感情労働
日本の社会では、感情をコントロールしなければいけない「感情労働」の割合が増加していると言われています。それはどんな職種のどんな業務に多いのでしょうか。また、感情労働によって起きる問題と対処法にはどのようなものがあるのでしょうか。本記事で解説をしていきます。
感情労働とは?
感情が不可欠となる労働形態を感情労働といいます。具体的にはどのような定義となっていて、どのような特徴があるのでしょうか。
感情労働の定義
感情労働という言葉が日本で使われるようになったのは、アメリカの社会学者であるA.R.ホックシールドの著書がきっかけだと言われています。肉体労働や頭脳労働といった労働の分類に対して、それらとは別の形態として提唱されました。
仕事をするうえで常に自分の感情をコントロールすることが求められ、我慢や忍耐をしたり、明るく振る舞ったりしなければならない働き方が感情労働です。頭脳労働の一種として考えることもできますが、一般的な頭脳労働と比べて精神面での負荷が大きいため、その対策のためにも区別して考えるのが望ましいといえます。
感情労働で求められるもの
感情労働において求められるのは、表層的には表情や仕草として相手に好まれる行動です。一方で、目に見える部分を好ましくするために、自分自身の感情をコントロールしなければいけません。怒りや悲しみといった負の感情を抑え、喜びや楽しみといった明るく前向きな感情を表に出すようにすることが感情労働には求められます。
感情労働が多い職種
一般に感情労働が多い職種は三次産業、つまりサービス業に分類されます。中でも特に多いと考えられている職業を紹介します。
- 客室乗務員(CA)
感情労働という言葉が生まれてから、その代表的なものとして挙げられてきた職業です。その業務においては、乗客からの無理な要求にも笑顔で対応します。 - 看護師や介護士
病院の患者や福祉サービスの利用者またはその家族などは、技術とともに接する職員の態度も気にします。看護師や介護職の人には専門的な知識や体力も必要であり、知識、頭脳、そして感情という3つの労働形態すべてに当てはまる職業です。 - コールセンター(テレフォンオペレーター業務)
クレーム対応などで、なんらかの不満やトラブルを持った人に対応することが多い職種です。表情や仕草が使えないので、他の職種と比べて表現の幅が狭く、それがストレスの原因にもなります。 - 教師や講師
学校教育などでは、子供はもちろん、その親への対応も重要です。近年では保護者からのクレームにも対応することも多く、感情を多く使う仕事の割合が増えています。 - カウンセラー
カウンセラーがクライアントの言動によって感情を動かしていては務まりません。多くの場面で抑制的なコントロールが求められる職種といえるでしょう。 - 接客業
あらゆる接客業やサービス業が顧客である他人と接して事業活動の役割を果たします。そこでは顧客満足につながる態度や仕草が求められ、感情労働の割合が高くなります。
感情労働が増える要因
現代社会は感情労働の割合が多いと言われます。ここでは、感情労働が増えてきたのはどのような要因によるものなのか考え、その社会的背景を解説します。
三次産業化の拡大
農業や林業、漁業などが分類される一次産業では肉体労働の割合が多く、基本的には自然が相手であり、人間関係の悩みやストレスは少ないです。また、製造業などの二次産業は頭脳労働と肉体労働の要素が強く、相手にするのはモノであって、品質や生産性などが課題となります。こちらも対人関係による課題は大きな割合にはなりません。しかし、そもそも人間を相手にしている三次産業、すなわちサービス業では感情労働の割合が非常に大きくなります。
つまり、サービス業である三次産業に従事する人が増えたことで、日本全体での感情労働の割合が高まっているのです。産業の大分類による比率では、昭和15年に29.2%だった三次産業が、昭和50年には5割を超え、平成22年には70.6%にも達しています。感情のコントロールを仕事で求められる労働者がそれだけ増えているということです。
顧客満足度の競争
現代の日本社会ではサービス業はもちろんのこと、他のあらゆる業種において顧客満足度の向上が企業の業績に影響します。特に商品やサービスの質に大きな差が生まれにくい分野では、ライバルに勝つための差別化の一貫として顧客との関係性が重要となり、接客能力が大きな武器にもなり得ます。
接客時の対応が顧客満足度に影響し、それが競合と比較されるとなれば、企業はそこに配置する人員を増やします。つまり産業分類として一次産業や二次産業であっても、組織内に感情労働を行うスタッフが多く必要になってくるというわけです。中には技術職や他の専門職であっても業務として顧客に対応しなくてはいけないケースも出てきます。こうして、顧客満足度の競争が激しくなった結果として、感情労働がさらに増えることになりました。
感情労働で起きる問題
肉体労働や頭脳労働と比べて感情労働に多く発生する問題があります。それはどのようなものでしょうか。
バーンアウト(燃え尽き症候群)
感情労働においては、そのときの気分によらずに人と接することが求められます。維持するためには非常に大きなエネルギーを消耗することになり、消耗しきった先にあるのがバーンアウト、すなわち燃え尽き症候群と呼ばれる状態です。まるで炎が燃え尽きるかのように、仕事に対しての意欲や情熱が無くなってしまうことを意味します。
バーンアウト(燃え尽き症候群)になるのは一生懸命に自分の業務に取り組んだからであり、使命感を持って感情のコントロールをしようとしていたからこその結果といえます。真面目に職務に当たる人が陥りやすく、発生したときの職場全体への影響は小さくありません。単に1人の問題では済まない大きな課題ということです。
