年功序列
年功序列制度とは、勤続年数や年齢を重視して役職や賃金を上昇させる人事制度のことを指します。終身雇用制度や企業別組合制度とともに、日本型雇用システムの一つです。今回はこの「年功序列」について、日本の現状やメリット・デメリット、崩壊すると言われる理由。そして年功序列を廃止した企業の事例まで、幅広くご紹介します。
年功序列とは
年功序列とは、個人の能力や実績を評価し賃金に反映させるのではなく、 勤続年数や年齢を重視して役職や賃金を上昇させる人事制度 のことです。年功賃金や年功序列型賃金とも呼ばれています。
この「年功序列」は、終身雇用制度や企業別組合制度などと並び、「日本型雇用システム」の一つ。年功序列制度は賃金というモチベーションの維持や意識改革に直結する大きな要素に関わりを持つ事から、日本型雇用システムに無くてはならないものだったのです。
【関連】日本型雇用システムの特徴とメリット・デメリット/ BizHint
年功序列が普及した背景
「年功序列」は、戦後の高度経済成長期に導入が始まったと言われています。環境の変化が大きく手探りの企業運営において、多くの人材の安定雇用を見込めるこの制度は企業に受け入れられやすく、一気に普及しました。
企業側としては、長期的に労働力を確保でき、評価がしやすいという点。そして、労働者側は、将来の見通しが立てやすく安定して働けるという点で、双方に大きなメリットがありました。
日本における年功序列の現状
日本ではいま「年功序列」がどの程度導入されているのか見ていきましょう。
2018年の公益財団法人 日本生産性本部の調査「第16回日本的雇用・人事の変容に関する調査」を見てみると、「年齢・勤続給(年功序列賃金)」を導入している企業は、47.1%となっており、その数は全体の半数をきっている事が分かります。
逆に「仕事や役割の重さを反映した給与」である「役割・職務給」の導入が増加しており、調査段階では57.8%と半数を超えています。
【出典】第16回 日本的雇用・人事の変容に関する調査(P9)/公益財団法人 日本生産性本部
経団連の提言にも注目が集まる
経団連の中西会長は、2019年に「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界」と発言しました。更に、同年トヨタ自動車の豊田社長も終身雇用の継続が難しい旨の発言をしています。
さらに、2020年に経団連が発表した「経営労働政策特別委員会報告」では、年功序列をはじめとする日本型雇用が「時代に合わないケースが増えている」「優秀な人材や海外人材の獲得が厳しくなっている」など、見直しの必要性について提言しています。
これらの提言により、今後経団連に加盟している企業を皮切りに、年功序列を見直す企業が増加すると考えられます。
【参考】日本型雇用に大ナタ? 経団連の方針に連合が反論/日経ビジネス電子版
年功序列のメリット
年功序列の労働者側のメリットとしては、年々賃金が増加し、一定期間以上働くことにより上の役職へ出世できることを確約されるという点が挙げられます。では、企業から見た場合に年功序列はどのようなメリットを持っているのでしょうか。
会社への帰属意識が高まる
帰属意識とは、『ある集団の中に自分自身が属し、その集団を形成する一員として存在している』という意識を指す言葉です。
長期に亘り同じ職場環境で仕事を行う事によって、自身が会社を構成する社員の一人なのだという自覚と意識が、自然と高まっていくのです。
社員の連帯感が強固になる
社員の勤続年数が長くなればなるほど、「同期入社」「同じ部署を経験している」などの共通項が増え、社員同士の理解が深まり、連帯感は強いものとなっていきます。
また、役職としての上下関係と年齢が逆転することがないため、上司が年上であることが当たり前となり、指導を受ける側の心理的抵抗も少なく、上司と部下の信頼関係の構築が比較的容易であることも特徴の一つです。
社内教育システムが成り立ち易い
年功序列を導入する事により勤続年数が長くなれば、人材育成の施策とその結果についてしっかりと把握する事ができます。その成果を活かすことで、教育システムを更に質の高いものへと育てていく事ができます。
人事評価が比較的容易に行える
年齢や勤続年数に伴って賃金や役職が上がっていく年功序列においては、人事評価基準と賃金体系が非常に明確であり、その管理も行いやすくなっています。
また、勤続年数が伸びる事により労働者一人一人の適性も詳細に把握する事ができ、企業内における人材配置の適材適所を進める際においても大きな効果をもたらしてくれるのです。
年功序列のデメリット
