためにも、値上げは必然なんです。それは単なるお金の話ではなく、当社の経営理念である「しあわせ作戦(関わる全ての人を幸せにする)」を、まずは社員から実現していくため。そういう 会社の構造や理念の背景を皆が納得するまで説明することで、現場でも自信を持って動けるようになると思っています。
ただ、これらの改革を進める中で向き合わなければならなかったシビアな現実もありました。 新しい環境に馴染めず、離れていった社員がいたことです……。 私と同世代の社員であっても、長年「指示を待って動く」という働き方が体に染み付いてしまっていると、自律的に考えて行動する文化への切り替えはなかなか難しい。変わりきれずに退職を選んだ人が実際にいたことは、組織を変えることの難しさとして今でも記憶に残っています。ただ、 時間はかかっても組織は確実に変わっていく。そう信じて前に進んできました。
「頑張りが報われる仕組み」が、主体性の土台となる
――人事評価制度なども、刷新されたのでしょうか?
中村: はい。改めて評価制度の実態を見直したとき、正直なところ愕然としました。 「言われたことをきっちりこなす人」やイエスマンが評価される傾向があって。 自分から考えて動いたり、新しい提案をしたりすることよりも、上からの指示を正確に遂行することが求められていた組織ですから、評価の基準もそこに引っ張られていたのだと思います。
さらに問題だったのは、 評価の基準が明確でなかったこと。 上司の感覚や主観によって判断される部分が大きく、同じ仕事をしていても評価する人によって結果が変わりかねない状況でした。 社員からすれば、何をどう頑張れば認めてもらえるのかがわかりにくい。それでは、主体的に動く意欲も生まれにくいですよね。
そういった状況を変えるために「評価シート」を導入し、 評価基準を明文化しました。誰が見ても一定の納得感が得られる仕組みにしていこうと。 もちろん、営業職のように数字で成果が見えやすい部署もあれば、そうでない部署もあります。そこで、まず各部門長が部員一人ひとりを評価シートで採点し、その結果を人事部が取りまとめた上で最終の評価を決定する流れにしました。 上司一人の感覚に頼るのではなく、客観的に複数の目を通すことで、数字だけでは見えない頑張りや貢献もきちんと評価に反映できる仕組み にしています。評価制度は、社員が「この会社で頑張ろう」と思えるかどうかに直結する部分ですから、ここを整えることは組織改革の中でも特に大切なことだと考えていました。
さらに、年に一度「アワード制度」として優秀な社員を全社員の前で表彰する場を設けました。表彰されることで本人の自信やモチベーションにつながりますし、周りの社員にとっても良い刺激になると思っています。
――1on1も導入されたそうですね。
中村: はい。約2年前から、人事部の責任者が全社員を対象に、年2回実施しています。 目的はただ一つ、社員の本音を聞き出すことです。 仕事上の悩みを抱えていないか、職場環境で気になっていることはないか、そういったメンタル面のフォローに特化した時間にしています。
どんなに環境を整えても、社員が心の中に不安や不満を抱えたまま働いていては意味がありません。制度や仕組みだけでは拾いきれない一人ひとりの声を、きちんとすくい上げる場が必要だと思っています。 「何かあれば言える場所がある」という安心感が、日々の仕事への前向きな姿勢にもつながっていくと考えています。
もう一つ大切にしているのが、 社員への感謝を言葉だけでなく形にして伝えること。 節分には恵方巻、夏にはアイス、ハロウィンにはケーキ、冬にはクリスマスケーキと、季節ごとに全社員へプレゼントを届けています。これには、私自身のメッセージを添えて渡すようにしています。本当は全社員に直接メッセージを伝えたいのですが、拠点も複数あり、かつ120人を超えると言葉を交わすことがなかなか難しくて……。だからこそ、こういった機会を通じて 「皆さんのことをちゃんと見ていますよ」という気持ちを届けたいと思っているんです。

「指示待ち」から「自ら動く」組織への確かな手応え
――さまざまな改革を進めてこられましたが、改めて社員の皆さんや組織がどう変化したのか教えてください。
中村: 改革を続けてきたなかで、 社員の意識が確実に変わってきたと実感できる場面が増えてきました。
わかりやすいのが、工場の現場からの声です。以前は指示されたことをこなすだけでしたが、 今では「この設備は見直した方がいいと思います」「こういう機械を入れれば効率が上がります」といった提案が日常的に上がってくるようになりました。 こちら側も、予算と必要性を照らし合わせながら、積極的に採用するようにしています。現場から声が上がること自体、かつては考えにくいことでしたから、非常に嬉しいことですね。商品開発の場面でも、 社員同士が活発にアイデアを出し合い、企画や試作を繰り返しながら商品化を目指すプロセスが生まれています。
部署間の動き方も変わりました。以前は問題が起きても自分の部署の中だけで処理しがちでしたが、今では 社員が自ら「これは他の部署とも連携した方がいい」と判断し、必要なメンバーを集めてミーティングを立ち上げるようになっています。 課題解決のスピード感が明らかに上がったと感じています。オフィスの雰囲気が変わったことで、部署を越えた何気ない会話も日常的に生まれるようになり、それが自然な情報共有にもつながっているのでしょう。
そして何より手応えを感じているのが、管理職や中間リーダー層の変化です。 管理職たちが、自ら責任を持って意欲的に仕事に取り組むようになってきました。 上の人間が「自分で考えて動く背中」を見せることで、その下にいる課長・主任クラスの社員たちも、責任ある仕事の仕方を身につけ始めています。 指示を待つのではなく、自分で動く。その連鎖が組織の中で少しずつ広がっていることが、今の三共食品の一番の変化だと感じています。
先ほどお話した社員からの反発や、方針の合わない社員の退職など、改革の過程には一筋縄ではいかないことも多くありました。ただ、基本的には正しいと思ったことはやってみる。もし違ったと気づいたら、すぐに直せばいい。 大切なのはスピード感を持って軌道修正できるかどうかで、最初から完璧にやろうとするより、動きながら修正していく方が結果的に前に進めると思っています。
「停滞は衰退だ」というのが私の根本にある考え方です。今うまくいっているからといって、そのままでいいとは思わない。 常に修正しながら前に進み続けることが、会社を良くしていく唯一の方法だと思っています。
食を通じて「豊橋」の良さを世の中に発信したいと開発された「豊橋チキンカレー」とともに
三共食品株式会社
代表取締役社長 中村 俊之さん
1970年生まれ。1996年、父親が創業した三共食品株式会社に入社。飲食店などに向けた加工調味料の製造販売を手掛ける、新規事業を立ち上げた。2015年に代表取締役社長に就任。三共食品は、食品メーカー向けの「原料調味料」や外食産業向けの「加工調味料」の製造・販売を行う会社。売上高60.4億円(2025年度)、従業員数122名(2026年4月現在)
(取材・文:三神 早耶 撮影:岡戸 雅樹)
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