メンタルヘルスにおけるさまざまな不調
仕事をしている社会人にとって感情労働が要因となる精神的な問題は他にもさまざまにあります。常に良好な対人関係が必要で、いつでも本来の感情を押し殺して人と接しなければいけません。そこにはもちろん大きなストレスがあり、精神面での疲労はどんどん蓄積されていきます。
感情労働によって精神疲労が続くと、気持ちが沈んで憂鬱な気分が続いたり、自分の未来に対して希望が持てなくなったり、何をするにも億劫になってモチベーションが保てなくなったりします。あるいは、理由もなくイライラして何か物に当たってしまったりすることもあり、いずれの症状もメンタルヘルスにおける不調が顕在化したものです。心療内科などで医師の診断を受ける人も少なくありません。
感情労働の問題への対策
感情労働で起きる問題へはどのような対策があるのでしょうか。問題を未然に防ぐ方法と、問題が起きてしまってからの対処を考えていきます。
ストレス耐性のチェックと向上
個人で出来る対策として、まずは自分のストレス耐性がどれくらいあるかの確認があります。現在ではインターネット上でさまざまなチェックリストが公開されています。無料でできる診断テストを活用して自分がどれだけストレスに抗える力を持っているのか知っておくことが大切です。
受けたストレスに対して回復しようとする力をレジリエンスといい、ストレス耐性の力として1970年代頃から注目されるようになりました。レジリエンスは後天的に高められると言われており、特にストレス耐性が低い人には、日頃から出来る取り組みを実践してみることをお勧めします。
例えば、明るく前向きに考える思考を持つようにすることや、限定的であったり否定的であったりするような思考を持たないことなどがあります。また、運動や食事などのフィジカルな取り組みも含まれていて、つまりは心身ともに健康であることがストレス耐性向上の鍵であることが分かります。
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ストレスの蓄積を未然に防ぐ
そもそもストレスが蓄積されなければメンタルが不調になることもありませんが、まったくゼロであり続けるというのも簡単なことではありません。危険なレベルにまでストレスが溜まらないように、ストレスチェックを行って自分の状況を確認しましょう。こちらもインターネット上にさまざまなチェックリストが公開されていて、簡易的なものであれば数分で済みます。もしストレスの蓄積具合が多いようであれば、早めにそれを解消する対策を打ちましょう。
また、ストレスを蓄積しにくい思考法を身につけることも重要です。そのひとつが アンガーマネジメントです。
アンガーマネジメントとは、ビジネスにおける感情コントロールやモチベーションアップの方法として注目されています。怒りの感情を自分で管理するが可能となるため、怒りによってのストレスを溜めないようにすることができます。
ワークライフバランスとは、仕事とプライベートとの調和のことであり、上手にバランスをとることで健康で豊かな生活を目指します。
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ストレスが溜まったら解消する
感情労働の中でどうしてもストレスが溜まってしまったら、それを解消することを考えます。そのためには、まず、仕事を忘れて他のことに没頭できる時間を作ります。忙しい中ではなかなか難しいかもしれませんが、短くてもそういう時間が持てるかどうかが需要です。ストレスを蓄積しやすい仕事の人は意識を強めに持つのが良いでしょう。
仕事を忘れる時間が出来れば、それを自分の感情が開放されるようなことに使います。スポーツが好きな人であれば思いっきり体を動かすことに、趣味がある人ならば存分にそれを楽しむ時間にします。あるいは、人によっては何もせずにゆっくり休養をするのも良いです。仕事をしているときとは違って感情を抑制しないことがポイントです。
会社や組織としての対策
ここまでの対策は個人単位で考えてきましたが、感情労働が多い職場においてはそれを組織全体で考えなければいけません。精神面での不調を持っている労働者がいると会社としての生産性や収益性に悪い影響が出てしまいます。社員に対しての福利厚生ということだけではなく、事業に資する取り組みとしてとても大切なこととなります。
問題の発生を未然に防ぐためには、従業員全員にストレス耐性やストレス状況のチェックをする機会を作ります。もちろん、そこで問題を抱えた人が分かれば速やかに対策を打ってケアしなければいけません。そして、仕事を離れて過ごせる時間を十分に作り、ワークライフバランスを実現できる職場づくりも重要です。目先の利益にとらわれずに、社員の健康を管理することも企業やその経営者が果たすべき重要な役割です。
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まとめ
- 感情労働とは、肉体労働や頭脳労働と並ぶもう1つの働き方です。自身の感情を管理して、顧客と良好な人間関係を築いていくべきサービス業などに多く見られます。
- 日本ではこの感情労働の割合が増えています。また、それにともない、メンタルヘルスなどにおけるさまざまな問題も増加しています。
- 感情労働で起きる問題は、未然の予防と起きたときの対策が考えられます。個人単位はもちろん企業の組織としての取り組みをもって、この問題の対策をしていくことが必要です。
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