では、年功序列のデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
人件費の高騰
最も大きなデメリットは、やはり人件費の高騰でしょう。 賃金の上昇を確約している以上、たとえ個人の評価が低くとも、企業の業績が伸び悩んだとしても、一律に人件費は上昇します。近年では、人材の高齢化による人件費の高騰なども社会問題となっています。
目的意識の欠落による“ぶらさがり社員”の増加
ぶら下がり社員とは、最低限与えられた仕事だけはこなすものの、自発的にプラスアルファを生み出そうとする前向きな姿勢は一切見られず、現状維持を第一に考える社員のことを指します。
ぶら下がり社員増加には、求められている以上に努力をしなくても賃金が増えていくという年功序列システムにより、自らを磨き努力する理由や目的意識を持つ必要性を奪われてしまうという背景があります。
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意識の高い若年者の労働意欲が低下
意識の高い若年労働者の中には、労働意欲そのものを失ってしまう者もいます。
積極的に自分を磨き、全てのスキルを用いて全力で仕事に向き合い、業績を上げたとしても賃金が増える事も無ければ出世スピードが上がるわけでもない。ましてや同僚や上司の中には「ぶら下がり社員」となって努力を完全に放棄した人達がいる。
このような職場環境で働き続けるうちに愛社精神は薄れていき、労働意欲が低下していった結果、退職や転職に踏み切る若年労働者が増えていったのです。
事なかれ主義風土の定着
前向きに変化を求めていく姿勢が薄れてしまうのは労働者だけではありません。
大きな失敗さえしなければ年々賃金は増え、先々の出世も約束されているこの年功序列システムにおいて、大きな波風を立てずに過ごしていきたいと考えるのは管理者も同じです。 その結果、革新的なアイディアが生まれても採用される事は少なくなり、社内全体で事なかれ主義が蔓延しやすくなります。
自分がやらなくても誰かがやってくれる、大きなリターンのためであってもリスクは負うべきではない、という日本人に多い保守的思考がこの問題を更に加速させ、根強く定着させてしまったといえます。
年功序列が崩壊する理由
戦後の高度経済成長期を支えた年功序列ですが、近年の社会情勢の変化によって成立条件が次々に崩壊を迎えています。
市場競争の激化に伴う経済の停滞
外食産業による値下げ合戦、100円ショップなど価格均一ショップの定着、ファッションや家電におけるハイクオリティかつロープライスな商品の国内流入と、21世紀に入り市場競争は激化の一途を辿っています。
さらには日本在住の外国人労働者を日本企業に多く採用する事により、人件費の削減が進められ、日本国内での消費の冷え込みも発生しました。 それらの影響によって右肩上がりを続けていた日本経済は長い停滞期へと入り、企業の成長をもストップさせてしまったのです。
労働力人口の減少
労働力人口とは、年齢が15歳以上であり労働するための能力や環境、意欲を持っている人の人数を指します。
第二次ベビーブーム以降減り続けてきた出生率に対して効果的な対策を打ち出すことの出来なかった日本国内では、これからの日本を担っていくべき若い人材の数が急激に減少していきました。
そこに経済の停滞による採用人数の減少やリストラクチャリング(=リストラ)による雇用労働者数の削減、年功序列の影響による労働意欲の低下などの問題が積み重なった結果、労働力人口は増加どころか減少していったのです。
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経験やスキルの陳腐化
IT技術(テクノロジー)の目覚ましい成長やLAN構築やインターネットなど社内を含めたインフラストラクチャー(=インフラ)の整備が進んだ事により業務内容が一変し、これまでの経験やスキルが一気に陳腐化してしまうという現象が起こりました。
当然全ての企業でこの現象が起きたわけではなく、中にはこのITの波を上手く活用し、販路の拡大手段として利用して成功を収めた企業も多く存在します。
しかし、大きな企業になればなるほどIT機器の導入は積極的に進められ、その結果としてこれまで培ってきた経験やスキルの価値を暴落させてしまい、年功序列を行う大前提となる勤続年数に見合う経験やスキルのリターンを受けられなくなってしまったのです。
そのため正当な評価基準を見失ってしまい、人事評価においても困難を極めることとなりました。
注目を集める「成果主義」。年功序列との違いは?
年功序列を成立させる条件が次々に崩壊してしまう中、新たな人事制度として注目を集め始めたのが「成果主義」です。この成果主義とは、一体どのような人事制度なのでしょうか。 そして、停滞し続けている日本経済にどれだけの影響を及ぼすのでしょうか。
成果主義とは
成果主義とは欧米にて古くから用いられていた人事制度であり、成果を評価対象として賃金や報酬、役職を決定する考え方です。その評価方法から、能力主義や実力主義ともいえるでしょう。
労働者にとっては、頑張れば頑張った分だけ賃金や報酬、役職に反映される職場環境ともいえるでしょう。
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成果主義のメリット
今や世界規模で活躍するグローバル企業のほとんどが取り入れているという成果主義。 成果主義が企業にもたらすメリットにはこのようなものが考えられます。
- 労働者のモチベーション向上
- 企業の生産性や業績の向上
- 適切な人件費の配分が可能に
- 即戦力となる優秀な人材が集まる
- 従業員の自主的な学びやスキルUPに繋がりやすい
成果主義のデメリット
年功序列と比較した際に多くのメリットを感じる事が出来る成果主義ですが、当然デメリットも存在します。 成果主義の導入をより効果的なものとするため、しっかりとデメリットについても把握しておきましょう。
- 評価制度や評価基準の策定の難易度
- 個人主義に走ってしまい、チームが崩壊する恐れ
- 目先の評価にとらわれて、中長期的な視点を持ちづらい
- 定着率が悪化する可能性がある
年功序列と成果主義の違い
年功序列と成果主義の違いを表にまとめました。参考にどうぞ。
年功序列 | 成果主義 | |
---|---|---|
特徴 | 勤続年数や年齢を重視して役職や賃金を決定 | 成果を評価対象として賃金や報酬、役職を決定 |
メリット | ・会社への帰属意識が高まる ・人事評価が比較的簡単 |
・会社の業績向上に繋がりやすい ・労働者のスキルUP・モチベーションUP |
デメリット | ・人件費の高騰 ・意識の高い従業員の労働意欲の低下 |
・評価が難しいケースがある ・個人主義に走ってしまうリスク |
どちらを選ぶのかは企業次第
年功序列と成果主義、それぞれにメリット・デメリットがあります。「年功序列は崩壊」と言われていても、企業によっては年功序列が最適な場合もあるのです。大切なのは、自社にとっての最適解はどれかということ。
ここでは、完全年功序列を貫く企業の記事をご紹介します。
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年功序列を廃止した企業例とその理由
年功序列の制度を廃止した企業と、その理由について解説します。
ソニー株式会社
ソニー株式会社では、2015年度に人事評価制度の再編が行われました。大きな変更点としては、管理職の入れ替え・半減、年功序列要素の完全撤廃と、「現在果たしている役割もしくは割り当てている役割」のみに基づき社員の評価を行う「役割給制度」の導入が挙げられます。
背景には、テレビやスマートフォンなどのエレクトロニクス事業の縮小と、年功序列による人件費の高騰があります。制度改革前は一度管理職レベルに昇格すると降格する仕組みがなく、結果として正社員の4割超が管理職という状態でした。電機部門が低迷する中、高コスト体質を維持できないと経営陣が判断し、改革を断行しました。
【参考】ソニー、管理職比率2割に半減 年功要素を完全撤廃/日本経済新聞 電子版
日産自動車株式会社
日産自動車では、カルロス・ゴーン氏が社長兼CEOとして就任していた2004年に、年功序列の雇用・報酬システムから成果報酬システムへと移行しました。目的は、社員の業績向上への貢献を公平に評価するためです。
パナソニック株式会社
日本型雇用を日本で初めて生み出したともいわれるパナソニック株式会社ですが、2015年に賃金における年功序列要素の廃止を発表しました。「2019年3月期に売上高10兆円」という目標達成を目指した組織力の強化が制度改正の目的と考えられています。具体的には、管理職の賃金の年功要素廃止と、賃金の基準を職能資格ではなく、業務における役職や役割に関する等級で決まるようになりました。
【参考】腰上げたパナソニック 人事・賃金を10年ぶり改革/日本経済新聞 電子版
まとめ
- 年功序列は戦後の高度経済成長を支える柱の1つだったが、近年ではその成立条件が崩壊してきている
- 年功序列には、会社への帰属意識の醸成や、連帯感、人事評価が容易に行えるなどの企業側メリットと、将来の安定が保証されるなどの人材側のメリットがある
- 年功序列と相反するのが「成果主義」で、これには労働者のモチベーションの向上や、優秀な人材の獲得、そして業績の向上など、多くのメリットがある
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